第9話 最強のゴブリン軍団!?

 俺の作戦は果たして上手くいくのだろうか。

 鼻をほじほじしながらネズミの唐揚げに腕を伸ばし、スライムモニターを横目で見ていると、三人組みの冒険者が掃き溜めに足を踏み入れた。


 短剣を腰に提げた軽装備の男と、背に大剣を担いだ重装備の男。それに魔女っ子ファッションの女か……。

 一見パーティバランスはかなり良さそうに見える。


「随分余裕だな」

「まぁな~。あの程度なら問題ないだろう」


 ダンジョン内をずけずけと先行する軽装備の男が落とし穴を目前に立ち止まった。

 どうやらトラップに気がついたようだ。

 『間抜けめ』とほくそ笑んだ男がカモフラージュ用の布を一気に剥がすと、


『う、うわぁぁああああああああああっ!?』


 軽装備の男の腕や体に、あらかじめ落とし穴の下で待機していた蜘蛛モンスターの放った糸が絡まる。そのまま力任せに穴の底に叩きつけられた男は、無数の蜘蛛の餌食だ。


『ジョイ!?』

『う、嘘でしょ!?』


 こいつは二重トラップ。

 普通に落とし穴に引っかかればそれでよし。

 しかし引っ掛からなかった時のことを考慮し、あらかじめ蜘蛛モンスターを穴の中に待機させておく。


 そうすることで布を引き剥がすと同時に、油断した間抜けを一気に巣穴へと引きずり込む。

 全身強打で動けなくなったところを美味しくパクリンチョ……ってなわけさ。


 仮に布を引き剥がさなければ、後々後方から挟み撃ちにもできるという高難易度トラップ!


 ただの落とし穴だと油断した間抜けは、ダンジョンという名の魔の巣窟に朽ちていくのさ。


「さぁ、どうするかな?」


 駆け出し冒険者が意気揚々と狩場だと聞かされていたダンジョンへ足を踏み入れて数分――あっという間に無惨な姿と変わり果てた仲間を見せられれば動揺するのは当然。


 その結果、彼らは著しく判断能力が低下する。冷静さを失った人間が如何に弱いかご存じかな?

 大人しく引き返せばいいものを、冒険者の矜持が彼らの退路を断つ。


 傲慢が許されるのは俺のような生まれながらの王だけだということを、彼らはまだ知らないのだろう。

 不分相応の傲慢は己の身を破滅へと誘っていく。


 結果、焦って足下が疎かとなり、毒矢をその身に受けてしまう。


『パピーッ!?』

『ぐっ……』

『傷は浅い、いま解毒剤を』


 間抜けめっ。

 仲間を思いやるその殊勝な心がけは感心するが、暗く狭い洞窟で膝を突くという行為は感心しないな。

 それに……あまりにも無防備。


 敵がお前たちの回復を待ってくれると本気で思っているのか? 愚か者めっ!


「かかれ――ゴブリンスライム!」

『了解……マスター』


 蝙蝠マイク越しに指示を出すと、曲がり角で息を殺して待機していたゴブリンたちが一斉に飛び出す。


「っ!?」


 慌てた重装備の男が背の大剣を抜き取るが、それは洞窟では些か大き過ぎやしないか?

 案の定、巨大な大剣は岩肌に阻まれて満足に振ることすらかなわない。


 時と場合――状況に応じて武器を選択することも戦場では基本だ。

 使い慣れた得物が必ずしも、その環境下で己の身を守ってくれるとは限らないのだから。


 咄嗟に大剣を手放し、懐に忍ばせていた短剣に切り替えたまではいい判断だ。

 だが、お前はちゃんと眼前のモンスターを確認しているのか?


『な、なんだこいつら!?』

『よ、よろい……ゴブ、リンがっ……鎧を着て、る……ですって』


 ご名答。そいつは俺が考案したスライム鎧だ。

 スライムの特技は固形変体――これをスリリンから聞いたときから、俺は何か使い道がないかと考えていた。

 そして閃いたのが、柔軟性に優れた軽い鎧だ!


 速かろう? お前のように重量のある鎧を装着していれば、確かに防御力は絶大。

 だがそれには致命的な欠点がある。

 戦闘においてある意味もっとも重要となる俊敏性が損なわれるという点だ。


 その点、スライムは軽い。

 軽いだけではなく、その形を自在に変化し、時にバネのようにその身を変えながらゴブリンたちをサポートする。

 超高速移動が可能となった小さな鬼を捉えることは至難の技。

 もちろん、捉えたところで……。


『と、届かない!?』


 分厚いスライムの鎧を前に、短い刃先など届くはずもなかろう。

 スライムは『打撃』『斬擊』を無効化する。五歳児でも知っている常識だ、バカタレ。

 唯一お前たちに活路があるとすれば、魔導師による火系魔法による攻撃のみ。


 けれども残念。


 肝心の魔導師さまは毒で身動き一つ取れぬときた。

 つまり……お前ら、もう詰んでるんだよな。


「……圧倒的だな」

「……お前本当にえげつないことを思いつくな。ありゃーそこそこ経験を積んだ冒険者じゃないと太刀打ちできないだろうよ」


 確かにスリリンの言う通りだ。

 モニター越しに見ていた俺も、とんでもないモノを考案してしまったと放心状態となっている。


「けどよ、お前人間なのに……同族を殺して心が痛まないのかよ?」

「そりゃ多少は痛むさ。けどな、この世は所詮弱肉強食なんだよ。人間は魔族やモンスター以外とも戦争を繰り返してきた。その歴史の上に成り立っているのがいまの人間社会だ」

「ふーん、だから同族を殺してもいいと?」

「そうは言わないけど、何かを守るためには、時に何かを犠牲にすることも必要ってことさ」

「なるほどな」



 俺は俺の夢と、一国の王というポジションを守らねばならん。

 そうしなければ……大切な側室が失われてしまうのだから。


 それだけは……それだけは死んでも守り抜かねばっ!

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