第34話 大地の恵み

「大きくな~れ、大きくな~れ♪」


 ドライアドちゃんたちを救出した俺たちは、エルフはもちろんのこと、すべての森の民からとても感謝された。


 今回グリティアへやってきた目的を改めてドライアドちゃんたちに説明したところ、喜んで協力してくれるという。


 彼女たちと一部の森の民を引き連れ俺たちが魔都へ帰還すると、フィーネが驚きに目を見開いていた。


「あ、あんた本当にグリティアの連中を説得したの!? 一体どうやったのよ!」

「俺にかかればこの程度、背を向けた美少女ちゃんたちのブラホックを片手で外すくらい容易いことだ」

「い、意味がわからないけど……思ったより使えるわね、あんた」


 と、フィーネが口にするれば、ともに魔都へやって来たエルフたちが怪訝な面持ちで彼女に物申す。


「ちょっと、偉大なる王に対して何なのよこいつの態度」

「それが偉大なる王に泣きついた情けない魔王の態度なの」

「助けてもらってるんだからそれなりの態度で敬意を示しなさいよね」


 げっ!?

 エルフたちが魔王フィーネに対してとんでもない暴言を口にしている。

 言葉の意味がいまいち理解できないフィーネだが、徐々に不服そうに唇を尖らせていく。


 俺は透かさずフィーネの元へ駆け寄り、耳元で森の民たちを騙して従わせる策を使ったのだといいわけをする。

 すると、フィーネがジト目で俺を睨んでくる。


「し、仕方ないだろ。食糧事情を改善するためには真っ当なやり方では失敗に終わるんだよ」

「まぁ……いいわ。今回だけはあんたの働きに免じて許すことにするわ。か、感謝しなさいよねっ」

「うん。寛大なフィーネに感謝だな」

「だだ、だから馴れ馴れしく呼び捨てにするんじゃないわよ!」


 真っ赤な顔で憤怒するフィーネは照れ屋さん。

 それに……とても甘くていい薫りがする。


 クンクンと匂いを嗅いでいるうちに、フィーネの唇が目と鼻の先にやって来る。柔らかそうな唇だ~なと指先で触れてみると、


「ひっきゅっーー!?」

「きゅっ……?」


 ピーンと姿勢を正したフィーネの体温がぐんぐん上昇していく。それが触れた指先を通して伝わってくる。


「ふふふ、不敬よっ! ああああ、あたしのかか、体に触れるんじゃないわよっ!」


 フィーネの恥じらいとこの態度……まさか!?


「ひょっとして……フィーネは魔王さまなのに……」

「いい、言うなっ――!! そ、それ以上言ったら殺すわよ! 魔王の矜持を守るためにも、ああ、あんたを殺すからっ!」

「落ち着いてください、魔王さま」


 錯乱するフィーネを宥めるメルデに、「ここは私が何とかしますから……魔都の外を立派な農地に開拓してきてもらえますか?」と頼まれた。


「わかった!」


 フィーネがまだ男を知らない純潔清らかな魔王だという素晴らしい情報を仕入れた俺は、魔王城をあとにすると同時に、


「今度手取り足取り俺が教えてあげるから、恥じる必要はないよ」


 と優しく声をかける。

 とても紳士的な俺にフィーネは、


「う、うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ――!!」

「ま、魔王さま、落ち着いてくださいっ!?」


 初めての経験ができることが余程嬉しかったらしく、メルデが困惑してしまうほど興奮していた。


 こりゃフィーネとムフフな夜を迎えるのも案外遠くないなと、俺は確信する。

 フィーネを側室にするまであと少しってところかな?



 そして現在――俺はドライアドちゃんたちと一緒に荒れ果てた大地で、「大きくな~れ♪」と舞を踊る。


 大地に無造作に蒔いた種がポッと芽を出し、あっという間に実をつける。

 さらに乾いた大地を見つめるドライアドちゃんたちが可哀想と囁き、魔界の大地に栄養を与えるために一晩中歌い、踊り続けた。


 その結果、翌日には荒れ果てた魔界の大地が見渡す限りの高原へと生まれ変わっていたのだ。


「おおっ、凄い!」

「さすがはドライアドじゃな。たった一晩でここまで死んだ大地を蘇らせるとは」

「まさに木々の妖精だな、相棒」


 これなら他国と戦争になったとしても、貿易による食糧事情を心配する必要はない。

 ドライアドさえ居れば、年がら年中収穫可能となるのだから。


「やっぱりドライアドさんの作る果物はとっても美味しいです! ご主人さまもお一つどうですか?」

「うん、せっかくだから貰おうかな」


 ユニに進められて林檎を一口食べてみると、


「っ!?」


 これまでに俺が食していた林檎は一体なんだったんだと思ってしまうほど、濃厚な蜜の甘味が口の中いっぱいに広がる。

 あまりの美味しさに眩暈がする。脚がガクガクとフラついてしまう。


「全部……これ全部……こんなに美味しいのか?」

「ドライアドさんが作っていますかね」


 これ……もしも他国に知られたら……戦争に発展しかねない美味しさだぞ。



 その後、収穫した野菜や穀物などを使った料理を食べたフィーネが、見たこともない表情で蕩けていた。


「ううううううまいっ! ちょっとなによこれっ! グリティアの連中は毎日こんなに美味しい野菜や果実、穀物を食べてたわけっ!?」


 フィーネが絶賛するのも無理はない。

 俺もあまりの美味しさにお漏らししそうになってしまったのだから。

 危ないところだった。


 それに、かつて魔族がグリティアのそれらを食い散らかしたという話にも、不謹慎ながら納得してしまった。


「よし、これを沢山持って国に帰るぞ! 激安で美少女みんなに食べてもらうんだ」


 きっとみんな喜ぶぞ! 美少女が大好きなクレープだっていまよりさらに安く食べられるようになるんだから、いいこと尽くしだな。


 それにこれを売った利益は莫大な額が見込まれる。

 それらで得た収益で学校を設立して優秀な美少女文官や武官を育て上げ、美少女保護の孤児院も設立しよう。

 大切な我が国の美少女を守ることは王たる俺の使命なのだから当然だ。



 ゆくゆくは城内を美少女能史たちで溢れ返らせてやるぞ!

 ムフフ……♡

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