逆行 四

「明日から冬休みかぁ」

 紅音は白いため息を吐く。手袋とマフラーをしてまで、私達はやはり屋上のベンチに座っていた。

 「寂しくなるね」

 「本当にね」

 紅音は冬休みの間、離れた祖父母の家に泊まるらしい。理由は詮索しない。他人の奥底には触れないという私の薄っぺらな美学である。

「次会うのは二週間後かぁ」

「手紙書いてよね。私も送り返すから」

「......毎日何通も送ったら、流石に怒る?」

「うん」

 紅音は吹き出した。私もつられてしまう。

 ......こんな日々が永遠に続いていけばいいのにな。そんなことを考えていたら、太陽は意地悪で、もう今日の役目を終えようとしていた。紅音を家へ送らなければいけない。

 「そろそろ帰ろっか」

 だが、紅音は座ったまま、私の目を覗きこんでくる。彼女の瞳には首を傾げる化け物がうつっていた。

「......どうかした?」

「......ううん。ごめん、何でもない」

 顔に少し影を落としながら立ちあがった紅音は、首をぶんぶん振ると、私の前に唐突に跪いた。

「......え?」

「今日は私がエスコートします、お嬢様」

 私の手を取って、ダンディーにそう言った。思わず吹き出してしまった。

「じ、じゃあ、よろしくお願いするね」

 彼女は本当に唐突に、こう、何と言うか、人格を変に替えて接してくることがあった。それを彼女はユニークなコミュニケーションだと思っているようであったが、私は苦笑するばかりだった。

 そんな紅音は私の手を引き歩く。いつもよりも弾んで、どこか背伸びして。

 彼女の決して温かくはないその指は、今日も私の心に温もりをくれた。


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