第23話 聖地グリティア

 思い立ったら即行動――これが俺の信念である。

 国のことは大臣に、お店の経営に関してはレネアとリリスに任せてきた。


 一人で楽園へ赴こうとした俺について行くと言って聞かないフォクシーと、相棒のスリリンを引き連れ、懐かしき魔界の地に足を踏み入れる。


 魔都からゲートを通り、ドライアドたちが暮らす深き森――グリティアなる場所へやって来た。

 見渡す限りの緑。天まで伸びているのではないかと仰ぎ見てしまうほど立派に育った木々。


「見事だな」

「妾もグリティアに来るのは初めてじゃ。十分注意するのじゃぞ、お前さまよ」

「注意?」

「いいか、相棒。グリティアはドライアドの聖域。そこには世界樹と呼ばれる誕生の樹がある。見えるか? 遥か彼方にそびえ立つあのバカでかい樹が」


 スリリンの言葉通り、森の入口からでも十二分に確認できるほど、一際巨大な樹がそびえ立っている。


「あれが世界樹じゃ。ドライアドはあの樹から生まれ来るとされており、あやつらはあれと強い繋がりを得ておる」

「要は世界樹が失われればドライアドは息絶える。あれは彼女たちにとっての心臓みたいなものなんだ」

「早い話が大きな樹を傷つけるなってことだろ?」


 それはそうなんじゃがと頷くフォクシーの相貌が優れない。他にもまだ何かあるのか?


「グリティアには多くの種族が暮らしておる。彼らは森の民と呼ばれ、極端に魔族を嫌っておる。中でもエルフどもは魔族を心底嫌っておると有名じゃからな」

「エルフ!?」


 もっとも重要なその部分に関しては書庫で読んだから知っている。

 妖精族と呼ばれるエルフは光の加護を受ける種族であり、相反する闇の加護を受ける魔族を毛嫌いしていると書いてあった。


「それにじゃ」

「まだ何かあるのか?」

「エルフが魔族を嫌うようになった一番の理由が問題なのじゃ」

「光と闇……相反する者だからだろ?」

「光と闇は本来一つのものとして捉えられておる。闇があるから光がある。また逆も然りじゃ。そこに関してはそこまでお互い気にしてはおらん。ダークエルフもおることじゃしな」

「そうなのか」


 ならなぜエルフは魔族を嫌っているんだ?

 闇の加護をそこまで嫌っていないなら別に毛嫌いする理由がないじゃないか。


「遡ること数百年前のことじゃ――嘗て魔界を治めておった魔王さまが勇者に敗北を喫した。魔界は魔王さまの加護で成り立っておる。その魔王さまがいなくなればどうなると思う?」

「……どうなるんだ?」

「次の魔王さまが誕生されるまでの間、魔族の生命力は著しく低下し、魔界の大地はいまよりも遥かに痩せ細ってしまうのじゃ。そうなってしまえば、食糧を求めた者たちはどこへ向かうか……考えるまでもないじゃろうて」


 つまり、腹を空かせた魔族はグリティアへ食糧を求めやって来た。

 が、そのあまりの数にグリティアの食物は食い荒らされてしまったというわけか。


「あれから数百年……棲みかを荒らされたエルフやドライアドはいまもそのときのことを恨んでおる」

「多種族が聖地グリティアに足を踏み入れただけで、エルフの王が激昂し、八つ裂きにされるともっぱらの噂ってわけさ」

「危険なことはよく理解した」


 けれど、だからと言って尻込みする俺ではない。この森の向こうに未だ見ぬかわい子ちゃんたちが、俺の側室になりたいと豊満な胸を寄せながら待っているのだから。


「では慎重に、細心の注意を払いながら進むとするか」

「じゃな」

「あまり無茶はしないでくれよ、相棒」


 行く手を遮るように、鬱蒼と覆い茂った草木を手で払いのけながら道なき道を突き進む。


 この険しい道の先に妖精美少女ちゃんたちの楽園が待っている。想像しただけで足取りは軽やかになる。まるでマムシドリンクをがぶ飲みしたときのような高揚感に包まれていく。

 ちっとも疲れないのだ。


 むしろ迸るように流れる血液が熱を帯び、滾る情熱が俺のコスモスを矢印のように変化させる。迷うことなく道を指し示す。


 こっちだぞ、こちらに目的の宝が眠っているぞと、この胸の鼓動を高鳴らせて止まないのだ。


 あぁ……匂う。

 木々を優しくなでるそよ風に混ざり流れ込んでくる甘い蜜の薫り。それが鼻先を掠め鼻腔の奥に広がる度、爆発的に脳内でアドレナリンが分泌されて、一気に噴出。


 俺が求めてやまない女性メスの匂い!


「おい相棒……なんか脈が異常だぜ。大丈夫か?」

「本当じゃの。目が血走っておるわ。少し休むかや?」

「バカをいいなさいっ! 一分一秒でも早くたどり着く。それが俺の使命なんだ!」

「お主は本当に善き王なのじゃな。我が身を顧みず、自ら民のために困難に立ち向かう……妾は感服するばかりじゃ」

「これは……そんなんじゃねぇと思うけど?」


 延々と似たような景色を突き進んでいると、突然俺の足下にズバーンッと鏃が突き刺さる。


「うわぁ!?」


 びっくりたまげて尻餅をついてしまった。


「なんじゃ!?」


 俺を庇う形で身を乗り出したフォクシーが、獣のように喉を鳴らして威嚇している。


「無礼者め、姿を現さぬかっ!」

「無礼者はどっちだい? ここはボクたち妖精族の縄張り、許可なく侵入した時点で殺されても文句は言えないはずだよ」

「上だっ、木の上だぜ!」


 スリリンの言葉を受け、なぞるように大木へ視線を向けると、そこには雪のように真っ白な髪を後ろ手に纏めた美少女が一人。


 緑を基調とした露出度の高い衣装に身を包んだ美少女だ! 弓を構えるその姿、真珠のように光輝く真っ白な素肌と、特徴的な尖った長耳……間違いなくエルフッ!




 ついに、遂に見つけたぞ! スケベな森の妖精エルフをっ!

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