未来予知

「はい。それで、私はとあるweb小説の連載を楽しみに読んでいたんですが、突然更新が停止してしまって」 

 机を挟んで二人の女性が向き合っていた。入り口側に座る若い女性は、自分の悩みを向こう側にいる初老の女性に話した。

「それは不味いわね」

「そう思いますよね。ほぼ毎日のペースで更新されていたのに、何かあったんじゃないかって…まだ大魔王エスザーグの正体も明かされてないのに」

 マダムの方は、それを聞いてテーブルの中央に鎮座している水晶玉に手をかざした。

「もしかして、最近はサブキャラにスポットライトを当てた、番外編ばかり投稿されてなかったかしら?」

 マドモアゼルの方は、何かを思い出したかのように答える。

「言われてみれば、確かに本編が進まないまま、そういう投稿が多くなってた気がします。けどそれはキャラの掘り下げだとか、世界観を広げるのに必要なだけで、けっして無理をしてる感じはなかったですけど」

 おばさんはその言葉に頷いて言った。

「最初はね、ちょっとしたファンサービスだったりするのよ。でも一回そういうサブエピソードに手を出すと、どんどん本編との整合性が取りずらくなっていって、また気軽に書ける番外編の手を出して...」

「なるほど。本編を進めるのが億劫になってしまったというとですね。では待っていればそのうち帰ってくるんでしょうか?」

「安心しなさい。どうせ呑気にハンバーガーでも食べてるわ」



「流石、占い師さんは凄いですね」

「えっ?私は占い師じゃないんだけど」

「えっ!?いやいや、だって雰囲気あるし、水晶とか出しちゃってるじゃないですか。前の看板にも『相談者求ム』って書いてあったから、入って来たんですよ!」

「これはインスピレーションを高めるついでの副業よ。本業は短編小説を書いているの。でも未来予知っていうのかしら、最近はどんな小説を読んでも、オチが分かるようになっちゃったから、こうして生身の人間の相談に乗っているの」

「またまた御冗談を。そんな魔法みたいなことあるはずがないじゃないですか~」

「本当よ。なんなら試してみる?」


 そう自信満々に言われたお姉さんは『#ショートショート』と検索して適当な作品の冒頭を読み上げた。

「誰もいなくなった街で、私は冷たい手を...」

「はいはいはいはい。降りて来たわ」

「ええ、もう分かったんですか?」

「ズバリ!主人公は『ロボット』ね」

 そう言われてページを下までスクロールすると、『今日はどのオイルを飲もうか』というオチで締められていた。

「当たってますよ。凄い」

「誰もいないとか、人が住めなくなった、みたいな導入は人外の叙述トリックでよく用いられるの。そして極めつけは『冷たい』という表現ね。これは金属であると暗に説明しているのよ」

 言われてみれば確かにそんな気もした。けどそれは未来予知なのだろうか。ただ単に頭の回転が速いだけなのではないかと女性は思った。


「じゃあこれはどうでしょう。SNSでいいねが沢山付いてる話なんですけど...」

「いいわ。話してみなさい」

「高校時代、僕にちょっかいを出してくる女子...」

はいはいはいはい。と続きを話すのを手で静止される。

「ズバリ!それが今の『妻』ね」

「うわ、当たってる」

「まともな成人男性が、過去といえど女性の悪い点を言えるってことは、現在もその人と良好な関係性があると考えられるのよ」

 にわかに信じたいが、テンプレートを知り尽くしているにしても、彼女には話の先が見えるようだ。

「それじゃあ、この話のオチも分かったりするんですか」

「そりゃあ勿論。わざわざtwitterまで話を引っ張って来てるんだから..」


―*―*―*―*―


「そんな話あり得ないって!未来予知ができるなんてウソに決まってるじゃん」

「マジマジ。亡くなった祖母がそう言ってたんだから」

「うーん。それじゃあ本当だねー」


 さっきマックで、女子高生達がそう喋っているのが聞こえたので、この話はきっと実話です。

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