❏ 訓練一日目
side 三島博樹
訓練初日。この国の連中が何を企んでいるか警戒しながら俺はアホみたいに広い訓練場に来ていた。
俺達の目の前には紺色の鎧を着た金髪赤目の団長がいた。背は俺より高く、若い団長だ。
この団長もかなりのイケメンで、女子達の視線が集まっている。何故かこの世界に来てからよくイケメンを見るのは気のせいだろうか。
「私はゲルサミア最精鋭騎士団の団長ウィルアム・レイスイです。……自分で最精鋭って言うのはおかしいなぁ?」
独り言をつぶやいているのつもりなのだろうが聞こえている。こんな人が団長なのだろうか。
とりあえず、危害を加えそうな感じではないが警戒は必要だ。
「団長! 独り言が多すぎです!」
副団長らしき人が突っ込んでいるが、聞かずに話し出す。
「今日から勇者様方は毎日この時間に訓練があります。……多分そう」
今、多分って言ったよな。本当にこの人大丈夫か?
それに対し副団長が多分でなくあってます、と付け足しをする。この副団長も大変だろうな。
「えーっと、訓練は自由参加ですのでサボっても良いですが、それにおいて応じる文句に関しては一切受け付けませんよ。まあ、そんなわけなので訓練をしない人は帰って大丈夫ですよ」
自由参加と言っているが、ほぼ強制参加に近い。文句は受け付けないって言ってる時点で何かあるというわけだろう。
それを理解しているのかどうかは分からないが、全員訓練場から出て行く者はいない。
その様子を見て感心とうなずくウィルアム団長は微笑みながら口を開く。
「では、今後の予定ですが一週間したら野外訓練を行います。最初は平原の魔物を倒し、その次の訓練ではダンジョンに潜ります」
微笑む団長に誰かが不安げに質問する。
「一週間で戦えるようになるのですか?」
それに対して団長が、
「そもそも、地上の魔物は下位魔物の最弱種。一週間訓練したら余裕です。それでも強くなれないならあなた方に問題があるということです」
笑みを崩さず、ほかに質問がないかとうかがう団長。
俺以外のチート集団は戦えるようになるかもしれないが、平均値の俺は一週間で魔物を倒せるようになるのだろうか?
とりあえず俺はこの人がどれくらい強いのか気になり、上手くいくかどうか分からないがものを見て能力や性質を判断するスキル、鑑定スキルを起動し団長を見つめる。
――――
ウィルアム・レイスイ
種族 人族 職業 騎士Lv.51
生命力 4800/4800
魔力 3000/3000
攻撃力 3120
防御力 3100
俊敏性 3000
スキル
鑑定Lv.7 剣技Lv.8 陰陽魔術Lv.8 基礎魔術Lv.5
――――
俺は思わず声を漏らしそうになる。なんだこの数値。
……思ったけど勇者いらなくね?
そんな俺の疑問に答えるかのように、ステータスについて話だすウィルアム団長。
「まずはステータスについて話しましょうか。勇者様方は人族の中で最も強い人達です。そのため、普通の人族と違いステータスも大幅に違う。今は私達の方が強いですが、すぐに勇者様方は私達を超えるでしょう。まあ、魔法もない世界から来た人に簡単に負けられませんが」
最後の挑発に単純な松平は乗っており、眉をピクピクと動かせる。そんなのを気にせず、まあ見てもらう方が早いか、とつぶやきながら魔道具を操作し、光のボードを俺達の前に出す。
「これが、人族Lv.99、つまり最大レベルの場合の平均値です」
――――
生命力 8500
魔力 6200
攻撃力 5800
防御力 4200
俊敏性 4100
――――
クラスメイト達が平均ステータス見ると、自分との差がありすぎて項垂れる者が続出する。俺もその一人。
「大丈夫です。すぐに強くなれますし。……まあまずは、この平均値を超えることを目標に頑張ってください」
そう言って微笑む団長。イケメンが笑うな。
クラスメイト達は無理だのなんか言っているが、クラスメイト達より弱い俺なんか超えれる気がしない。お前らは平均超えだろ。
「では、我々の指示に従って訓練を始めてください。武器はあそこの武器置き場に練習用の武器を置いてますので、自由に取ってください。以上です」
練習用の武器を手に取り剣士などの前衛職の人は騎士団に、後衛職の人は騎士団所属の魔術師団などに教えてもらう。
だが、俺は非戦闘員の加工師なので何もすることなく立ち尽くす。何をしろと言うんだ。
みんなが訓練を始める中、何もしない俺だけがやけに目立つ。すると、
「君は私が直接指導してあげましょう。それが王女様の命令ですし、私も気になりますしね」
声がしたかと思うと目の前にウィルアム団長がいきなり視界に入ってくる。俺は思わず後退る。どこから出てきた。神出鬼没キャラ確定だ。
というか、王女様の命令!? 雑魚の俺に絡んでくるとは一体何を企んでいるのだろうか。確定と言ったわけでもないが警戒しなければと団長と王女も危険人物リストに入れる。
すると、うーんと首をひねりながらウィルアム団長が口を開く。
「まず君に魔法適性があるかを調べようかなぁ? うん、そうしよう」
何でこの人は独り言がこんなに多いのだろうか。
◇
魔法適性はその人によって違い、適性により扱える魔法が違う。
属性は火・水・氷・土・風・雷・光・闇の八つが存在し、たいがいどんな人間でも一人一つは適性属性があると言われている。が、博樹には適性属性がなかった。
魔法の種類は日常・初級・中級・上級・超上級魔法があり、日常魔法は誰でも使える簡単な魔法である。つまり博樹は日常魔法しか使えないわけである。
◇
「属性なしとは珍しいなぁ。とりあえず、日常魔法でも取得しとくだけでもましかなぁ?」
かなり呑気なこと口にするウィルアム団長。一回殴ってやりたい。すると、凛とした声が聞こえる。
「調子はどうなのですか?」
召喚されたとき王様の横にいた少女ことこの国の王女が何故か訓練場に来たのだ。それも俺の所に。
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