第5話 再戦な撮影会

 人間関係とはさも不思議なものである。女性隊員との決闘日以降、班長からの罵倒も気にならなくなっていた。対決としてはドローだった訳だが、結果よりも猫山先生以外の素晴らしいセラピストの先生と出会えた事が、私の人生を充実させてくれているような気分なのだ。きっと猫山先生は、私のそう言った何かが抜け落ちたような人生を見抜かれて、この出会いを演出して下すったのだろう。それが証拠に、女性隊員はそれ以降も派遣先の企業への移動の車中も、私に話しかけるようになっていた。私としてはその事が仕事へ行く為の活力になっている事を否めなかった。

 昼食はもちろん一人きりでとっていた。人間と絡む事が苦痛以外のなにものでもないからである。しかし彼女はわざわざ私が着くテーブルに自分のトレーを持って来ては、スマートフォン片手に、笑顔で近付いてくるのだ。そしてSNSに上げたローズ先生の画像や映像を自慢げに見せてくるのだ。正直なところ癪である。

 彼女は私にも猫山先生の映像をアップしてみてはどうかと言ってきた。猫山先生は私の猫山先生であって、他の誰のものでもない、と思っていたのだが、良くよく考えてみると、先生との専門店での出会いの時も、フリーマーケット会場でもそうであった。猫山先生は見ず知らずの他人でさえも、カウンセリングしてくれるのだ。まぁそのお陰でフリーマーケットでも売り上げを上げる事が出来た訳だ。猫山先生の魅力は、直接に触れ合わなくとも、その威力を発動させられるはずだ。猫山先生の魅力を一人占めする事は罪であると捉えたり。

 早速、彼女の手ほどきを受け、私はSNSの使用方法についての説明を受けた。しかしとんと機械音痴な私は、彼女の説明を飲み込めないでいた。そこで彼女は、次の休みに手ほどきの為に、もう一ラウンドしようと挑んできた。ははぁん、そう来たか。まぁそれもこれも世の中の病める人々を、猫山先生の力で救う為だ。こうして猫山先生とローズ先生の再戦が決まった。


 決闘場は例により公園にて行われる事になった。彼女はローズ先生の魅力を大きく向上させる為の様々な武器アイテムを持参してきた。いよいよ敵も猫山先生の魅力に恐れを成して、本気モードで挑んできたようだ。

 しかしなるほど、武器は威力があるものだ。ローズ先生の魅力が数段アップしているではないか。女性らしくフリルのついたドレスを身にまとい、頭にはピンクの可愛らしいリボン。まぁ、そこまでして、やっと猫山先生の魅力に追いついたと言ったところであろうか。通常、先生方は色々と身につける事は "いちいち" 、先生方のライバルとは違い、身体に良くないとの事だ。しかし人々を救う為に、撮影の時だけ着用していただくのだそうだ。

 

彼女は突如、レーザー光線発生装置を出してきた。その装置で、猫山先生の目でもくらまそうと言うのか。すると彼女はその装置をローズ先生の足元に発射した。レーザーの赤い光にローズ先生は反応され、その光を追い始めた。そのお姿たるや、なんと魅力的な事であろうか。私は驚愕した。

 彼女は私のスマートフォンを取り上げ、レーザー光線を私に渡してきた。そしてそのレーザー光線を猫山先生に向けて当てろと言うのだ。私は恐る恐る光を猫山先生の足元に照射した。するとローズ先生同様に、猫山先生も光の点を追いかけ始めたのだ。その魅力たるや、この世のものとは思えない魅力で溢れているではないか。私は楽しくなり、光の点をローズ先生の元へといざなった。するとお二方の先生は、絡まり合うように光の点を追いかけ、魅力は数十倍、いや数百倍にまで増したのだ。私たちの顔面の筋肉はもはや崩壊寸前、いや、完全に崩壊してしまっていた。

 彼女はその様子を、バッチリとカメラに収めてくれていたようで、その映像をSNSにアップしてくれた。これで世の病める人々を救う事が出来るのだ。なんと素晴らしいシステムなのだろう。

 彼女は猫山先生の魅力を、更にアップさせるべく、武器アイテムを手に入れる為に、専門店へとさそってきた。私たちは再び専門店へ行き、猫山先生を魅力的にする為の撮影用のコーディネートを考えた。やはりここでも、彼女は私の意見など一蹴して、結局は彼女の意見通りにNBAロサンゼルス・レイカーズの背番号23番を購入した。彼女曰かのじょいわく、猫山先生の身体能力を考えれば、このコーディネートが最適だと言うのだ。うーん、彼女は敵に塩を送るとでも言うのだろうか。でもまぁなるほど、彼女も猫山先生の魅力が分かってきたと言う事なのだろう。甘んじてその塩を受け取ろうではないか。

 彼女のお陰で猫山先生の魅力アップに繋がったのだ。ここは男としてお礼をしなければ、猫山先生に叱られると言うものだ。私は来週のフリーマーケットへ一緒に同行するよう求めた。彼女も満更ではないようで、この挑戦状を受け取ってくれた。


 彼女と分かれた後、猫山先生にこれで良かったのか、お伺いを立ててみた。先生は、まぁそれで良かったんじゃない、とでも言いたげに、そのお顔を洗われていた。

 

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