開花
どうやら頭が壊れてしまったようだ。いや、困ったな。
猛烈な吐き気が何度も波のようにやって来ては遠退いていく。波と言っても私は海を実際に見たことはないのだけれど。
洗面所に備えられた鏡にうつる自分は、いつかの犬のように、ひどくやつれて薄汚ない。それに、よく凝視していると、洗面所のライトに照らされた髪が、そのライトの光に所々溶け込むようになっていたり、刃の切っ先みたいに煌めいたりするようになっていた。外見まで、常識の枠をはみ出し始めたようだ。これまで、見た目にはそれなりに気を使って来たというのに、徒労じゃないか。少し悲しく思った。
「......うぐっ」
腹の底から何か熱をもったものが押し上げられてくる。腹の残留物はとうに吐き出してしまって、口からは透明な熱いものが勢いよく飛び出した。
「はは......。紅音には、見せられないわ」
鏡にうつる化け物が口を紡ぐ。何が可笑しいのか邪気な笑みを浮かべて。脳が捻れるようになって軋む。私の意志に関係なく、狂った諸行が逆流してくる。それに、私は今痛みに苦悶しているはずだ。それに対し、鏡にうつる自分は醜い笑みに歪んでいる。
ああ、だめだ。
お次は私の意志を無視して、右手が勝手にナイフを取った。
――今日は誰を......。
腹の内で化け物が奇妙に震える声色で呟いて、それは鐘のように腹の底の冷たい暗闇で鳴り響いて、私の意識を混濁とさせる。
心は彼女の体温を欲していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます