第24話 女を征する者

「コホン」と一つ咳払いをし、俺はゆっくり立ち上がる。そのまま犬歯を剥き出しにしたフォクシーの肩に手を置き、「落ち着いてよ」と声をかける。


 次いで大股で数歩歩く。


「止まれっ!」と威嚇の声が森中に木霊を重ねる頃、俺はエルフちゃんの真下で歩みを止めて見上げる。


 ムフフ……計算通りここからだとパンティちゃんが丸見えだ!

 純白のパンティちゃんは清楚なイメージのエルフちゃんにとても相応しい。


 堪らず興奮した俺は見上げる股間めがけて淫魔術を放つ。


「んっ……!?」


 すると、身悶えたエルフちゃんが弓を手放し、翼を失った天使のように降ってくる。

 それを透かさずお姫様抱っこで受け止めた。


「大丈夫か……具合が悪そうだな」

「んんっ……はっ、離せっ! ……ヒィッ!?」

「これはすごい熱じゃないか!?」


 腕の中で緩慢と身をくねらせるエルフちゃんの額に自身の額を押し当て、熱を測る。

 淫魔術によってエクスタシーを感じているエルフちゃんの体温が急上昇していることを確認。


 さらにこの美少年の顔が急接近したことにより、奥ゆかしいエルフちゃんが恥じらいの表情を浮かべた。


「大丈夫、俺たちは敵じゃないさ。ただ少しお願いがあってここへ来たんだ」

「おっ、おねがぃ……んっ? 」

「君のことを仲間の元へに届けたいし、棲みかまで案内をしてはもらえないか? この熱では自力では歩けないだろ?」

「わっ……わかった、んんっ……」


 唇を噛みしめて快楽に溺れまいと我慢する表情と仕草、双方が相まってとてもエロティクだ。


「聞いた通りだ、フォクシー。彼女をエルフの棲みかへ運ぶぞ」

「そういうことならいいじゃろう」

「スリリン、変化だ!」

「あいよ」


 俺は羽織ローブ姿のスリリンを歩く三角木馬へ変形させ、その上にエルフちゃんを座らせた。


「あぁっん!? こ、これ……はっ」

「すまんな、スリリンはまだ上手くお馬さんに変身できない未熟なダークスライムなんだ。座り心地が悪いかもしれんが、我慢してくれ♪」

「誰が未熟だよ! これはお前が……っ」


 黙れとスリリンを眼だけで征し、元気よく森の中を突き進む。


「お前さまよ、なんでそんなに嬉しそうなのじゃ」

「気のせいだ」

「んんっ……」


 スリリンが一歩、また一歩と歩く度、エルフちゃんの股間に三角木馬が突き刺さる。

 その都度お尻を浮き上がらせ、耳まで真っ赤に染めたエルフちゃんの美声が、美しいウグイスを彷彿とさせるように森に降り注がれる。


 これぞまさに森の妖精によるラプソディ。


 俺はオーケストラの指揮者にでもなったような気分で、両手を大きく振りながら楽園を目指した。


 途中、エルフちゃんに色々と質問をしたが、いまいち何を言ってるのか聞き取れない。

 唯一聞き取れたのは彼女の名前だけ。


「はぁ……はぁっ……あぁ、あそこがっ!? んっ、ボ、ボクたちぃ、のんっ……」


 しばらく歩くと大木を住居に見立てた幻想的な村が見えてきた。

 そこをエルフちゃんことユニがぷるぷる震える指先で指し示すと、


「止まれっ! 貴様ら何者だ……って、ユニ!?」


 村の門番らしきダークエルフの男が昇天寸前のユニの元へ駆け寄ってくる。

 ユニのただならぬ状態に違和感を覚えた男が、携えていた槍先を向けてきた。


「貴様らユニに何をしたァッ――!!」


 威圧感たっぷりな男の怒号に、村から「敵襲かっ!」と、殺伐とした声音が返ってくる。

 次々と村から飛び出して来るエルフたちに、俺たちはあっという間に取り囲まれてしまう。


 武器を突きつけられたことに苛立ったフォクシーを手で制止、俺は敵意がないことを示すために両手を上げた。


「んんっ……違うっ、か、かれらはぁっ……」


 途切れ途切れ、震える声音で自身が体調を崩したことを、俺たちがここまで運んできてくれたことを丁寧に説明してくれる。


 そのお陰でなんとか誤解は解け、一触即発の状況から抜け出すことができたのだが、ダークエルフの男がユニをスリリンから降ろそうと触れた瞬間――。


「ら、らめぇぇえええええええええええええええええええっ――!?」


 絶叫をあげながらユニが果ててしまった。 

 男を突き飛ばし、大地に崩れ落ちた彼女の股間からはジワッと聖水があふれくる。

 その様を、男たちは股間を押さえながら凝視している。


 このドスケベどもめがっ!


「ユニは体調が優れぬのだぞ! 手荒な真似をしては身体に差し支えるだろ」


 俺は手際よくスリリンを羽織ローブに変化させ、それをユニにそっとかけてあげた。

 とても紳士的な俺の振るまいに、ユニは火照った身体でありがとうと小さく口にした。


「スケベなことなど考えず、彼女を気遣う者はおらぬのかっ!」


 何事かと集まってきたエルフの女たちが、その光景に目を見開き、男たちに軽蔑の眼差しを向けている。


「ち、違うっ!?」

「け、決してそのようなやましい考えなど」

「誤解だぁ!」


 果ててお漏らしをしたユニを眼下に、股間を押さえながらのお前たちでは説得力の欠片もない。

 その点、俺のこの紳士的な振るまいに感銘を受けた女たちが、優しく村の中へと案内してくれる。


 ドMでもない者が大勢の男の前で羞恥を晒す。それがどれほど屈辱的で恥ずかしいことか。


 ふんっ。

 女の扱いすら心得ていないとは、この未熟者どもめがっ。

 女を制する者、世界を制す。

 俺に淫魔術を教えてくれた師の教えだ。


 所詮すべての生命は動物アニマル

 種族が違えど女に好かれた者が上に立つことを、こいつらは知らないのだろう。




 ドライアドでもない限り、命を育むことができるのは女性だけなのだから。

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