第27話 余計な一言
翌朝――『木漏れ日亭』を出て里の中央広場にやって来た俺の前には、すでに数百もの戦士たちがずらりと並び立っていた。
大剣や長剣、弓に槍など多種多様な武器を携えたエルフたち。騎士の一等星の精悍な顔がそこにある。囚われたドライアドたちを救い出したいという意志がひしひしと伝わってくる。
エルフたちが考えたドライアド救出作戦は、あらかじめエルビン国内にセットしておいたゲートから侵入を果たし、彼女たちが囚われている搭へ侵入するというもの。
しかし、作戦遂行までに時間を有してしまえば、その時点でエルビン国の膨大な兵が集まってくるだろう。そうならないためにも迅速かつ正確にドライアドを救出し、急いで撤退しなければならない。
ようは即座に撤退する戦術――ヒットアンドアウェイ戦術を行うというものである。
この戦術においてもっとも重要となる要素の一つが、情報伝達のスピードだ。
ドライアドを救出したことをすべての仲間に伝え、尚且つ即座に撤退の意を伝えなければならない。
少しでも情報伝達に支障をきたせば、危険な状況に陥ってしまいかねないからだ。
常に正確な情報を共有するために、エルフたちは言の葉を用いた魔法を行使するという。
が、それではまだ足りない。
常識的に考えて、突然町の外に武装した数百ものエルフが確認されれば、その時点で見張りから各兵に伝達が行き渡り、町へ侵入を果たすことすら困難となる。
仮に町へ侵入を果たしたとしても、その時には町の警備は数段強固なものとなっているだろう。
その中でドライアドが囚われている搭へ侵入し、救出するとこは限りなく困難であると考えられる。
そこで、俺は提案する。
「先に俺とフォクシー、それにユニがゲートを通りエルビン国へ向かいます。エルフの皆さんはユニからの連絡があり次第、ゲートを通り町への侵入を行ってください」
「失礼ですが……いくら偉大なる王といえど、敵の目を撹乱することは不可能では? 我々が攻めいるのは敵国なのですよ」
「確かに、普通の者ならば敵国へ単身乗り込み、彼らの注意を別の場所へ向けることは困難でしょうね。しかし、私は偉大なる王ですよ?」
余裕の微笑みとともに泰然と言ってのける。
そうすることで彼らの胸の中に芽生えたわずかな不安を霧散させると同時に、俺が如何にすごい人物であるかを頭の中に叩き込む。
ミラちゃん凄い! となれば彼らは今後、敬意や感服の念から絶対に俺を裏切らなくなる。
国や民が俺に不信の念を抱いたとしても、結局最後には従う。
それはこれまでの実績がミラスタール・ペンデュラムというカリスマ性を燦然と輝かせ、必要だということを心のどこかで皆が感じているからだと思われる。
彼らもこのドライアド救出作戦を通して、真のカリスマなくしては平和は手に入らないと思い込むように、絶対的なカリスマ性を見せつけてやらねばならない。
それこそが人心掌握――完全なる支配なのだ。
「わかりました。あなたは魔王が泣きついた程のお方、あなたの手腕を信じましょう」
「うん。俺の手にかかれば彼らの目を欺くなど、エルフが山菜を摘みに森へ赴くようなものさ」
目尻に皺を作ったエルフたちの表情が、本来の穏やかなものへと変わっていく。兵の不安を拭い士気をあげる。
これもカリスマ性のある俺だからこそ成せる技なのだ。
まったく緊張感に欠けていては使い物にならないが、強張った心と身体では上手く戦場を駆け抜けられなくなる。適度なガス抜きは事を円滑に進めるために必要なことだと考えている。
これが俺なりのやり方だ。
「話が済んだようじゃな」
「なら作戦開始と行こうぜ、相棒!」
「スケベなボクもご主人さまのために頑張るよ!」
「…………っ!?」
ユニが突然変なことを言い出すから、心臓が止まりかけたじゃないかっ!
しかもエルフのみんながギョッと我が目を、耳を疑うようにユニと俺を交互に見ている。
まずいっ!? せっかくここまで順調だったのに、不審に思われちゃうじゃないか。
「あ、あの……」
戦士長のお姉さんが戸惑いの声音を発している。誤魔化さないとっ!
俺のカリスマ性が霧散霧消してしまうっ。体から剥がれ落ちていくオーラを捕まえてくっつけないとっ!
「ユ、ユニノジョークハ……アイカワラズオモシロイデース……」
しまったぁぁあああああああっ!?
動揺し過ぎて片言になってしまった。不覚だっ! ミラちゃんのお馬鹿ちゃんっっ!
恐る恐るチラッとエルフたちを見やると、
「あ~なんだジョークか」
笑っている……皆笑ってくれている。
た、助かった……。
まだ完璧に信頼を勝ち得ていないうちから変態さんを育ててしまったことがバレたら、せっかくの紳士的なミラちゃんのイメージが崩壊してしまうところだ。
そうでなくてもエルフがエッチなことに疎いことは昨日の男たちの反応と、それを見た女たちの反応からも簡単に見てとれる。
闇に生きる魔族とは違い、光の加護をその身に受けるエルフたちは純粋無垢だからな。
ゆっくり性教育を施し免疫をつけていかないと、計画がパーになってしまう。
ゴホンと気を取り直し、俺はみんなに「じゃあ行ってくるよ」と愛想笑いを浮かべて、魔方陣の上に立つ。
オーロラみたいな光のカーテンが俺たちを包み込むと、俺は危なかったと盛大に嘆息してしまう。
ミラちゃん危機一髪である。
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