第6話 フリーマーケット会場での最終決戦

 優しい陽だまりが、あちらこちらに発生して、先生方が好みそうな一日の始まりだった。私は猫山先生をリムジンに乗せて、約束の場所へ車を走らせた。もちろん相手は同僚の女性隊員と、その同居人のローズ先生だ。やがて数字の "7" が大きく描かれた看板が見えてきて、その下に、彼女とリムジンに乗ったローズ先生が立っていた。私は路肩に車を停め、車を降りた。

 私はローズ先生のリムジンと彼女が用意した、大きめのスーツケースを受け取り、後ろのハッチに乗せた。彼女は助手席に乗り込み、いよいよ最終決戦の場へと向かった。


 現地に着いた私たちは、早速準備を始めた。とは言っても、彼女が猫山先生とローズ先生の面倒を見て、私一人で準備したのだが、初めてここへ来た時よりかは、猫山先生を気にしなくて良い分、ましだった。彼女が用意したスーツケースには、不用となったローズ先生愛用のグッズの数々が入っていた。どうやらフリーマーケットと聞いて、自分もあやかろうと考えたのだろう。とりあえず、ややこしいので、私の持ってきた商品は右に、彼女が持ってきた物は左にと、分けて置いた。しかしそもそもが商品の傾向が違うので、なんの違和感もなく、種類ごとに陳列された形になった。

 この日は先日のそれとは違い、名セラピスト二名が構えている。集客は放っておいても、いやおうなしに押し寄せてきた。

 お客さんたちは私の持ってきた商品には目もくれず、可愛らしいローズグッズに寄っていった。これじゃあ断捨離の意味がないし、なによりと猫山先生のプレミアム缶詰が買えないじゃないか。そう思っていたのだが、彼女はどこでそんな接客を覚えたのかと思うほど、私の商品を売り込んでくれたのだ。趣味が悪いと言われればそれまでなのだが、私の洋服はパンクロッカーでも着ていそうな派手で刺々しい物が多かった。それを彼女は、年配のおじさんに、これを着れば若返る、とか言って試着させ、とても素敵です、とか言う。それにほだされたおじさんは、すっかりその気になってしまって、購入していった。

 そんな感じで、昼過ぎには、前よりも多く持ってきた商品の2/3は売れてしまった。

 私はお礼に昼ごはんをごちそうする事にした。とは言っても、例によって会場周りのキッチンカーなのだが。

 彼女はトルコライスが食べたいと言うので、トルコライスを二人前注文した。調理をしていたのが、東南アジア系の外国人だったので、てっきりスパイスを利かせた辛めの味付けかと思ったのだが、意外と甘辛い味付けで、日本人好みの味になっていた。彼女が言うには、トルコライスと言うのは、トルコ発祥の料理でも、トルコ料理がベースにある訳でもなく、長崎県が発祥と言われているそうだ。言わばカレーライスやラーメンのように、日本で独自の発展を遂げた、逆輸入グルメと言う事だろう。

 私はトンカツの衣を取り除いて肉だけを猫山先生に渡した。猫山先生は夢中で豚肉に噛りついた。それを見た彼女も、同じようにローズ先生に肉を渡した。先生方は並んで豚肉を食べていた。彼女はそれをスマートフォンで撮影していた。ポカポカ陽気がよりポカポカに感じられた。

 店にはトルコライス店を謳っているだけあって、トルコアイスも売っていた。彼女はデザートにアイスを購入して、ビローンと伸ばしているところを、私に撮影するよう求めてきた。先生だけでなく、自分も撮影させるとは、何とも自己顕示欲の強い女なのだろう。

 一通りの撮影が終わると、彼女は伸ばしたアイスをローズ先生に見せた。するとアイスに反応したローズ先生は、訳が分からずその辺りを走り回った。もはや私はアイスを持った彼女、そっちけでローズ先生をった。彼女は大声で笑っていた。

 お礼にと、彼女はさじすくったアイスを私の口元に運んできた。そ…それは間接なんとかではないか。私は目を思いっきり瞑ってアイスを食した。冷たくて甘い納豆を食べているようだ。

 午後からもセラピスト効果なのか、大盛況の内に時間は過ぎ、太陽が寝床の準備を始めた。

 彼女は楽しかったと言い、私はまた誘っても良いかと伺いを立てた。彼女は渾身の笑顔で首を縦に振った。


 猫山先生、これで良かったのでしょうか?猫山先生は、もっと攻めても良かったんじゃないのか、と言わんばかりに風に揺れる路傍のエノコログサにパンチしていた。

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猫山先生と私 岡上 山羊 @h1y9a7c0k1y2

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