第2話 人ならざる者。

 

「クソッ……! なんなんだよアイツは一体……!」


 エミは苛立ちを露わに、3人の前を歩いていた。

 ライオスは何か悩んだように暗い表情を浮かべ、ケンとエルバはいつも通りのお調子者に戻っていた。


「ところで、ケン。

 お前、昨日のナンパした女とはどうなったんだよ……!?」


 後ろを歩いてたエルバは、興味津々にケンに声をかけた。


「え? 食べた〜」


 首だけを振り向かせ、笑みを浮かべながらそう答える。


「やっぱりか! くっそぉ! 羨ましいぜ……!

 俺も早く、ああ言う女とヤリたい! 」


「童貞が何言ってんのよ」


「ほんと、ほんと〜」


 エルバは羨ましそうに表情を浮かべるが、先頭を歩くエマに鋭くツッコミを入れられ、ケンからは相槌を打たれる。

 そんなエルバは、「くっそ! どいつもこいつも!」

 と悔しそうな表情を浮かべていた。


「でも、気になるな〜。あの子。」


 ケンはナンパの常習犯であり、気になる子に狙いをつけ落としてきた。

 そして、今回その気になった子は――――


「あの……。」


 すると、4人の前に一人の女子生徒が現れる。


「何、アンタ?」


「あ! さっきの女子高生じゃん!」


「あ、ほんとだね〜」


 目の前に、現れたのは先ほどの女子生徒。

 せっかくのカモであり、見知らぬ少年に奪われた女子生徒だ。

 そして、どう言う訳かその女子生徒が戻ってきたのだ。


「アンタ、どう言うつもりで戻ってきたわけ?」


 エミは睨みを利かせ、女子生徒を見つめた。


「おい、あのクソ野郎はどうした!?」


 今まで、悩み込んだような黙っていたライオスが声を荒げて女子生徒に問う。


「彼はいない。」


 すると女子生徒はそう言葉を吐きブレザーの中に着込むスカイブルーのパーカーのフードを徐に被った。


「アンタ馬鹿なの!?」


 エミは更に苛立ちを露わに言葉を発した。


「じゃあ、何しにもどってきたんだよ! 

 テメェまた俺らに、いびられてぇのかよ!」


(この女、何も出来なかった弱者くせに……!

 クソ野郎に守られて付け上がってんのか!?)


 ライオスには彼女の行動が理解できなかった。

 助けてくれる人などもういない。

 戻って来たら何されるかくらい分かるだろに。


「まぁ、まぁ、ライオス落ち着いて。

 もしかしたら、あの子。僕達と遊びたいのかもよ〜?」


 ケンはライオスを宥めて、冗談のような戯言を発するが――――


「そう、遊びたくて追いかけてきちゃった。」


 それは、まるで人が変わったかの様に豹変した口調。

 しかし、彼女を知らない彼らにとって気づくことのない範疇。

 こういう感じの女の子だったんだ。と認識が変わるだけだ。


 ――――ヒュー。

 とケンは口笛を鳴ら喜びを表現するが、


「は? アンタ今、なんつった?」


「えっ? えっ? えっ?」


「……クッ! やっぱり付け上がってんだなテメェ! それが舐めてるって言ってんだよ!」


 耳を疑う発言にエマは戸惑いを見せ、エルバの脳内はクエッションマークで溢れていた。

 そして、エルバの両腕は血管が浮き上がるほど力が入り今にも暴れ出しそうに怒りを露わにする。


「でも、ボク1人だけがいいな。遊ぶの。

 そうだね、キミがいい。」


 しかし、女子生徒はそれを意にも構わず言葉を発した。選択したのは1人。

 そして、望む相手に指を差す。


「ふん。オレか〜? ごめんね、ライオス。 アレは僕のお客さんだっ」


 ケン、嫌らしく笑みを浮かべて答えた。

 そう、指を指されたのはケンだった。


「ックショウ! なんだよ、またケンかよ!」


 エルバは悔しさを滲ませて、ニヤリ笑うケンに視線を向けた。


「ッチ。しらけた、いくぞエミ。」


 馬鹿馬鹿しいと、ライオスは苛立っていた自分に呆れるとエミに声を掛ける。

「あ、おう……。」とエミはライオスの後を追い、

「なんだよ……そう言うことかよ……って意味わかんねぇけど!」と言葉を漏らした。


「待ってよ! 俺をおいてくなよ!」


 とエルバもその後を追う。


「じゃあな、アバズレ女。あんま調子乗んじゃねぇぞ」


「…………」


 最後に捨て台詞のような言葉をエミは吐き、3人はその場を去っていく。



「じゃあ、俺らも行こうぜ。 何処がいいんだ?

 連れてってやるよ。ボーリングか? カラオケか? それとも……、ホテルか?」


(あぁ……。こいつのは一体……どんな味がするんだろうなぁあ……?)


 ケンは嫌らしく笑みを浮かべて女子生徒へ徐に近づく。


「4人、だよね」


女子生徒の唐突のその言葉。

意味も分からず、「は?」とケンの口らが音のような言葉が漏れた。


「あ、違うか。今朝ので5人目だったよね。」


女子生徒がそう言った、その時――――プシューッ。謎の音が響いた。

分かったのは、一閃の光のようなモノが発せられたこと。そして、見えたのはその光のみ。

同時に、唐突として感じる激しい痛み。

ケンはゆっくりと、痛むその左腕に視界を向ける。


「……はぁ? な、なんなんだよこれ……!?」


震える眼光、驚愕に歪む表情。

自身の左腕は血飛沫を上げて肩から下が無くなっていた。


「これから、行くのは――――地獄かな?

まぁ、ボクは行かないけどね。」


「な……? 何やってんだよ……おい……!

お前……!?」


 理解し得ないこの状況に、困惑と痛みと恐怖で歪んだ怪訝な表情を浮かべる。その刹那、女子生徒の姿が目の前から消えた。


 ――――プシュー、

 またも同じ音だ。そして、吹き飛ぶ右腕。

 

「これで、二つ目だ」


背後から聴こえる冷徹な声。


「そして、3つ――――4つ」


――――プシューッ

何度、この音を聞けばいい……?

ケンの心内は絶望感で満たされていた。

3つ目で右脚を失い、4つ目で左脚を失った。

――――ドンっと力なく倒れる身体。

全てが一瞬で刹那的。

気づけば、全ての手脚が無くまるで達磨だった。

 

 

「んー? 何今の音?」


――――ドンッと何かが倒れた音に振り返るエルバ。

そして、目の当たりに響き渡った――――


「うわぁわわわわ!!!!」


 エルバの悲鳴。


「なんなんだよ、いきなり!」


「うるせぇな」


 後ろを歩くエルバの悲鳴に振り返る二人。

 そして、彼らもまた目の当たりした。

 その信じられない光景を。


 見下ろされていた。

 それも嫌な笑顔で歪んだその表情に。


(何が……どうなってるんだよ……!?)


 ケンは自身の置かれた状況に困惑していた。

 突然四肢を斬られ、起き上がろうにも起き上がらない。


「あああ……!」


 エルバは腰を抜かした様に尻餅をつき、その場で動けなくなる。

 そして、「…………!」絶句するライオスと、「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌」と目の前の現実を拒絶するエミ。

 まるで、何かを見て畏れているようだ。


「流石だね。凄い生命力だね。」


 女子生徒上からケンを見下ろして感心するように頷いた。

 右手には、剣型魔道具を持ちその剣の刀身には血が滴り流れる。


「5人、キミが殺した人の数。これで、5つ目だ」


女子生徒が語るケンが殺したと言う5人の人間の数。その4つで四肢を切断し、残るは――――


「おい……!? なんなんだよこれぇえ!?

 ライオスぅう……! エミぃい……!エルバぁああ!!!」


 感じる恐怖。感じた死。

 必死に目の前の友人に、答えを求めた。

 だが、彼らの自分を見る眼は、畏れを抱く目。


「何をそんなに叫んでいるの?

キミだってそうやって助けを求め叫んでいた人間を殺してきたんだろ?」


女子生徒は不思議そうに首を傾げ、叫び助けを求めるケンを鋭い目つきで見つめた。

眼光は開き、目に力強さが迸る。


「な、なに言ってんだよ……!?

なぁ、ライオス……! エミ……! エルバ……!

助けて、助けてくれよぉおお……!」


必死に助けを求める姿に「はぁ……」と女子生徒は溜息をつく。


「まだしらばっくれるの気かい?

 キミが、ここ最近の事件の犯人なんだろ?

 事件を担当していたエクソシスト彼らもまさか、学生の中に潜んでいたとは思わなかっただろうね。」


 女子高生は、剣を空振りし刀身に付着した血液を払う。

(バレてる……!? 全部バレてやがる……! やばい、やばい、やばいっ……!)


 ケンは全てを悟りった。

 自分の正体も起こした事件を全て。全てこの女は分かっているのだと。そして、自分を狩に来たのだと。


「ライオスぅう……! エミぃい……! エルバぁああ!!! 誰でもいい!! 助けてくれよぉお!?」


 焦り、緊張、困惑。そして恐怖。

 ケンは無我夢中で、目の前の友人に必死に懇願した。


「ひぃいッ!」


「だ、黙れ……! バケモノォオオ!」


 しかし、エミとエルバの返答は拒絶だった。


「ライオスぅうう!!!」


「…………!」


 そして、最後にライオスに求めるがその結果は目を逸らし拒絶される。


「残念だったね。キミが正体を隠し潜んだところで、ボクらにはお見通しなんだ。

 キミが【悪魔】だってことくらいね。」


 ケンが横目で見上げた女子生徒の姿。

 剣を下に向け、握っている。


「じゃあ、ボクも祓魔師エクソシストとしてキミを殺すから。

 地獄。楽しんできてね? バイバイ。」


 そして、握った剣を真っ直ぐ突き下ろすのだ。

 それが、デビスが最後に観た光景だ。


 デビスとトミーのその目に映る景色。

 友人だったはずの、少年の転がる身体。

 その四肢は無く達磨同然。

 少し離れた所にある、斬り離された手脚

 そして、ケンの顔に突き刺さる剣は確実に彼の息の根を止めていた。

 彼のその顔は顔立ちに変化なくとも、だが人のそれとは少し異なり、耳が尖り瞳が黄金に輝く。

 飛ばされた両手は鋭く鋭利に、まるで刃物のように爪が伸びていた。

 それが、彼が人ならざる者と言う。

 ――悪魔の証明だった――。

 


「あっ…… 今何時だ?」


 緊迫した雰囲気の中、女子生徒の無邪気な動揺した声が響き渡る。


「8時半!? やばい! 遅刻だー!」


 女子生徒はポケットから携帯を取り出し、画面にて時刻を確認すると、血相を変えて走り出していく。


 その時、ライオス、エミ、エルバの3人は、ただただ、放心状態で腰を抜かし動けずに座っていた――――。

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