❏ 錬金術師エレノア

side 三島博樹



 黒いフードの隙間から見えるきれいな紫色の髪に、どことなく眠そうな青い瞳。背は俺より頭一つ分ほど小さい。その美少女がこの国の王女だ。


「ウィルアム。やっぱり、この子は私が育てる」


 王女の口から出た言葉は、俺を王女自身が訓練させるということだ。何を企んでいるんだ。


「相変わらず気まぐれ――」


「ん。じゃあ、後よろしく。『テレポート』」


 ウィルアム団長は即刻無視され、王女が使い捨ての魔道具を使う。


 紙の魔道具が塵となり、王女が俺を連れて別の部屋へテレポートする。視界が一瞬白くなり、別の部屋に移動する。


 移動したのは王女の部屋。というには質素で本や変わった道具が部屋に散らばっていて見た感じ汚い。何かの作業場なのだろうか。


「僕はゲルサミアを建国したエレノアだよぉ。よろしくね〜」


 かわいらしい声の主は間違いなく王女。僕と聞こえたが気のせいなのだろうか。


 まさか男!? どうでもいいけど。


 こんな奴が王女だし団長もあんなのだしこの国大丈夫か?


「……」


 どうでもいいとは思ったものの言葉につまり、シーンと静まり返る。


 すると、俺の考えていることが読み取ったつもりなのか、エレノアがいきなり反論しだす。


「ちゃんと僕は女の子だよっ! こう見えて乙女なのっ!」


「……」


 それで? としか言いようがないが、エレノアに反感を買われてもめんどうなので黙っておく。が、


「あーっ! その目は疑ってるなっ!?」


 疑ってるのは事実だが性別の話ではない。気になるのはエレノアに敵意があるのか無いのかだ。というか早くここから解放してくれ。


「ふぁ〜。……えーっと、女の子だからねっ」


 するといきなり、大きなあくびをしながら体を伸ばすエレノア。どう見ても王女と思えない。上品さがなさすぎる。あと、空気読め。


「ねえねえ、ミシマ君も喋ってよぉ〜」


 エレノアが話を変えまくりすぎて、何の話をしているのか次第に分からなくなってきた。


 何か腹立つし、ふざけて日本に帰してって言ったら……


「じゃあ、元の世界に帰らして下さい」


「敬語とか大丈夫だし、友達と話す感じで良いよぉ。ん〜、まずこの世界の職業について教えようかな?」


 お前が喋れって行ったんだろ。話聞けよ。と突っ込みたいが勝手に話をしだすエレノア。まあ、敵意なさそうだし話ぐらい聞いてやろう。(仕方なく)


 話を聞くにはこの世界の職業には一次職・二次職・三次職・四次職といった階級があるらしい。ちなみに俺達、召喚者は俺以外全員四次職。


 数字が大きくなるほど能力が高く、この世界には召喚された人間を除いて三次職の者はほとんどいないらしい。


 俺みたいな生産系の職業だと、


 一次職 鍛冶師 

 二次職 錬金術師 

 三次職 加工師


 といった感じだ。何故か四次職がないらしい。なので生産系の三次職はレアらしい。


 他にも剣士系だと、


 一次職 剣士

 二次職 騎士

 三次職 上位騎士

 四次職 魔剣使い


 ちなみに、勇者は五次職らしいが今のところ何系の上位互換なのかわかっていないらしい。


 話を聞きながら目の前に映る光のボードを見る。魔力板と言うらしく、エレノアがこの魔道具を作ったらしい。


「じゃあ、質問。僕の職業は何だと思う?」


 唐突にクイズタイムか。話が変わりまくるのにだいぶ慣れてきたからまだ何とか我慢できるがやっぱ腹立つ。


 やれやれと、俺は鑑定スキルを使いエレノアを見る。


――――

 エレノア・ゲルサミア  王族


 種族 人族  職業 錬金術師Lv.99

 生命力 11000

 魔力 14300

 攻撃力 8500

 防御力 8700

 俊敏性 8100


 スキル

 鑑定Lv.9 錬金術Lv.9 錬丹術Lv.9 調合Lv.9 合成Lv.9 作成Lv.9 圧縮硬化Lv.9 鍛治Lv.9


 レアスキル

 エンチャントLv.9 イメージクラフトLv.3

――――


 何これ。レベル九十九!?


 まだ若いウィルアム団長ですらレベル五十くらい。それより若いはずのエレノアがレベル九十九になれるはずがない。


「ねえねえ、答え出た?」


 いたずらっ子のようにエレノアがニコニコと催促してくる。


「レベル九十九の錬金術師」


「むぅ。正解」


 何でわかったと言わんばかりに頬を膨らまし見つめてくる。口さえ開けなければかわいいのに。


 あ、誤解されそうだから言っておくが俺は決して幼女好きの変態とかじゃないからな。王女に手を出すほど馬鹿じゃないぞ!


 ◇


「……そうそう。僕がミシマ君を連れてきたのはスキルを教えてあげるためだよ」


 エレノアが言うには生産系の職業の上位互換である俺は鍛冶師や錬金術師のスキルを習得できるらしい。


 エレノアは錬金術師と鍛冶師のスキルの大半を取得しているから、自分が少しは役に立てるんじゃないかと俺を連れてきたそうだ。


 それより、さっきから気になっていた事をエレノアに確認しておく。


 最悪なパターンとしてはここで口封じで殺されるかもしれないが、今のところこの国で信頼できそうな奴がエレノアかウィルアム団長くらいしかいないから殺された時は仕方ない。覚悟はできた。


「スキルを教えてもらうのは嬉しいが、何か企んでいるとかないよな」


「ふぇ? 僕にはそのつもりはないけど、バカ王とかセシルスは何か企んでるからねぇ。内容知らないけど」


 やはり何か企んでいたのか。というか今自分の親をバカって言ったよな。


「バカ王って。エレノアのお父さんだろ? いくら何でもそれ言うのは酷くね?」


「僕のお父さんじゃないよぉ。どちらかと言うと孫の孫の孫の孫の孫の孫のバカ孫かな?」


 は? 孫の孫の(以下略)バカ孫?

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