俺は、王道ファンタジーを望む

第7話 衝撃的な情報 2

　ハァハァハァハァ...急に背筋が寒くなってきやがった。そうか、最下級魔物にして食用なのか。お菓子なのか。あれか、スライムゼリーか。美味しく戴けるのか。

　嫌だなぁ。今世の死因が人間に踊り食いされました、とか。最悪だよ？弱いうちは人間見たら逃げよっかな...。今のままだと子供にも負けそうだもんな。甘味大好きなお子様に追われたら、直ぐに追いつかれてパク...って、冗談じゃないぞ。流石に地面に落ちているものは直接食べることはないだろうけど、それってアレでしょ？捕まえられて、洗われて、出荷。お口へゴー！胃袋へゴー！あの世へゴー！！でしょ。アウトだって。この世界のスライムの幼体が甘味になっているなら、スライム狩りとかも行われたりするのかな。わりと積極的にやりそうじゃない？スライムって、分裂期みたいのありそうだしさ。リトルベイビーコアスライム大量発生につき、旬のスライム狩りが〜〜とか。恐ろしくて堪らんわ。イチゴ狩りされる気分だよ。これは、なるべく早く強くならなきゃな。せめて成人男性より強くなれれば、甘味として追われることは無くなるだろう。強くなる理由ができたってもんだ。これを動機にこれから精進を──

　思考中、前方からの衝撃。

　俺は後ろにぽんぽんと跳ね飛びながら、何事かと辺りを見渡す。すると、目の前にはベイビーホーンラビットがしたり顔で立っていた。

　あ、あの野郎...！よくもやってくれたなぁ...！お前のことをすっかりと忘れていた...っ！

　衝撃的な情報を見てしまったため、意識から奴が完全に消えていた。これはやらかした。あまりに襲いかかってこないものだからと、油断していた訳では無いが、戦闘中によそ見をするとは余裕だな、って奴をした上で突撃を喰らってしまった。駄目だね、俺は不器用なんだからさ。しゃんと前を見ときゃよかった。

　突撃を受けた感じ、痛みというものは無かった。しかし、物理攻撃無効とかそういうものは無いらしく、何か体力（HP）みたいなものを削られた感覚がある。

　まぁ、良い経験をしたという事にして、そろそろ奴を殺るか。なんか、本当にアイツのしたり顔がウザイ。どーだ、見たか。へへん。的な言葉が浮かんで見えるのよ。ムカついてくるなぁ。

　仕方なく俺から攻撃を仕掛けることにしよう。と言うか、俺は奴が持つスキルと奴の低ステータスを知っているから、奴がもう一度突撃するまでに時間を要することを看破しているのだ。つまり、次は俺のターン。見せてやるよ、最下級魔物の意地ってやつをよォ！

　俺は奴がしたように《疾駆》を発動させる。奴は突撃をする際、《疾駆》で駆け寄り《体当たり》を発動させているのだ。きっと。でなければあの速度は出ないだろう。まぁ、躱せるくらいに遅かったけど。

　あまり期待はせずに《疾駆》による加速を行いベイビーホーンラビットに近寄る。期待通りに、そこまで速くなっている訳では無い。気持ち速くなったかなぁ、程度である。魔力の無駄だ。けど、まぁ、意趣返しみたいなのをしたかっただけだし、使えれば良かったのよ。因みに《体当たり》は使用しない。だって、俺にはあの硬い角なんてない、スライムのぷよぷよボディだ。やっても大した威力にならないからね。《溶解液》ぶしゃーしますよ。

　奴は俺を見ていた位置から動こうとはせず──と言うより、動くことが出来ず、俺との接触を許してしまう。接触出来れば俺の勝ちだ。直ぐさま奴に絡みつき、さっきやったみたいに一点集中の《溶解液》で心臓付近を溶かしてやる。

「ピュイィィーーッ！？」

　フハハ。ざまぁねぇな！さっきは油断して攻撃を受けたが、俺をそんじょそこらのリトルベイビーコアスライムと思ったら大間違いだぜ！逃げるだけが能じゃないのよ、俺はよ！

　ってことで、はい、さようなら。

　そのままベイビーホーンラビットは叫び声を数分上げた後、力尽きて崩れ落ちる。俺はその死骸を骨一つ残さず食す。食わないけれど、食す。溶かして取り込んでいるだけだもんね。

　ベイビーホーンラビットの死骸を平らげると、ピロリンという電子音がまた聞こえてきた。レベルが上がったようだ。流石は最下級魔物だよね。レベルが上がりやすいったらありゃしない。楽でいいけど。

〈進化条件が整いました。進化が可能です〉

　と、謎の声が聴こえてくる。が、今はその謎の声の正体は気にしない。こういうのはあれだ。天の声とか、アナウンスとかそういうもの。とにかく今必要な事は、彼女（もしくは彼）のセリフの内容。

　さぁ、進化だ！

〈現在可能な進化先を提示します〉

『リトルコアスライム:G』

　......あ、あれ、あんれぇ？そ、それだけ？他には？ねぇ、他にないの？『リトルコアスライム』って、"ベイビー"が消えただけじゃねーかっ！幼体から成体へと変わったって？それでも"リトル"から脱せてないんだけどーっ！

　ま、まぁ、まだ二段階目だし？思っていたより早くレベルも上がったし、進化も出来たし？さっさと次の進化しちゃえばいいってことっしょ？楽しょーじゃん。

　一択しかないし、迷い躊躇いが生まれる訳もなく。

　『リトルコアスライム』に進化だ！

〈『リトルコアスライム』へと進化しました