モンスターにご注意を!「飛び出し注意」
「ねえ、本当にこの道であってるの」
狭い車内の中、助手席に座る女性が心配そうに尋ねた。
「ああ、さっきの村で聞いた情報だと、この山道を抜けるルートが最短で王都にたどり着けるらしい」
「らしいってなんか曖昧ねえ。この車もオンボロの中古車だし、田舎者だからってからかわれたんじゃないかしら」
「これでも店で一番いいものを買ったんだ。それにこのご時世、客商売の冒険者をやるなら足は必須になってくる」
「だけど腕利きの人達は皆、空飛ぶ乗り物で移動しているらしいわよ。それだったら、こんな森の中を走らなくていいのに」
ぶつぶつと小言を並べる女に対して、男の方は呑気にドライブを楽しんでいる。ガタガタと揺れる悪路の上、乗り心地は最高とは言えなかったが、憧れの冒険者になるために大枚をはたいて買ったマイカーだ。
今はまだ郵便配達のような雑務をこなしているが、ゆくゆくは貯めたお金で装備を買って、ダンジョンに潜り一獲千金のお宝を狙う。そうすれば彼女が口にした飛行船の一つや二つなんて安い買い物である。
しかし、そんな妄想の世界から引き戻すように、ドンッ!という強い衝撃が体を大きく前に傾かせた。どうやら、草陰から飛び出してきた何かにぶつかったらしい。
「ちょっとちょっと。前見て運転してなかったでしょ」
「あんな突然出てこられたら、ブレーキなんて間に合わないよ」
「やっぱり見てないじゃない。少し前にちゃんと『飛び出し注意!』って書いた看板があったもの」
そう言い合いをしながら二人が車を降りると、真っ白な毛並みに一本の大きな角を生やした馬が倒れていた。
「こりゃあ酷いもんだ」
「大丈夫かしら?」
ボンネットのへこみ傷を心配する男に対して、女は一角獣の元に駆け寄った。しかし女がその生き物に触れようとしたした時、それは鼻をひくひくさせると、ピンと耳を立てて飛び上がって、そのまま身じろぎもせずに駆け出していってしまった。
「あら良かったわ。なんともなかったみたい」
「良い事なんてあるか。これを直すのに今回の依頼費用で足りるかどうか」
「なんの話してるのよ。あんたが轢いたユニコーンのことよ」
ああ、と男は相づちを打った。
「道理で君が近づいたら、大慌てで逃げ出したわけだ」
「それってどういう意味よ」
「君がこの車と同じって意味だよ」
そう笑う男の顔面に向かって、拳が飛び出してきた。
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