❏ 勇者の決断
side 三島博樹
とりあえず、一通り話は終わったらしく次は俺達の住む屋敷に案内されることになった。
今はほとんどの人が黙っており、重い空気が漂っていた。
何故そうなったのか。それは数十分前のこと――
◇
「「「戦い!?」」」
クラスメイト全員が声をそろえて叫ぶ。
「ちょっとどういうことですか!?」
「何で俺達が戦わなきゃなんないんだ! 最大の軍事国家なんだろっ!」
「戦争に勝ったなら元の世界には帰れるの!?」
クラスメイト達が不安げに次々とお爺さんに質問や罵声を浴びせる。
それに対し杖で床を叩き、全員を黙らしてから口を開く。
「我々は戦いを強制するわけではありません。ですが、魔王をあなた方が倒してくださらぬ限り我々に平穏な時間は永遠に訪れない。毎年、魔王のせいで多くの人々が命を失っていることは理解しておいてください。……あと、あなた方をもとの世界に戻すことは出来ません」
その瞬間全員が口を閉じてしまう。当たり前である。戦争というのを体験したことのない平和な時期に生まれた俺達にすれば対岸の火事。
だがこの世界では魔族が人族などを襲い、自分達もいつ死ぬか分からない状況だ。そして、元の世界にも戻れないときた。
「結論はいつ出しても構いませんので、全員で話し合って決めて下さい。では、これから勇者様方の屋敷を案内します」
静まり返った広間にお爺さんの声だけが響き、俺達は屋敷の案内人についていく。
みんなは特に気にせず案内人についていくが俺はその時、何か秘めたかのような笑みを浮かべた王様とお爺さんを見てしまった。その笑みはゾッとするような笑顔だった。
◇
「ここが勇者様方のお屋敷です」
そう言って案内されたの王城内のとある一角にある大きな屋敷。学校が一回り大きくなったかのような五階建てで、俺達が住むには豪華すぎる屋敷だ。
内装も、きらびやかすぎて脳の処理が追いつかない。というか、慣れない。
本当ならクラスメイト達の女子を中心にがすごいと騒いだりするのだろうが、今はそんな気分じゃないと誰も口を開かない。
「勇者様方のお部屋は全員個室。最上階である五階にお部屋を用意しているので眺めも抜群です」
俺達は案内を聞きながら階段を上る。一階は食堂や資料室。二回は小さめの訓練場。三階は会議室や大浴場など。四階は休憩スペースなどのダラダラするような部屋など。五階は俺達の個室といった感じだ。
「また、各部屋に水回りの設備を備え、冷暖房の魔道具もあります」
まるでどっかの高級ホテルみたいだな。
かなり呑気に屋敷の中を歩いているが、実際かなり気分が優れない。ただ、現実逃避という四文字をしているだけ。
「では各自のお部屋をお使いください。以上です」
そう言い残し、この屋敷の案内人は去っていった。すると、松平が口を開く。
「なあ、みんな。三十分後に三階の会議室に集まらないか? 今後について話し合いたい」
こいつ、こんな奴だったか? いつも女子からの視線を気にしていたのに、やけに勇者っぽいまともなことを言う。
松平はみんなの了承を得ていく。あんまり参加したくないが、最終的には俺も嫌々参加させられるのだろう。
side 松平修也
異世界で魔王を倒す羽目になった。つまり、武器を持って戦うということ。
戦争なんて関係ない時期に生まれたせいか、最初は何も危機感なくそうなんだで済んでいた。だが、命の危険があるとなると恐怖でしかない。
とりあえず、話し合おうと三十分後に集まろうと言ったが実際どうしようもない。
そう考えているうちにいつの間にか三階の会議室の前に来ていた。
僕は今どうやってみんなの意見をまとめるかを考えるために、一足早く会議室に来たら先着がすでにいた。
「セシルス……さん?」
何故か僕より早く、さっきこっちの世界について説明してくれたセシルスさんが椅子に座っていた。
side 三島博樹
俺は珍しく松平がみんなのために行動したので気になり、勇者の後を追ってみたのだが……
『あなた方は普通の人と違い召喚された選りすぐられた勇者様方です』
ドア越しに聞こえてくるのはセシルスと名乗った老人の声。何故、あいつがここにいるんだ?
松平がどんな反応しているのは分からないが、松平の心は揺らいでいるのだろう。
『このままでは人類は滅びます。我々もあなた方も。……戦うかどうかはあなた達で決めて下さい』
セシルスがか会議室から出てくるのを事前に察知した俺は離れたところに移動する。
最初からそんな感じはしていた。
クラスメイトの中で人気がある松平を説得させ、俺達全員を戦うようにする。恐らくステータス開示の時からセシルスは俺達の中で誰が人気があるのかを調べていたのだろう。
俺はセシルスを危険人物リストの中に入れたのだった。
◇
「僕達はついさっき異世界召喚というのと魔族との戦いということに戸惑ったが、僕達は召喚された選りすぐられた勇者チームだ。恐らく世界最強と言ってもいい。
……セシルスさん言うにはもう元の世界に帰れない。だから、この力を使ってこの世界の人々を守りたいと僕は思う」
何というナルシスト。セシルスに完全に騙されとる。
そもそも、あのセシルスとか言うお爺さんと王は多分何か企んでいる。
「よしっ! 俺も手伝う!」
「私も一緒に戦う!」
「俺も俺も!」
「私も!」
何だかよく読んだことあるパターン化している気がする。というか、ナルシスト勇者の暴走思想がどんどん広がってる!
だいたいこの後のオチは読めると思うが、松平の作った流れで結局全員戦うことになる。
セシルスや王様が何を企んでいるのか知らずに。
「この世界の人々を救うぞ!」
「「「おおおぉぉっ!!!」」」
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