第4話
室内に戻った老婆は少女の今後を思案して一つため息をつく。ただひとまずは、はしゃぐ
老婆は二人を一組の布団に促す。急なことで布団が用意出来なかったのもあるし、まだ子供の彼らに
「ほら文生、今夜はこの子と寝なさい」
「えぇ!やだよ、婆様とこの子で寝なよ」
「あんたらの方が歳も近いだろうし、儂と寝たらこの子がはみ出ちまうよ。それにあんたが連れて来たんだから、ちゃんと責任持って世話してやんなさい」
「まぁ……そうだけど……」
文生は気恥ずかしそうに少女を見たが、何も気にしていない様子に気づきなんだか虚しくなる。
大人しく布団に入って、少女を布団に招く。しかし少女は、ただ文生の挙動を見つめるばかりだ。
文生は少女の手を引き布団で
「ほら、もう寝るぞ。明日は田んぼの手伝いに行くからな。じゃ、おやすみ」
そう言った文生におやすみと老婆が返事をし、文生と老婆は目を瞑る。狭くて薄い布団の中で、少女は目を光らせ続ける。
しばしのち二人からは寝息が聞こえ始めた。
少年の体温で温まった布団の中で、少女は思案する。
なぜ彼らは、目を
なぜ自分は、彼らと
少女は枕元に投げ出された少年の手を取り自身の頰に添えさせる。温かいその手に、少女もなりたかった。彼と同じように過ごしたいと願った。
すると、少年の体温が移ったように少女の体も熱を持つ。人肌を手に入れた少女は、暗闇で一人笑みをこぼす。これで彼と同じになれるはず、と目を閉じてみる。
だが、少女に『眠り』が訪れることはなく、気づけば朝日が三人を照らし始めているのであった––––
それから
文生の方が背は低かったのだが、少女を妹のように扱った。なにせ少女は言葉を一つも知らなかったのである。文生は赤ん坊に教えるように生活のいろはを教え、少女を『
最初は正体不明の少女を不審がっていた村人たちだったが、美琳の屈託のない姿と、文生の懸命な姿に絆されていった。
次第に村全体で美琳を慈しむようになっていき、彼らは貧しい暮らしながら平和な日々を送り始めた。
美琳も村での生活にすっかり馴染み、たくさんのことを学んだ。『言葉』はもちろん、『食事』『仕事』『常識』を『理解』した。
だが、彼女は『空腹』が分からなかった。『痛み』が分からなかった。
……分からないことが『普通』でないことも学んだ。
美琳は無意識に、それらがちゃんと分かるように振る舞った。そうしてさえいれば、このまま文生と過ごせるはずだから、と。なぜそんなことを思うのかは、気づかないようにしながら。
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