第6話 もう一人の夜空
その髪色は銀ではなく黒であった。
だが、同じ名前を持ち、同じ瞳を持つ少女。
果たして何者なのか――――。
しかし、この少女が今朝リクと出逢った少女で間違いは無い。
オリアナは徐に立ち上がり、ヨゾラの元へ歩み寄る。「痛いです……」と言うヨゾラを無視してギュッと抱きしめて頭を撫で続けた。
ヨゾラの表情に嫌悪感は無く笑みがこぼれている。
久しぶりの再会を嬉しく思っているのだろう。
オリアナは自分を慕う、そんな弟子が尊く感じ、撫で続けるのだ。
「でも、だめよ! いつまでも私を師匠と呼んでいては!」
「すいません……」
「言っているでしょ。私はここでは、学院長なの!」
そう指摘するオリアナの豊満な胸に「苦しいです……」と埋められてヨゾラは苦しそうに息をする。
「ごめん、ごめん! 可愛くてつい……ね!」
そんなオリアナに「もう……」上目遣いで少し怒るように頬を膨らませた。
「それで、ししょ……。いえ、学院長。
今日はどうしたんですか?」
そのヨゾラの疑問に「あ、そうそう。」と思い出したオリアナは抱きしめるヨゾラの元を離れとあるモノを取り行く。
「これよ、これ。貴方達に渡そうとおもって」
「なんですか? あ――――……」
オリアナが重そうに引き摺って持ち出してきたのは大な剣。
それは、持ち手から剣先まで全てが漆黒で、刀身は分厚く長く広い。
そう彼は、
「
「安心して。それは正真正銘の貴方達の夜よ。」
大きな剣。その華奢なヨゾラの身体と細い腕にはあまりに不釣り合いな大きさの剣だ。
「でも、どうしてここに夜が……?」
しかし、ヨゾラはその剣を難なく持ち上げる。
すると、ヨゾラにに触れたれた漆黒のその刀身に幾つもの赤い亀裂の様なモノが生じ、まるでマグマのように禍々しい異彩を放つ。
「てっきり、まだ研究所でいろいろとイジられているものだと……」
感情をあまり表に出さない彼女だが、今回ばかりは嬉しそうに頬を擦り付け喜んでいるのが分かる。
「んーとね? やっぱりその剣
何をどうやっても反応を示さない。
たぶん、剣が選んだ持ち主本人にしか扱えないのね。」
残念そうな表情を浮かべるが、ヨゾラの嬉しそうな表情につられ笑みへと変わる。
「まぁ、そう言う訳だから。
研究所にあってもガラクタ同然なのよ。それすっごく重いし!
って言う訳で、扱える人が扱うべきって事でそれは返却するわね。」
「はい!」
とヨゾラは嬉しそうに返事をすると、漆黒の剣【夜】へと魔力を込める。その瞬間【夜】はまるまる内に小さく縮み約3センチ程度の大きさへと変貌を遂げる。
それを見ていたオリアナは「まったく、不思議だわ……」と驚き言葉を漏らした。
***
夕暮れ時。真っ赤な夕日が辺りを紅く染め上げながら沈んでゆく。
街路灯は徐々に明るく灯り、暗い夜道を照らす準備をしていた。
夕日が照らす立派な校門。その前に止まる一台の黒塗りの高級車。
車のすぐ脇には一切の油断も隙も見られない、スーツを着きた男が立つ。
「お待ちしておりました。アリシア様。」
そう言うと、男は後部座席のドアを開ける。
「すまない。待たせた。」
そう、発せられた言葉と共に近づくのは、灰色の長髪。それを後ろで短く編み込み纏める可憐な少女。
運転手が開ける扉から車に乗りアリシアは学校を後にした。
「アリシア様、今日はどの様な?」
その途中、運転手の男はアリシアに問いを投げる。
「あぁ、今日は生徒会の方に直接呼ばれてな。」
「そうでしたか。それで、アリシア様のご返答の方は?」
アリシアへの生徒会役員の打診。端的に言うと、そう言うことだ。
これは、今まで何度もあった。ただ今回、少し違うのは直接部屋へ招かれたことだった。
「いつも通りだ。……私の求めるモノは、あそこには無い。」
――――いつも通り。
成績、人柄、そして実力と才能。それらを認められ、現生徒会役員からの推薦が無ければ生徒会役員に入ることは出来ない。故に生徒会役員に選ばれると言うことは、とても名誉なことだ。
しかしアリシアはその推薦を何度も断り続け、そして、今回もそれは同じだ。
「……。そうですか……。」
運転手の男はバックミラーに写る、窓越しに外を眺めるアリシアを見ながら、そう答えた。
(私が求めるモノは、あそこには無い。
欲しいのは高い地位ではなく。
誇り高き騎士として剣を振るうことのできる場所だ。 そしてもう一つ――――……)
外の陽の光は落ち、辺りはすっかり夜になっていた。
窓越しに見える、歓楽街。ギラギラと誇張し合うネオンの光。
大勢の人々はそんな街中を行き交う。家族、友人、恋人、仕事仲間。一緒にいる理由は様々。
それらは、全て車の窓を隔てた先にある。扉を開ければ直ぐそこに在る。
けれど、少女とは別の世界に在るように遠い存在。
(――――いや、私では一生得られないのかもしれないな……。)
少女の脳裏に浮かぶのは、笑い合い語らう二人の男子生徒の姿だ。
***
真夜中、灯りの照らされる場所は一部の限られた場所だけ。
殆どの場所は暗く、だが今日だけは騒がしい。
赤いランプと共にサイレン音が鳴り響く。
忙しなく、駆け回る軍服を着た者達。
ここはブリテル王国にある、国連祓魔軍事機構の【とある研究施設】。
そこにいる祓魔官の数は夥しく、とても真夜中の行動とは思えない。
「おい! いたか!?」
「ダメだ……! ここにもいない……! 」
軍の敷地の中を駆け回る彼らの表情は険しく、焦りを抱いていた。
「そっちはどうだ……!?」
「いや……、ここにも居ない……!」
「クッソ……! まさか街に逃げたんじゃ……!?」
祓魔官の顔には動揺と不安の表情が色濃く現れる。
***
「なに……!? 外へ逃げられただと!?」
ここは、国連祓魔軍事機構・ブリテル王国王都ロンド支部のとある一室。
「アレは相当、魔力を疲弊しているはずだ……。それに魔法も持っていまい……。
軍の通常武装でどうにか対処してくれ……!」
固定電話の受話器を片手に、苛立ちを見せる男性の名はバラム・エルナーニ上等祓魔官である。
「いや、
変な波風を立てられては困るからな。」
エルナーニは、軍の研究施設から何者かが脱走したことについて表沙汰になるのを危惧していた。
「ああ、そうだ。直ぐに、捜索隊をだせ。
早急にみつけろ……。これは我々の威信に関わる問題だ……!」
額には冷や汗が滲み、緊迫した状況であることが見て取れる。
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