第3話 初めての外出
楽しみな週末がやって来た。私は一週間かけて少しづつ用意した出品商品をレンタルしたワンボックスカーに積み込んだ。一人で出かけようかとも考えたのだが、やはり猫山先生の事が心配だった。なので専門店で買っておいた先生専用のリムジンを用意したのだ。先生にはリムジンに乗っていただき、その間、トイレは我慢していただかなければならないが、中々の高級リムジンを手に入れたとの自負はある。
おっと、忘れてはいけない。こいつを忘れたら、先生がご機嫌を
猫山先生が器用にそのお
初めは居心地が悪いのか、リムジンの中、落ち着かぬ様子の猫山先生であったが、徐々に慣れていらしたのか、その内、リムジンの中で寝てしまわれたようだった。
10分余り車を走らせると、やがて広場に着いた。私はいつも部屋の中にいて、さぞかし窮屈な思いをされていただろう猫山先生を、リムジンから放ち、大いに自然を謳歌していただこうとした。しかし出店準備で忙しい人々の山から、先生は気後れされたようで、私が準備を進める周りから、離れようとはされなかった。
ここはやはり "あいつ" の出番だろう。私はカバンから鞠を取り出し、地面に転がした。すると先生はメッシ顔負けのドリブルで、鞠を操り始めた。さすがは猫山先生だ。私は安心して準備を進める事が出来た。
準備も終え、いよいよお客さんたちが
私はと言うと、自分の趣味で買った、未使用の洋服が大半を占めていたのだが、作戦失敗だ。他の出品者はハンガーラックにかけたり、ポップを作って派手やかに展示していた。なのに私は畳んで
そんな時、小学校低学年くらいの女の子が、猫山先生の存在に気付き、母親を呼び寄せた。女の子は猫山先生の素晴らしさを大声で汚れなく叫ぶものだから、人々が猫山先生見たさに次々と押し寄せ、気付けば初めて先生と出会った専門店の時を遥かに凌ぐ人集りが出来ていた。
私はふと
人々は私の出品物よりも、明らかに猫山先生のカウンセリングが目的だと言わんばかりに商品を購入し、猫山先生の元に笑顔で向かった。そして清らかになった心を携えて帰っていくのだった。
そうして昼過ぎには、商品はほぼ売り切れてしまった。あぁ、部屋にはまだ今日持って来た二倍量はあるのに、もっと持って来るんだった。
とりあえず売り上げの目標金額には達したので、私は猫山先生を連れて、ランチタイムがてら、広場の周りを囲むように出店しているフードカーを見て回る事にした。私はホットドッグを購入して、ソーセージの部分だけを指でちぎり、良く冷まして猫山先生にお渡しした。猫山先生は、食べ物が熱いのが大層お嫌いなので、良く冷まさないと、食してはくれないのだ。舌を
喉が乾いた私は、コーラを購入したのだが、猫山先生がお好きなお飲み物は、なんと言っても常温の水なのだ。味や色が着いた物は、先生のお身体にも良くないし、お飲みにならない。かき氷などの冷たい物もお好みにならないのだ。そこのところを注意しないと、先生と共に生きていく資格はないし、先生の身の周りの世話などしてはいけないのだ。
やがて空が茜色に染まり始め、場内放送から、ホタルの光を三拍子に編曲した、別れのワルツが流れてきた。私はなんだかブルーな気持ちに襲われたのだが、横には猫山先生がいる。家に帰っても、もう一人ではないのだ。私は猫山先生をリムジンに導いた。
帰りの道中、猫山先生は、すっかりリムジンに慣れられたのか、呑気に自慢のブロンズ髪を毛づくろいしておられた。
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