蝶 三

 顔も知らない女の人が崩れ落ちていくのを、私は生温いものに降られながら見ていた。

 蓄えていた酸素が尽きて、たまらず空を貪る。上弦の月が黒かった。いや、私の瞳には何もかもが赤黒く映った。

 依然、滔々と流れる赤を私の黒のブーツが吸い込んでいく。

 その様に吐き気を催して、その場から飛び退こうとするも、血に滑ってしまう。私の手は直接罪に濡れた。

 「......違う。私じゃない......」

 赤い蝶が倒れる女の人の割れた首から這い出て羽ばたいた気がした。

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