第7話
三つ目の項目をタッチする。と、右側の空白エリアには<対象を選択してください>という文が表示された。
「これはどうしたらいいんだ?」
「まず、対象となるプレイヤーの『名前と顔』を頭で思い浮かべて」
「頭の中でか? サーチとかで選択するわけじゃないのか」
「ううん。とにかくほら」
「ああ……いやちょっと待ってその前に、僕まだ二人のプレイヤーネーム知らないんだけど」
この手のゲームでは必ず表示されているプレイヤーネームが一切表示されていないのだ。なので街中にいる人たちがNPCなのかPCなのかすらわからない。
というよりそもそも、いわゆるHUDと言われるゲーム内のUIにはほとんど情報が無いのだ。表示されているのは、それこそゲーム内時間だけである。
「あっ、そうだった、ごめんごめん! 先にシステムで変更させておくべきだったわね。私はファルコンって名前」
「私はシトロンだよ〜!」
「おけ、シトロンとハルな」
そうしてもう一度集中し、頭の中で名前を思い浮かべつつ、別に目の前にいるのだからこちらまで想像する必要はないだろうとそのまま二人の顔をマジマジと見る。
すると、ピコンピコンと二回音が鳴って、先程の文章を上書きするように二人の名前が表示された。
--------------------
・ファルコン
LV:15
<キャンセル> <申請する>
・シトロン
LV:3
<キャンセル> <申請する>
--------------------
それぞれの名前とレベル、そしてその横には一人ずつの顔写真(勿論アバターの顔だ)が表示されている。
「どう? 名前出た?」
「ああ。これで申請するを押したらいいんだな」
便利なシステムだ。名前でサーチするとゲームによってはいわゆる名前被りが発生して、違う人にフレンド申請したりチャットを送るなどの『誤爆』が発生するからな。
本当、便利と不便が混在する世界だこと。
「うん、そだよ〜。でもせっかくだし、ハルさんは申請して私はこっちからのを受諾しようよ。今後のためにね!」
「それもそうか、わかった。じゃあこのシトロンの方はキャンセルしたらいいんだな」
そうしてそれぞれのボタンをタップする。すると目の前に<ファルコンへパーティ申請をしました>というメッセージが浮かび上がった。どうやらキャンセルした場合はそのまま出ない仕様のようだ。
するとハルがちょちょいっと操作をすると、再びメッセージが表示され、<ファルコンがパーティへ加入しました>というポップアップがなされると同時に、彼女の頭の上に頭部と同じくらいの大きさの緑色の菱形を縦にしたようなアイコンが現れた。
「どう? わかった?」
「ああ、なんか緑色のクリスタルみたいなのが浮いてるぞ」
「うん、私も貴方の頭の上に見えるわ。ちなみにさっきも言ったけれど、HUD周りはシステム欄にあるゲーム設定の項目でさまざまな表示を変えられるのよ。デフォルトでは殆どがオフになる仕様になっていて、なかなかいやらしさを感じるわね」
ふうーん、そういうことか。流石に全く実行すらされていないわけではないのだな。この最初から表示する項目を少なくしてあるのにもなにかしらの理由があるのだろうか?
「ああそれと、そろそろきちんとプレイヤーネームで呼び合った方がいいわね。今までは一応、誰が誰か分かりやすいようにお互い現実の名前で読んでいたけど、VRMMOにおいても他のオンラインゲーム同様リアルを探るのは推奨されていないわ。だからこれからはオレンジ、シトロン、ファルコンと呼び合いましょう」
「は〜い! じゃあお兄ちゃんもオレンジさんだね!」
「ああ、シトロン。ファルコン。改めてよろしくな」
「んじゃあ次は私がそっちに申請するねっ。ちょっと待ってて」
と妹----シトロンは指でスッスッと操作をする。
10秒もしないうちに、再び目の前にメッセージがポップアップした。
<シトロンからパーティ加入が申請されました。加入を許可しますか?>
<いいえ> <はい>
「ん、それじゃ『はい』っと」
右側のアイコンをタッチする。と、続けて<シトロンがパーティに加入しました>とメッセージが表示された。
「はい、これで完了ー! 私の頭の上にちゃんと出てる?」
「ああ、見えてるぞ」
先ほどのハル----ファルコンと同じく三角形の緑色のクリスタルがシトロンの頭の上に浮かんでいる。これで晴れて三人パーティを組めたわけだな。
「それじゃあ続いてフレンド申請ね。このゲーム、実はいきなりフレンド申請出来ない仕様になっているのよ。会話をするか、こうしてパーティを組むと『コンタクトリスト』ってところにそのプレイヤーが追加されるの。そこから申請するのよ」
「コンタクトリスト? どこにあるんだ?」
「えっと、さっきの画面に戻って? パーティを開いたところ」
「ああ」
フレンド申請の画面から、ウィンドウの左上にある←ボタンを押し、言われたところまで戻る。すると、項目の4つ目に最初は表示されていなかったはずの
・コンタクトリスト
という欄が追加されていた。
「このゲームは、デフォルトで表示を切り替える以外にも、さっき言ったように取引で得た情報を確かめて追加するパターンと。予めゲーム内に仕組まれたフラグを立てることで追加される要素があるのよ。基本はこの三つでゲームをよりプレイしやすく便利にしていくって覚えておいてね」
「なるほど、隠しコマンドが前提みたいなものか」
「言ってみればそうね。それじゃあそこ押してみて」
「あい」
コンタクトリストの中には、一番上にエクセルのような四角い仕切りで左から『会話』『パーティ』『共闘』という3つの欄が横に並んでおり。
その会話のマスがアクティブを示しているのだろう明るめに強調されていて、下には横書きで続けるように二人のプレイヤーネームとレベルが表示されていた。
「ここをタッチすればいいのか?」
「うん、そだよ〜。それぞれ押したらさっきみたいな申請欄が出てくると思うから、それでやってみて!」
「了解」
シトロンの言う通り二人の名前を押すと、パーティ申請の時のようなフレンド申請を送るメッセージがポップする。
そしてそのまま送りつけしばらくすると、<シトロン(ファルコン)へのフレンド申請が承諾されました>という文章が浮かび上がる。
更に、二人の頭の上にはオレンジ色のクリスタルが浮かんでいた。
「オレンジ色がフレンドで、緑色がパーティね。相手が自分とどのような状態にあるのかこれで確認するわけか」
「そうよ。設定を変えれば、プレイヤーネームを表示させることができるしその色も変わるように設定できるから、好きな方を選べばいいわ」
ふうん。まあ他のオンラインゲームでは専らその名前欄の色が変わる仕様であるし、そこはお好みに合わせてということか。細かいところは気が回るくせに、大事なところはとことん隠す運営姿勢に余計と混乱するな……
「これでファーストステップは完了ね。フレンドやパーティでできることは実際のゲームプレイでおいおい紹介していくわ」
「それじゃっ、早速装備を整えに行きましょう! 対応する装備を持ってないと、ジョブチェンジができないんだ〜。それで最初のジョブ登録すら、自分で整えてから総合ギルドに行かないといけない訳っ」
「なかなかシビアだな。ジョブが思ったようなモノじゃなかった時に金銭的余裕のない初心者じゃ直ぐに変更することができないじゃないか」
「そこも含めて、私たちに頭を使わせたいのだと思うわよ。情報収集能力と、その分析能力。あとは勘とか、観察眼とか。普通のゲームの感覚でやっていると本当痛い目に合うわよ。このゲームはリアルの延長線上としてやった方がいいわ」
「そんな気がするな。だがそういう新鮮さにワクワクもしている。一体どんな冒険が待ち受けているのか、今から楽しみだ!」
「えへへ、最初は渋っていたけど、なんだかんだはしゃいでるじゃん、お兄ちゃん……じゃなかったオレンジさん?」
「う、うるさいな。別にいいだろう」
だが確かに妹の言う通り、未知の体験に対する高揚感がどんどんと増しているのは事実だ。『聖典の壁歴』、このゲームは一体僕にどのような世界を見せてくれるのだろうか?
そうして他のメニューを確認したり、システムの弄り方を教えてもらったりしながら、三人でファルコンオススメの武器屋へと足を運んだ。
聖典の壁歴 ラムダックス @dorgadolgerius
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