第4話
宇宙空間が現れ、世界の成り立ちや現在の情勢などを教えてくれる映像が----というわけではなく。先ほどとは180度打って変わって全面が真っ黒な空間の壁の一面に、大きめのビジョンが現れてひたすらゲーム内のものと思われる映像を一切の文字情報無く見せられる。
かろうじてBGMは付いているが、これだったら深夜のテレビで流れている環境映像となにも変わらないじゃないか!
そして10分ほどだろうか経った後、映像は終了し再びワープのような演出が入った後真っ白な空間へと戻ってきた。
「え、まだあるんだよね?」
しかし僕の淡い期待は無残にも打ち砕かれ、<これで導入部は終わりです。どうぞ『聖典の壁歴』をお楽しみ下さい!>と書かれたメッセージが表示された後、ゲームを始める前のように意識がだんだんと遠のいていった。
「んん……あれ。立っている? というかここは?」
気がつくと、僕は地面に立っていた。先程のような何もない空間とは違う。目の前、というか前後左右を人々が歩いている。
周りを見渡すと、あちらこちらに建物が並び建っており、時折商店と思わしき所へ人が出入りしているのが見える。
ぱっと見ではあるが、人の数や建物の規模から推測するにかなり大きな都市だということが窺えるな。
「ええっと……もうゲームは始まっている、チュートリアルはさっきのまでって言うことでいいのかな?」
視界の左上の端っこの方には、現在のゲーム内時間とリアルの時間が表示されている。
見ると、ズレが感じられる。リアルではまだ朝のはずだが、ここではもう昼過ぎだからだ。
「へえ、この世界は1日何時間なんだろうか? 同じ時間にしかログインできない人もいるだろうしその配慮だろうな」
人々の働き方は昔とは大分変わったとは言え、未だに定時の仕事というものは沢山存在する。のでその人たちが同じ景色を延々と眺めることにならないよう配慮するのはオンラインゲームとしては当たり前のこととなっている。
「他に情報は確認できるかな……えっと、どうすればいいんだっけ」
チュートリアルではゲーム内の操作方法すら全く教えてもらえなかったため、"TIPS"を見ようと右隅に視線を向けるが----
「あれ、ない!?」
キャラクタークリエイトの時は視界の右上の方にずっと表示されていたそれであったが、今は何も表示されておらず、またTIPSの表示場所が変わったということもなくどこにも見当たらない。
「ど、どうしよう。ステータスとかどうやって見ればいいんだ?」
適当に念じてみたり、声に出してみたりするが、どこにも現れることはない。
と思い、手を適当に振りかざしたり、人差し指で適当に模様を描いてみたりするが、それでも何も表示されることはない。
「困ったなあ……でもいい加減ユズと合流しなきゃだし」
すでに2時間以上は待たせているだろう。流石に怒っているかな? 出会えたらきちんと謝っておこう。
と、歩こうとすると。
「あのー、すみません、お困りですか?」
一人の女の子が話しかけてきた。
「え?」
「いえ、先ほどから奇怪な動きをされていたようですので、もしかしたら初心者の方かな〜って!」
その娘は、セミショートのピンク髪に、西洋的な顔立ち、身長は160くらいでそこそこ大きめの胸を携えている。
背中には杖のようなものを背負っており、魔法を使う職業なのだろうと察する。
「ああ、ええ。もしかしてプレイヤーの方ですか? 実は僕今さっきこのゲーム始めたばかりなんです。なので色々と使い勝手を試していたんですが、上手くいかなくて。あはは、恥ずかしいところをすみません」
と愛想笑いをしておく。声をかけてきてくれたということは、その口振りからも察するに既プレイヤーの人なのだろう。
「いえいえ、このゲームには少々厄介な特徴がありますからね」
「厄介な特徴?」
こそこそ、とやけに距離を近くして耳元でされてそのような言葉を囁いてくる。
「一言で言えば、"情報"がないんですよ、このゲーム」
情報?
「それは?」
「まあ立ち話もなんですし、どこかのお店に入りませんか? あ、勿論お金は私持ちなので安心してください。これでもオープンβ開始からやってるんですよ?」
僕の耳から離れた少女はにこりと笑いそのような誘いをしてくる。
「え、でもいいんですか? 本当に僕始めたばかりだし」
「いいんですよ。私もある人と待ち合わせしているんですけど、何時間経っても現れないのでいい加減頭に来ちゃいましたし」
「そうなのか……あっ、僕も人を待たせているんですよ。話をしている場合じゃなかった……」
ユズの奴、怒ってないといいけど。キャラクリに思ったより時間かけてしまったからなあ。
「そうだったんですか?」
「ええ、実はリアルの妹と一緒にこのゲーム始めようってなって、『はじまり広場』という場所に来るように言われていたんですが……すみませんがもし良かったらそこまで案内していただけませんか? どうもこのゲームはマップすらないようですし、どこにあるのかわからないんですよ」
普通のゲームなら表示されているミニマップのようなものは視界のどこにも見当たらない。もしかするとメニュー画面に"マップ"の項目があるのかもしれないが、その肝心のメニュー画面すら開くことができないので現状個人で解決するには詰んでいる。
それに少なくともここら辺では案内看板も見当たらないし、こうして人に聞くしかないだろう。もしかするとこの人が言っている『情報がない』というのはTIPSの件も含めた
「……えっと、少しお聞きして宜しいでしょうか?」
「はい、なんでしょう」
「その妹さんというのは、14歳くらい?」
「え? は、はいまあ」
「あなたは16歳?」
「はい……ってなんなんですか?」
「幼馴染がいて、その娘と同じ学校に通っている?」
「……まあ」
「なるほど、妹さんが商店街で当ててきた『アダマンタイマイ・ドライ』を使ってログインしている?」
「どうしてそれを!?」
「やっぱり……この顔に見覚えは?」
少女が指先を変な動かし方をすると、その顔にだんだんとモザイクがかかっていき、元に戻ると僕の昔からよく見知った顔になっていた。
「……え、ハル?」
「そうだよ、ミツ。あなたの幼馴染の甘空遥だよっ」
ハルの顔をしたその少女は、なぜかプンスカと頬を膨らませて怒りだす。
「は、ハル? 本当にハルなのか? それにその顔一体どうやって……というかそもそもなんでこのゲームを!?」
「ちょっとミツ、質問しすぎ! 一つずつ答えてあげるから、まずはユズちゃんと合流しましょう。ほら」
ハルは呆然と立ちすくむ僕の腕を掴んで引っ張りながら歩きだす。
「まず、私は本当に私よ。保育園から高校に至るまでずっとあなたと同じところへ通っていて、かつ近所に住んでいて大体いつも行動を一緒にしている腐れ縁の私よ」
僕に歩調を合わせ、まるで恋人のように横に並び立ち腕と腕を密着させてくる。こ、こういう行動が僕の感情を昔から弄んできたんだよなあ……
元々整っていたその顔に加え、ここ最近で発達した良いスタイルを持つ彼女は今のように昔から何かとベタベタとくっついてきていた。そんな彼女邪な気持ちを起こさない男子が果たしているだろうか?
因みにその行動の理由を以前聞いたときには『ミツの面倒を見るのは私の使命だから』と言っていたのだが……未だに意味がわからない、僕はもうお子様じゃないぞ!
「顔については、指定した人に対してリアルの顔を見せられる機能が付いているからだわ。なんでそんな機能があるのかは判明していないけれど、多分ゲームの中でもアバターの顔で会うのは違和感があるから特定の人とは見知ったリアルの顔で会いたいって意見があったからだと思う」
「へえ、そんな機能があるんだな。どうやるんだ?」
「そこも含めて、今から説明するわ。さあついたわよ、とにかく待たせているからあそこに向かいましょう」
たどり着いたその場所は、大きな噴水がある広場になっており、ハルが指差すその一角にあるベンチにはくたびれた様子で縮こまっている女の子の姿があった。
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