第145話 対悪魔戦 3
※前書き
教習所行ってました。失踪じゃないんですよ。無事に卒業したので投稿再開します。
※ ※ ※
「なぁオリビア。逃げても良かったのに、どうして闘おうとしたんだ?」
ララはオリビアの顔を覗くように目を合わせ、そして訊ねた。それは疑問と言うよりも意思を確認するための問い掛け。
そんなララの質問に、オリビアは視線を下げて答えた。
「だって......私が闘おうとしないと、ララは来てくれないから......」
「まぁね。俺にとっちゃオリビア以外どうでもいいから」
さも当然のように、ララは呆気からんとした態度で言ってのけた。
それは本心であり、この場にいるオリビア以外の人間が全員死のうとララが動き出す事は決して無い。
ランドアとフィージャスには多少の縁があるものの、2人のピンチに態々現れ助けようとはしないだろう。それはララが2人を一端の冒険者として見なしているから。非力な者達ならともかく、力を持った冒険者ならば守るべき対象とはなり得ない。
言うなれば、
この場にやって来た理由はただ1つ。オリビアに呼ばれたから。ただそれだけである。
「ララ。悪魔達が現れた要因は分かる?」
「あぁ、分かるよ。王都中に悪魔を呼び出す門が5つ設置された。その内の1つは既に壊したけど、残り4つはまだ健在。それらから悪魔がうじゃうじゃ湧いて来ている。王都はパニックだな」
「そんな......嘘でしょ......?」
「残念だけど事実だよ」
ここだけではなく、この王都中に悪魔が出没している。それを聞きオリビアは息を飲んだ。彼女が想定していたよりも大きな事件が起きている事が判明した。
理解が追い付かない。まだ冒険者として未熟なオリビアにとって、処理出来ない状況だった。
この王都には凡そ10万の人間が暮らしいている。その大多数が自衛手段を持たない一般市民。悪魔に襲われれば手も足も出ず、虐殺される未来しか無い人間が多く暮らしている。
今起きている事。これは未曾有の事態と言えるだろう。
流通が盛んな王都という事もあって冒険者も多く居る。とは言え、中級悪魔に太刀打ち出来る者が何人いるか。Bランク──冒険者には上からS,A,B,C,D,E,Fという階級制度が設けられている──のデルフィアでさえ戦うだけで精一杯。彼女以上の強さを持つ冒険者の数は限られている。
また、悪魔は
この王都に固執した理由が無ければ、冒険者達は保身を優先させ逃走を選ぶ筈だ。下級悪魔だけなら倒せる力はあるだろうが、メリットよりもデメリットの方が大きいのは明らか。根無し草である冒険者なら、直ぐに他の街へと移動することも容易いだろう。
それを考慮して、一体何人が悪魔を討伐出来るのだろうか。その数はきっと多く無い。少数だけでこの事態を終息に導けるだろうか。
緊急事態を報せてからそれ程経っていない。その為まだ負傷者も少ない筈だ。湧いて来ている、というララの言葉が事実なら時間が経てば経つほど状況は悪化する。このまま放置すれば阿鼻叫喚となってしまう。
この場に居る悪魔を倒すだけでは意味が無い。そう理解したオリビアは考えることを辞めた。
「ララ、何とか出来ないの?」
もう、ララに縋る他無かった。自身の手に余る事態だった。丸投げした己を恥ながらも、
「さぁな。やってみないと分からない。けど、俺はオリビアに命じられたら何でもやるよ。どんなことでも確実にやり遂げてみせるよ」
微笑みながら答えたララ。その瞳、表情、声には確固たる自信と意志が感じられた。仰々しいその言葉に嘘は無い。そう思わせる態度だった。
そんなララを見ると、1人焦る自分が滑稽に思えた。これほど頼りになる存在がいながら、何を焦っているのだろう。その思考にオリビアは至った。
焦燥と不安が無くなると、ある感情が胸を占め始めた。初めはふつふつとした小さな泡立ったものが、次第に大きなものになっていく。それは抑えるべき感情じゃなかった。今直ぐに吐露すべきものだった。
思いのままにオリビアが口を開いた。
「ねぇ、ララ」
「なんだ?」
「私ね、段々と腹が立ってきたんだ」
「へぇ?」
オリビアの言葉にララは嬉しそうに口角を上げた。
「なんで部外者に私の学校が襲われているの?私の暮らす場所が襲われているの?私は殺されかけた。私の先生も傷付いた。もう、嫌だ。許せない」
心を占めた怒り。それをそのまま吐き出した。
「こんな考えは傲慢かな......?」
「いーや。俺は寧ろその考えの方が好きだよ。皆を守りたい、とか言われるよりも俄然やる気が出てくるね」
ララはオリビアの全てを肯定する。オリビアが「皆を守りたいから」と言っても、きっとそれに従うだろう。嫌な顔一つせず、望む結果を齎してくれる筈だ。
ただ、それはオリビアの願いではあるが、他者の為という方が大きい。それではやるせなさが残るというもの。
ララの発言に嘘は無かった。本心そのものだった。オリビアの為に動きたい。それを心から思っているからこそ、オリビアの我儘は嬉しかったのだ。
「ならどうしたい。俺はどうすればいい?オリビア、指示をくれ」
ララが両手を広げて指示を仰ぐ。どんな命令だろうと受け止める。それを体で示していた。
「ララ。命令だよ──王都中の人に害なす悪魔を全て、殲滅して」
オリビアは静かに、されども力強く言葉を命令として口にした。ララを見つめる目は幼さと不甲斐なさを消失させ、自信とやる気に満ちている。
ララの表情が恍惚としたものとなる。両腕で体を押さえなければ震えが止められない。
これが命令だ。
従魔たる肉体が喜んでいる。身体の奥の底から沸き上がり出る高揚感。それはかつてないほどの昂りだった。抑え込もうにも
なんとしてでも叶えなければ。そう思わせる程の使命感。命を賭してでも果たしたいと感じさせる。
たった一言。オリビアの一言だけで、悪魔の討伐がララの行動における優先順位、その一位に成り上がった。
それは命令を下すオリビアの、従魔士としての才能だった。今まで蕾であったその才能が開花したのである。
「了解した。ご主人様の仰せのままに」
全ては
※ ※ ※
中級悪魔と交戦を続けているデルフィア。炎で作り上げた鞭を踊らせ、右手に握る剣で応戦する。彼女の胸中には焦燥と疑問が入り交じり暴れていた。
悪魔がオリビアに襲いかかった。成長したとはいえ、今のオリビアでは下級悪魔に遅れをとってしまう。
直後に響いた謎の轟音。その時点からこの場を占めていた重々しい空気がぶち壊された。絶望的な雰囲気は失せていた。
オリビアはどうなったのか。あの音はなんなのか。気になる事はあるものの、意識を目前の悪魔に集中させ続けているため確認出来ない。しかし、オリビアが無事だと直感していた。
「ぐっ......!」
『貴様との遊びはもう飽きた。終わらせてやろう』
体力の限界を迎えて膝を着く。魔力の維持も出来なくなり、炎の鞭は失せていた。
肉体は悲鳴をあげている。既に勝負は決していた。腕も足も、動かすだけで激痛が走る。
デルフィアは半ばで折れた剣を地面に落とした。そして大剣を構えた悪魔を睨む。
最期に一太刀を──
デルフィアは昔から愛用している短剣に魔力を貯め始めた。ただでは死なない。それが元冒険者としての意地だった。
その時、彼女の耳に、パチンッという乾いた音が届く。
※ ※ ※
オリビアに襲いかかった悪魔へ魔法を撃っていたフィージャスは、何が起きたのかをその目で見ていた。突如として現れたララが悪魔の顔面を引っ掴み、地面に叩き付けたのだ。一撃で悪魔を霧散させたララの登場に驚き、フィージャスは動けなかった。
「ランドア......ララちゃんが、ララちゃんが来てる......」
「ほ、本当か!?なら、この状況もどうにか──」
ボソリと呟かれたフィージャスの言葉に、満身創痍なランドアが反応した。悪魔2柱との戦闘は厳しく、劣勢にあったのだ。
ランドアが言葉を紡ぐ最中、1つパチンッという軽い音が響いた。その直後に2人の視界が揺らぎ、違和感を覚えるより先に景色が変わった。
「──なっ、ん!?」
「い、移動したの!?」
「何が、起きた......?」
ランドアとフィージャスの横にはボロボロになったデルフィアが居た。離れた場所にいた3人が1箇所に集まっている。
デルフィアが肩で息をしながら周囲を見渡す。
「大丈夫ですか、フィア先生!」
「オリビア......?何が起きたんだ......?」
傍に寄ったオリビアが彼女の身を心配する。多少の効果を望んで回復魔法を施した。
体が少し軽くなり、オリビアの手を借りてデルフィアは身を起こした。
「悪魔は......?」
「もう、大丈夫です。フィア先生は休んでください」
視線を悪魔の方向へ移す。そこには長い銀髪を揺らすララの背中が映った。たった1人で残る3柱の悪魔に歩み寄っている。
その背は大きく見えた。
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