2-4 楽しまない方が損をしている
◆
春夏高校の屋上で、私と美澄、そして都成くんは自然と毎日、お昼ご飯を食べるようになった。
都成くんはいい加減、ピースを獲得することもできず、美澄はたまに手に入れてくる。これは一人きりのシーカーとしては特筆すべき技術を示している。
その日、屋上で三人で食事をしていると、二年生の女子生徒が二人、やってきた。
そっくりの外見をしていて双子だと一目でわかる。
それに、彼女たちのことを私と美澄はよく知っている。
「先日はどうも」
機先を制するように、美澄がそういうと、全く同じような動作で二年生の双子女子はこちらを斜めに見た。
「あなたたち、ペーパーバッグって、やる気ないのに、美味しいところだけ掠め取っていくわね」
双子は鳳四姉妹の次女と三女で、片方が朝凪、片方が夕凪という名前で、鳳四姉妹は、そっくりそのまま明日羅というファミリーなのだ。
つまり彼女たちもシーカーで、ビッグゲームの参加者だ。
「これでも真剣よ、お二人さん」
私と美澄、朝凪と夕凪はかれこれ二年ほどはお互いを認識しているので、自然と砕けたやり取りになってしまう。
ちなみに、鳳四姉妹は四人ともが美少女であることでも有名で、むしろ現実、ビッグゲームではない場所では、美人四姉妹としてこそ一部で有名なのだ。
「そちらのウサギさんはあなたたちの仲間?」
急に双子の片方が都成くんを見る。美澄が眉をひそめるのが雰囲気でわかった。
「仲間じゃないけど、もしかして明日羅でスカウトする、ってこと?」
「私たちは反対だけどね」
「姉さんが気にしている」
双子の言葉に、へぇ、と美澄がつぶやき、ちらっと都成くんを見る。
「あんた、誘われているけど、どうするの?」
「へ?」
困惑したように都成くんがつぶやくが、もう誰も何も言わず、沈黙がやってくる。
シンとした場に、美澄が「お好きに」と言葉を投げかける。
「明日羅が身内以外を招き入れる理由がわからないけど、あのお姉さんのことだから、何か理屈があるんでしょう。別に止めないから、好きなようにスカウトすればいいわ」
「そうさせてもらうわ。邪魔したわね」
「じゃあ少年、また会いましょう」
全くそっくりの動作で手を振って、双子が去っていった。
「良かったわね、都成くん。行き先が決まって」
ハァ? などと都成くんはまだ不審げだった。
その日、学校が終わって家に帰り、いつも通りに過ごし、夕食をとり、二十二時には外へ出た。
ゆっくりと通りを歩き、駅に近づくと例のラーメンの屋台が見えた。やっぱり客は一人もいない。
横目をそこを通り抜けた時、ちょうど駅の改札から一人の女性が出てくるのが見えた。
それは私と美澄をつなぎ合わせた、元シーカーの女性だった。
恩人でありながら、もう住む世界の違う人。
顔を合わせるのがどこか気まずいので、素早く商業ビルに入る。エスカレータで上の階に登りつつ、心がどこか騒めくのを感じ、じっと足元を見て、集中した。
本屋ではいつもの経路をたどり、今日は何も買わなかった。
二十三時前に外へ出て、鐘が鳴り響くと、人の姿が消える。
素早くビルの屋上に上がり、ピースのある方向を探す。
今日は珍しいことに三つが発生している。シーカーたちが三箇所に散らばり、ピースを奪い合う。やはりハウンドが強力で、一つは確保しそうだ。
残り二つのうちの一つを、明日羅が狙っているのが見えた。双子が突撃し、ピースを確保したばかりの三人組のシーカーから、獲物を奪い取る。
追撃を防ぐために、明日羅の長女が足止めの役を果たす。四女が要注意だが、姿を見せない。後詰かもしれない。
美澄は何をしているかな、と思っていると、ハウンドとも明日羅とも違う三つ目のピースを狙っている。一番シーカーの数の少ない場所だ。
結局、美澄はピースを確保し、私たちのケージへ向かい始める。
私も建物から降りて、ケージに向かう。わずかの差で、私が出迎える形になった。ケージの中に入る。
追撃を振り切ってケージに飛び込んだ美澄が倒れこみ、私は反射的に支えた。ピースが足元をゆっくりと転がる。
「お疲れ様」
声をかけると、ありがとう、と笑って美澄がピースを確保し直す。
「私の力の強化に充てるけど、それで良いわよね?」
「あなたが一人で手に入れたんだから、それが当たり前でしょ」
「深雪って、何が楽しくてビッグゲームを続けているわけ?」
それはまた、核心をつく質問だった。
「眺めているだけで楽しいのよ。悪い?」
半ば誤魔化しだったけど、美澄は追及しないでいてくれた。
彼女の手の中でピースの光の玉が解け、美澄の体に染み込んだ。目の前で手を握ったり開いたりして、どこか嬉しそうに美澄が笑う。
「楽しそうね」
思わず口にすると、当たり前じゃない、と美澄が笑顔をこちらに向ける。
「こんな面白いこと、楽しまない方が損しているわよ。違う?」
「その通りだと思う」
どこかから鐘が鳴り始め、野性解放時間の終わりを告げる。私と美澄はケージを出て、ゆっくりと家の方へ歩き出した。方角的に、私の家の方が近い。
鐘が鳴り止み、人の気配が復活する。現実に戻ったのだ。
「じゃ、またね、深雪」
「うん、またね、美澄」
私たちは夜の住宅地で手を振り会い、別れる。
家に帰るとリビングに明かりがついているのが、外からでもわかった。
でも私は無言で中に入り、玄関を施錠し、自分の部屋に上がった。着替えてお風呂に入るために一階へ降りると、リビングの明かりは消えていた。
私は素早くお風呂に入り、少しだけ読書して、眠った。
(第2話 了)
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