❏ ダンジョン訓練前日
光の入らない荒れ果てた協会内にランタンの灯りだけが輝き、大理石の床に二人の人影が映る。
その中の黒い服をまとった二十歳前後の青年が口を開く。その声は爽やかで、一見善良な人間とも見えるだろう。
「勇者の子供達はどうだい?」
すると、銀色の杖を持った老人が質問に答える。
「我々の企みすら気づかず、魔王討伐だと言ってはしゃいでおりますよ」
「魔法もない国から来た子供だが、気を抜いちゃだめだぞ。作戦はそのまま実行しといて」
「御意。ウァラデル様の仰せのままに」
そう言って老人は自分より年下の男に頭を下げ、戸をそっと開け退室していく。
青年が一人だけになった途端、青年は奇妙な笑い声をあげる。
「フハハハハハ! 親愛なる我が神よっ! このために両親と姉を殺して十年。ついに我々の時代が来たのだっ!」
奇妙な笑い声が不気味な教会内に響き渡った。
◇
side 三島博樹
異世界召喚されて早くも一ヶ月がたった。勇者達は騎士団や魔術師団の人達に、俺はエレノアに、明日の野外訓練(ダンジョンに潜る)に向けてスキルのレベル上げや、新たなスキルの習得などをしてきた。
最初はエレノアとの訓練はクラスメイトとかに突っかかってこられそうでめんどくさそうだと思っていたが、その辺はエレノアが配慮してくれて記憶を書き換えてくれたとか。
今だエレノアの詳しいことは知らないが、とりあえず毎日訓練に向けて頑張っていた。
「ステータスもだいぶ上がったし、次の訓練は大丈夫だねっ!」
「そういうのをフラグって言うんだよ」
前回、エレノアのフラグ回収早かったからな。おかげで、死にかけたからな。俺の実力がないだけだけど。
薬品を調合しながらエレノアとどうでもいい会話する。ちなみに今作っているのは硫酸みたいな液体。化学とかよく分からないが、イメージクラフトの制作補助のおかげでだいたい何を入れればそれっぽくなるかが分かるので、馬鹿でも硫酸みたいな劇薬を作ることができるのだ。
調合スキルやら鑑定スキルを使いまくってたおかげでそれなりにはレベルが上がった。勇者達よりレベルの上りが悪いが、上がらないよりましだ。
――――
ヒロキ・ミシマ
種族 人族 職業 加工師Lv.3
生命力 320/320
魔力 290/500
攻撃力 200
防御力 170
俊敏性 260
スキル
創作術Lv.5 創造術Lv.4 鑑定Lv.5 錬金術Lv.1 錬丹術Lv.1 調合Lv.3 加工Lv.3 合成Lv.3 作成Lv.2 圧縮硬化Lv.1 鍛治Lv.1
レアスキル
イメージクラフトLv.1【+制作補助】 アイテムボックス
――――
戦闘系スキルがないけど、生産系のスキルはだいたい取得した。ほとんどのスキルはエレノアに教えてもらって取得。
魔物は頑張って硫酸と魔道具で倒す。それしかない。すると、
「ふぎゃあぁぁ!? ミシマ君っ!? いったい何を作ったのぉぉぉ!?」
悲鳴が聞こえた方を振り返ると硫酸の入った入れ物に手を入れたおバカなエレノアがいた。エレノアの手首から右手が溶けてなくなり、見てるだけで痛い。
「ミシマ君、ひどいよぉぉ。不死身の僕じゃなかったら大惨事だよっ!?」
エレノアがぷんすか言っているが、無視してエレノアの腕を見てみる。
溶けてなくなった腕の断面からは青白い煙が出ており、徐々に腕が再生していっている。明らかに自然の法則を無視している。不死身ってどうなってんだ。
「勝手に手を入れたエレノアが悪い。というか、何で不死身なのか教えろ」
ぎゃいぎゃい言うエレノアのことを聞かず話を進める。
「初代勇者が言っていたけど、れでぃふぁーすとしなさいよぉぉ!」
俺は男女平等主義なのでレディファーストなんか存在しない。俺は性格がひねくれているんでね。
◇
ちなみにエレノアの腕が完全に再生した後で聞いた話だがエレノアには錬丹術というスキルがあり、そのスキルで作った不死身の薬を間違えて飲んでしまい、数百年ぐらい生きてるそうだ。道理であの時、孫の孫の~バカ孫と言っていたのかと納得。
「エレノアはいったい何歳なんだ?」
興味本位で聞いてみたら殺意がこもった笑顔が返ってきた。
「いくら僕がおしとやかな王女でもぶっ殺すよ?」
俺は殺意に気付かない鈍感じゃないのでさすがに気付く。女子に年齢は聞いてはだめらしい。
その後、明日の荷物を素早くまとめエレノアの部屋から逃げた。殺されそうな気がしたから。
◇
「俺……この訓練終わったら頑張って告白する」
「俺もしようかな」
ダンジョンに行く前に集合場所である訓練場に久々に来たのだが、やけに死亡フラグが聞こえてくるが気のせいだろうか。
まだ数人しか集まっておらず、団長や騎士団の人の姿も見当たらない。少々早く着きすぎたようだ。集まっている奴らの多くが大荷物を背負っていてできる限りのフル装備だった。
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