第28話 策士ミラちゃん

「危なかったな相棒。危うく相棒の変態的カリスマ性が露見してしまうところだったぜ」

「まったく持ってその通りだ」


 フォクシーたちとは違い、ユニは根っからの変態さん。きっとこれまでエルフの里で抑圧されてきた性に対する感情が解き放たれたことにより、いつでもどこでも変態さん的なことを口走ってしまうのだろう。


 可愛くて忠誠心に溢れているのだが、その分爆弾みたいな存在になりつつある。ユニには変態爆弾娘という称号を与えてやりたいくらいだ。


「して、ここからどうするのじゃ? お前さまよ」

「ゲートの位置は町から一キロ程離れているみたいだね。数人なら岩影に隠れて気づかれないと思うけど、数百となればご主人さまの言う通り一発で気づかれちゃうね」


 ゲートの位置は町の北側から一キロか……ここから数百のエルフが風に乗って駆け抜けたとしても、最短で三十秒はかかるかもしれん。

 いや、重装備のエルフたちだともう少し時間を有する可能性も考慮すべきだな。


「スリリン、望遠レンズに変化だ」

「あいよ」


 町の入口は四ヶ所――東西南北それぞれの門には厳重に見張りの兵が立てられている。エルフたちが北側にゲートを設置したのは、町の北側が搭への最短ルートだったからというのは理解できるが……やはり思った通り。


 町へ侵入することが一番難関だな。


「フォクシー、この辺り一帯……いや、エルビン国中のモンスターや魔族と連絡を取ることは可能か?」

「妾の眷属たちを召喚すれば容易いの」


 言うと、フォクシーは胸元から煙管を取り出し、煙を吐き出しながら呪文詠唱を行う。


いにしえの盟約に従い、常闇に眠りし闇狐よ、我が命聞こえたなら馳せ参じよ。影をまといし我が忠実なる下僕どもよっ――!」


 詠唱を終えるとフォクシーの吐き出した煙がドス黒い闇と化し、そこから闇をまとった狐が次々と姿を現す。


「お呼びでしょうか、フォクシーさま」


 低くドスの聞いた重低音が大気を揺らす。まさに闇の使者だな。


「で、これからどうするのじゃ?」

「簡単な話さ。エルビン国中に潜むモンスターや魔族に近くの村や町を一斉に襲わせる。その際、できる限り人命は奪わぬように、そうだな……建物や農作物をメインに襲わせよう。できるだけ被害が大きく見えるようにと付け加えて」


 さらに俺は指示を出す。


「時間差でこの辺りに潜む魔族やモンスターを南側に集結させ、町の連中の目を北から南に集めさせようと思う」

「なるほどな。そうすることによってここへ集まる兵力を分散させ、尚且つ北側の警備を甘くするってわけかい、相棒!」


 それだけじゃない。重要なのは時間差で襲わせる場所を変えていくということだ。


 エルビン国を、この場所を一つの的の中心点として見立てる。そこからゆっくりと円を広げるように内から外へ攻撃を仕掛けていく。

 すると、近くに滞在していた兵たちは持ち場からもっとも近い町や村へと移動を開始する。


 そうすることによって最終的には中心点からもっとも離れた場所に相手の兵力が集まっていることだろう。

 もちろん、最終目標であるこの町の兵たちも、最小限の兵を残して援軍に駆けつけることになる。


 そうなれば、町に残された兵力はわずかなものとなる。そこに今度は南側から待機させていたモンスターや魔族を進軍させる。このとき重要なのは、進軍させるフリをさせることだ。


 実際に町へ侵入してしまえば町中での大乱闘へと発展してしまうから、それはNG。

 あくまで町に残された兵に危機感を持たせ、南側へ集結させることに意味がある。


 北側がもぬけの殻となった頃合いを見計らい、一気にエルフ軍が突撃をかける。


 仮にエルビン側がそのことに気づいたとしても、すでに遠く離れた場所に集められた兵が戻るまでにはかなりの時間を有することとなる。


 しかも、短期間で大移動を繰り返した兵は疲弊しているので、最終的にモンスターや魔族側の被害も最小限に食い止めることが可能と思われる。


 搭に囚われたドライアド姫宮たちを救出し、俺たちは再びゲートを通りグリティアへ帰還する。


「これが俺の立てた作戦だ」

「ご主人さま凄いです!」

「うむ、見事な策じゃの」

「さすが俺の見込んだ相棒だぜ。あの糞の掃き溜めみたいな虫穴の洞窟を、わずかな一月で改革しただけはある!」


 フォクシーもユニもスリリンも、俺の完璧かつ卑怯な作戦に勝利を確信している。


「じゃが、どうして人命をできるだけ奪わぬようにと付け加えるのじゃ? 減らした方が魔王さまの、延いてはペンデュラム国のためではないのかや?」


 バカなことを仰いっ!

 俺はまだこの国の女たちを全員見たわけではないのだぞ。ひょっとしたらとんでもない美少女ちゃんがいるかもしれないじゃないか。


 それなのに殺されたとなってみろ。それは至高の財宝と知りながら、自ら海の底に沈めるのと同じくらい……いや、それ以上に愚かな行為でしかない。


 なんとしても美少女ちゃんたちの命が第一優先されるべきなのだ。彼女たちの命を軽視する者など極刑――死罪に値する!


 俺がこの世界の真なる王となった暁には、美少女ちゃん免税法案を可決してやるつもりだ。

 たとえそれで多くの者から大反感を買ったとしても、美少女ちゃんたちから好かれればミラちゃん満足だもんねー♪



「それはだな……いずれこの国を手中に収めたとき、人口が激減していては役に立たないだろ? のちに大帝国率いる勇者たちとの戦いが待ち受けているやも知れないのだ。女衒のフォクシーともあろうものがそんなことすらわからないのかよ」

「す、すまぬ……」


 あら、フォクシーが珍しく悄気てしまった。少し言い過ぎたかな? あとで謝っておくか。


「では、作戦に取りかかれ、闇狐たちよ!」

「御意!」



 落ち込んでしまったフォクシーに代わり、敢然と指示を出す。

 荒野を目にも留まらぬ速度で駆け抜けていく闇狐が、あっという間に遠ざかり、見えなくなってしまった。

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