第6話
「なあ、その指の動作がもしかして?」
「うん、これがメニューを開くために必要な動作なの。こんなことすら、どこにも載っていないでしょ?」
「まあ確かに」
「お兄ちゃんもほらほら!」
「あ、ああ」
妹に急かされ、同じように右手の親指と人差し指を縦に開く。
すると、目の前に縦30センチ横60センチほどの横型の
そのウィンドウは券売機のタッチパネルのように斜めになっており、左側にいくつかの項目を示す文字が。右側にはその選んだ情報を表示するためだろう大きな空白がある。
上から順に
・ステータス
・パーティ
・スキル&魔法
・装備&アイテム
・システム
と簡潔に5項目が並んでいた。案の定ヘルプの欄はない。また、この手のゲームにあるはずの運営への連絡ツールも少なくともこの画面上には存在しないようだ。もしかするとまた違う動作を行えば発信できるのかもしれないが。
「まず、ステータスを開いてみてくれる?」
「ん、ステータスをだな」
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オレンジ:男/17歳
種族:人間
職業:一般人
レベル:1
経験値:0/20
所持金:5000VB
HP:40/40
MP:20/20
SP:20/20
物理攻撃:8
物理防御:8
魔法攻撃:6
魔法防御:6
すばやさ:8
幸運値:10
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◯魔法
・なし
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◯スキル
・なし
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○装備
・武器1……なし
・武器2……なし
・頭……なし
・胴(外)……布のTシャツ
・胴(中)……布のシャツ
・腕……なし
・腰……なし
・脚……布の長ズボン
・靴……スニーカー
・アクセサリー1……なし
・アクセサリー2……なし
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○称号
・なし
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「ん、開いたぞ」
ステータスの欄をタップする。すると右側の空白部分に文字がずらっと表示された。
出てきた情報は、キャラクタークリエイトの時に確認した時とほぼ同じだ。但し、自分で振り分けた分の能力値はきちんと反映されており、取り敢えずバランス良くと考えて数値を決めたのでほとんどが平均かそれより少し上程度となっている。
この手のゲームにおいては、たまに◯◯極振りみたいなスタイルを好む人もいるが、僕にはそんな勇気はなかった。
あとは、所持金の欄が増えていることくらいか? この5000VBというのはどれくらいの価値があるのだろう?
「大体何が書いてあるかわかるー?」
ユズが訊ねてくる。
「ん、流石にわかるぞ。ただ早いところ装備を整えたいのと、金銭の価値を知りたいな。どちらも今後のゲームプレイに欠かせない要素だろう」
「装備はひとまずジョブを決めてからだわね。『総合ギルド』ってところがあって、ここが唯一運営からプレイヤーに提供されている案内所みたいなものよ。ジョブの登録や変更はここでしか行えないし、色々と制限もあるから注意してね。また後で行った時に詳しいことは説明するわ」
「ああ、わかった」
総合ギルドという単語自体は、キャラクリの時にTIPSで確認していた。ただそれが唯一の公式施設とは……他の要素はどのように補っていくのだろうか? まあ、一応はオープンベータテストだし、これから滑り込み的に要素が追加される可能性もあるわけだが。
「金銭の価値についても、その前の装備を整える時に教えるわ。実際に体験した方が早く感覚を掴めるだろうし」
「おう」
「んじゃあ〜次! お兄ちゃん、パーティの欄を開いて」
「ああ」
妹の言う通り、上から二番目にあるパーティという欄をタッチする。
すると、さらに小項目のようにいくつかの欄が現れた。
・情報確認
・パーティ申請
・パーティ離脱
「へえ、情報が少ねえ……」
ハルの言う通り、ギルドや共有チャットなどの項目もないようだ。
ギルドとは、この手のゲームでよくあるプレイヤー同士が寄り集まって作る組織のことだ。クランなどの代替用語もよく見かけるが、とにかく集団で作る互助会のようなものだ。
リアルの知り合い同士で作る人、ゲーム内で知り合った者同士で作る人、何かの目的でビジネスライク的に一時的に作る人。色々なパターンがあるが、基本はそれが"仲間"の単位となっていくことが多い。
共に攻略を助け合ったり、雑談をしたり、時には喧嘩をしたりと。皆で交流を深めていき、よりよいゲームライフを送れるようになる。それがギルドというものだ。
また、共有チャットとは、複数のプレイヤーが参加できるゲーム内掲示板のような物だ。この手のゲームにはこれもつきものなのだが、これもメニュー画面だけではなく、よく見てみればそもそもチャット欄自体が視界のどこにも存在していない。
「そうだよ〜。このゲームは例えばメニューが見られるように、基本的なシステムやアクションは確かに"存在"しているの。でもそこに至るまでの情報を手に入れるのがとても大変なんだよっ」
「ほうほう、何となくわかってきたかもしれない。つまり、このゲームは、プレイヤーを試しているんだな? さっきハルが言った通り、確かにあまりにも不親切だ」
と僕は苦笑いをしながら言う。
「そうよ。私たちプレイヤーは、あらゆる情報をゲーム内に存在する物や事から手に入れる。そしてその情報をゲーム内で共有し合い、どんなことをして何を成していくのか決めるの。ゲーム外での情報の取引は禁止。勿論身内で話をするくらいはいいけれど、ネットで攻略サイトなんか作った日には
「け、消されるって……比喩表現だよな?」
「さあね」
「ええ……」
だが確かに、利用規約に
2033年現在の日本では、インターネットは完全実名登録制となっている。導入された時はそれはそれはもう大いに揉めたらしいが、施行され10年以上経った現在では社会的にはほぼ受け入れられる空気となっている。
今までだと匿名で好き勝手書けたことが書けなくなったのも大きいかもしれないが。少なくとも長期的な良し悪しは未来の自分たちにしかわからないだろう。
「プレイヤーの皆も、この独特の空気が楽しいからこそ今のところはきちんと規約を守っているわ。なかなかシビアだし人を選ぶ要素であるのは確かだけれど、新しい何かを自分で発見する達成感はなかなかのものよ」
「ふうーん、わかった」
そうして、最初の『情報確認』の項目へと進む。
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◯パーティメンバー
・オレンジ
LV:1
HP:40/40
MP:20/20
SP:20/20
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まだ何も操作していないので当たり前だが、現在僕は一人パーティ扱いのようだ。いわゆるソロプレイヤーだな。
ここにはどうもステータスを簡略化したような情報が乗っけてあるだけだ。
「こんだけか……少ねえな」
「だと思うでしょ? でもこのゲーム、情報が少ないだけじゃないわ。反対に付け足されることもあるの。知った一人は情報が付け足されて、知らない人にはいつまでも表示されないまま。だからこそ、このゲームでは余計と"探索"要素が大きな意味を持ってくるのよ」
「付け足される?」
「そうだよっ! アイテムの使い方や、装備の情報なんかは、実際に利用するか人から教えてもらうことで初めて表示されるようになるの。だからどんなアイテムだろうと、まだ誰も発見していないような思いもよらない使い道があるかもしれないよ? そしてそう言う情報は現実と同じように高値で取引されるよねっ☆」
「ふうーん、まるでヨーロッパ大航海時代みたいだ」
「ある意味、このゲーム内においては新次元の大航海時代が訪れているかもしれないわね。あらゆる情報を探索して、販売し、また共有もする。ただし、嘘の情報は記載されないから、買った後に試してみて後悔しても知らないけどね?」
「そんな細かい判定機能まであるのか? ある意味そこにもデジタルなシビアさがあるな。嘘を嘘と見抜けない人はとことん落ちぶれていくわけか。頭を使うゲームだな」
手っ取り早く情報を手に入れるリスクを取るか、せっかく探し出した情報が既に知ってて当たり前の情報というリスクをとるか。ゲームシステムの根幹にギャンブル性を組み込んでいるようだ。
そしてこれは、よく考えればリアルにも似ているな。文字の書き方から基礎知識、難しい専門知識まで。あらゆる物事は人から教えてもらうか、自ら能動的に探し学び出すかしかない。挑戦し、時には失敗し、成功した時の喜びを糧に成長していく。そしてそれを元手に人生をより豊かにしていく。
この『聖典の壁歴』に別名をつけるとすれば、『アンリアル・リアル・オンライン』とでも言うべきか?
「んじゃあお兄ちゃん、ここで早速パーティを作りましょう! その次にある『パーティ申請』ってところを押してみて」
「ああ、わかった」
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