3-2 激しい争奪戦
◆
結局、私たちは都成勝利というウサギのシーカーを、良いように利用するしかなかった。
主に囮か、陽動だ。
風子姉さんと私は、もっと別のやり方があるかも、と提案したけど、朝ちゃんと夕ちゃんは、これも勉強、と言って譲らない。
結局、かわいそうに思った風子姉さんが、私と一緒に行動するように、都成さんに指示を出した。
何度目かのビッグゲームで、私と都成さんの二人だけで、身を潜める場面があった。
「明日羅って結成して長いのか?」
「まず風子姉さんが覚醒して、次に朝ちゃんと夕ちゃんが覚醒して、それで組んだって聞いているから、三年くらいです」
「それって長い?」
「よく知りません」
どうもまだ都成さんは初心者意識が消えないらしい。
もっと誰かが何かを教えてあげればいいのに、と私は思うけど、なぜか私がそうしようとは思わなかった。
彼のことが嫌いとか、話したくないとか、そういうんじゃないんだけど。
「明日羅はピースを貯めている?」
「ええ、それは、ビッグゲームの最大の意味ですから」
夜の闇の中、路地と通りの境界で、都成さんがこちらを振り向いた。
「何か願いがあるのか?」
返事に困る話題だった。
朝ちゃんと夕ちゃんは、絶対に願いは叶うし、叶えなくちゃいけないと、折に触れて口にする。まるで自分たちを叱咤するように、強い口調で。
私はその二人を前にすると、何も言えなくなる。
願望を叶えるために邁進する。それもビッグゲームの楽しみ方だとは思う。
ただ、そんな楽しみ方が、長く続くだろうか。
私はもっと純粋に、この常識や絶対の法則が無視される世界で、自分の限界を超えて、ビッグゲームに参加したいと思っている。
「嵐さん? 何を考えている?」
「別に」
意識が現実に戻った。ピースが近づいてくる気配。あとは二人との呼吸だ。
私が緊張したからか、もう都成さんも黙っている。
今だ、と思った時、私は路地から飛び出した。
茶色い犬のシーカーが、仲間だろうに二体のシーカーと、ピースを確保して向かってくる。この構成は、ディオニソスというファミリーだろうか。
構わずに、私の体が黒猫だけの特殊能力で、体を一時的に影に変え、瞬時にピースの横手に到達。
腕の一振りで、いつも通りピースを掠め取る。
ただ、その瞬間を狙われてもいたようだ。
ピースを持っていたシーカーの護衛の一人、白猫のシーカーに組みつかれる。空中でバランスが崩れ、ピースが手元から離れる。
もう一人の護衛のシーカーが、ピースを手に取り、離脱。
が、そうはさせない。
隠れていた場所から飛び出した風子姉さんが、もう一度、ピースを奪取。
私はまだ相手にしがみつかれて、自由がない。
風子姉さんが二人に追われながら走り始める。
路地から出てきた都成さんも追っていくが、とても追いつけそうもない。
一人と二人の早さ比べ。
そうなるはずだった。
はずだったのに、乱入してきたものがいる。
三人組の黒犬のシーカー。ハウンドだ。
一人ずつが風子姉さんの追跡者を排除し、三人目が風子姉さんに襲いかかる。
ピースの奪い合いはあっさりとハウンドに軍配が上がった。一対一になったのはほんの短い時間で、すぐに三対一になったからだ。
ハウンドは奪い取ったピースを手に、撤退していった。
「やられたね」
地面に叩き落とされ、まだしゃがみこんでいる風子姉さんが、目の前に降り立った私に言う。
「惜しかった。どこかで見られていたね」
「あれは私たちのやり方を真似されたのよ、嵐ちゃん」
「でも、正攻法じゃ勝てないよ、風子姉さん」
「その辺りに、このビッグゲームの面白さがあるのかもね」
風子姉さんは、双子の姉とは違って、たまにビッグゲームを面白がる、楽しもうとする意図が見える。双子はいつも、母さんを生き返らせることを口にするから、正反対だ。
私たちが黙っていると、そこへやっと都成さんがやってきた。
「奪われたの?」
「まあね。あなた、もっと訓練した方がいいわよ」
風子姉さんの言葉に、都成さんが不思議そうになる。風子姉さんが補足した。
「シーカーの運動能力その他は、ピースを手に入れて吸収すると格段に向上するけど、それとは違う形で、能力が高まる場面がある」
「レベルアップ、みたいなものですか?」
「それほどはっきりしないわね。私たちはそれをステップとか呼ぶわね」
ステップ? と都成さんは首を捻っている。
彼はまだ気になるようだったけど、そこへ朝ちゃんと夕ちゃんが戻ってきた。
あんたは何をしていたのよ、とか、役立たずね、とか、うすのろ、とか、ボンクラ、とか、双子は徹底的に都成さんを詰り始め、風子姉さんは苦笑いで、当の都成さんは不服そうだったけど、黙って聞いていた。
どこかで鐘が鳴り始める。
「じゃ、帰りましょうか」
双子はまだ都成さんを責めたかったようだけど、風子姉さんが無理やりに引き離した。
家に帰る途中で野性解放時間は終わり、四人で雑談をしながら家に帰った。
順番でお風呂に入り、出てきて、明日の朝のためにお米を研いで、炊飯器にタイマーをセットした。
これで一日が終わる。
部屋に戻ると、風子姉さんが勉強机で、ラップトップのパソコンのキーボードを叩いている。
おやすみ、と声をかけて、私はベッドに横になった。
ビッグゲームのことを考えているうちに、自然と眠っていた。
(続く)
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