第7話 これが俺の魔剣だ!

 俺は勢いよく鞘から抜刀し、そいつを天高く掲げて有象無象どもに見せつける。

 すると、予想通り剣身のない不格好なゴミを目にした連中が嘲りの声を響かせる。


 しかーし、俺は臆することなく決然と言ってやる。


「愚か者どもめがっ! 貴様らのような低レベルな有象無象の輩には見えまい。このフィーネ・サンタモニカ・ブレイド・サトラス魔王陛下から授かった魔剣の剣身がっ!」

「え……?」

「剣身なんてあるか?」

「いいや、見えねぇぞ」

「どこからどうみても柄だけのゴミにしかみえねぇが……」


 かかったな愚か者どもめっ。

 どいつもこいつも間抜けな面でありもしない剣身を見ようと目を凝らしている。

 どれほど目を凝らしたところで見えるか、バカタレ!

 しかし、大事なのは如何にハッタリをかますかにある。


「貴様らに見えぬのも無理はなかろう」

「ど、どういうことだよ」

「これは魔剣……そう……」


 しまったぁぁあああああ!

 肝心のカッコいい名前決めてなかった。魔剣の名前は威風辺りを払うのにもっとも重要だ。


「……魔剣……魔剣……あっ! 魔剣風の真空剣エアルブレイドである!」

風の真空剣エアルブレイドだと!?」

「あれぇ~、魔王さまの部下なのに魔剣風の真空剣エアルブレイドのことすら教えてもらっていないのかなぁ~」

「お、俺は知ってるぞ! その魔剣のことは聞いたことがある!」

「あたいも勿論知ってるわ!」


 バカめっ! そんなもの存在するか。この知ったかぶりの高慢稚気どもめがっ。


「では知っていよう。この魔剣の真なる刃が高魔力を秘めた者にしか見ることができぬことも」

「それは……」

「ならお前には見えているのかよ!」

「当然だ!」

「嘘だな! なら使ってみせろよ!」

「そうだそうだ。扱えなきゃ魔剣の持ち腐れだ!」


 頭の悪いお前たちがそう来ることも想定内。俺を見くびるなよ。


「よかろう。しかし俺が本気を出せば貴様らを皆殺しにしかねない。そこで……お前」

「えっ!? あたい?」

「そうだお前だ、ポポコちゃん! お前に死なぬ程度で魔剣の力を見せてやろう」

「い、いいわ。望むところよ!」


 俺は刃を持たぬ間抜けな柄をポポコちゃんへと突きつける。


 そして心で念じるのだ。

 感じろ~っ、感じろ~~っ!

 と、するとどうだい。


「あっ、あぁんっ」

「ぽ、ポポコちゃん!?」


 頬を赤らめて呼吸を乱すポポコちゃんが、太ももをスリスリしながらのたうち回る。

 その度に漏れた吐息にバカなオスゴブリンどもが喉を鳴らして興奮している。

 微塵もエロチシズムを感じないが、まぁいいか。


 どうだ、これが唯一俺が扱える淫魔術! 解放なるエクスタシーの叫びだ!


 本来、魔法は呪文詠唱を必要とする。

 が、俺は他のすべての魔法を使えない代わりに、淫魔術の一部の術のみ無詠唱で扱うことが可能なのだ!


 それはその他のすべてを投げ売り、淫魔術だけに情熱を注ぎ込んだ俺の努力が成した所業。

 さぁ、ポポコちゃん。

 俺のすべてをかけた淫魔術の力はどうだぁ!


「お、おねぇが……ひぃっ!? もう……やめれぇ」

「まだだっ! 貴様の体に魔剣の恐ろしさを刻み込んでくれるわァッ! 貴様らもよく見ておけ。俺に従わぬものは絶望の苦痛を伴い、苦しみもがくこととなるのだ!」


 目覚めろ性欲っ!

 感じろ快感っ!

 子宮の奥まで届けエクスタシィィイイイイイイイッ――!!


「あぁ……あぁぁあああああああぁぁあああぁあぁんっ――!? も、もう……らめぇっ」


 まるで全身に電流を流されたようにヒクヒク痙攣したポポコちゃんが、股間から湯気を立てながら悶絶する。


「ふんっ。魔剣の恐怖に……失禁してしまったか。他愛ない」


 柄を振り払い、俺は腰に提げた鞘へと刃を持たぬ魔剣を納める。

 その王者たる風貌に誰もが跪き、尊敬と敬意の念を込めた羨望の眼差しで仰ぎ見る。


「答えよ! 貴様らの主は誰だ!」

「「ミラスタール・ペンデュラム――ダンジョンマスターさまであります!」」


 ムフフ。これで第一関門、虫穴の洞窟の手懐けは成功だな。

 もっと困難な状況に陥ることも想定していたのだが、さすが俺だな。楽勝だ。


 けど、問題はここからだ。

 俺は一ヶ月間この糞の掃き溜めのような場所で生き抜かねばならん。


 そのためにはここの役立たずどもをそれなりの戦士に鍛え直さねば。

 だが一ヶ月で使い物になるまでになるのか、これ?


 下手したら明日にも冒険者が襲って来るかもしれんしな。できるだけ早く対策を打たねば。

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