第147話 砲撃
食堂での騒動、そして令嬢たちからの宣戦布告ともいえる、出来事から一夜が明けると、俺と令嬢たちの戦いが本格的に始まった。
「ねえ、あの子が例の?」
「ええ、昨日嫌がらせを
朝の寮では昨日の出来事は何故か俺の自作自演という事で広まっていた。更に信憑性を高めるために、無関係の令嬢にも同じような嫌がらせをしたなんて話も出ているくらいだ。まあそれに関しては半分正解ではあるが。
俺の話は学年が違い、あまり関りのない令嬢たちにも広まっている。主な内容は昨日の件が殆どだが、中には平民との間にできた婚外子だの、体を使って金を稼いできたなど、昨日の一件とは関係ない話や、俺も知らない俺の設定の話も聞こえてくる。
噂の出所を調べたところ、どうやら複数の令嬢から出ていることが分かり、マンティス派の令嬢たちが結託して俺を陥れようと動き始めているようだ。
どうやら俺を孤立させたいらしく、ルナとアルテにも他の令嬢から俺と関わらないように脅迫的な通達が来ていたようで、俺は二人からその話を聞くと、その指示に従うように言って暫く一人で行動することにした。
二人と時間をずらして登校し教室に入ると、寮と同じく俺への陰口や噂話がひそひそと聞こえてくる。
俺は特に気にすることなく自分の席に着くと、そのまま授業の時間まで自分の机で待機していた。
そしてチャイムが鳴り、いつものように授業が始まると、教師が授業で使う問題用紙を配っていくが、前の席から後ろへ順に回されていく中、その用紙がちょうど俺の前で止まった。
前の席を見る限り数も余っている様子はなく、元々俺の分までなかったようだ。
「すみません、用紙が足りていないみたいですので一枚回してしてもらえませんか?」
俺が手を挙げて教師に呼び掛けるが、教師はまるで俺がいないかのように振る舞い、そのまま授業を始める。
「……聞こえないんですか?用紙がないのですが?」
更に声を大きくしていうが、教師だけでなくクラス全員が俺を無視しており、ルナとアルテが辛うじて険しい顔をしているくらいだ。
そして前の席では昨日俺の部屋を荒らした女、アーシェ・グスマンがほくそ笑んでいる。
どうやら令嬢だけでなく学園全体で俺を潰しに来てるようだな。
……おもしろい、じゃあそれがどこまで続くか試してやろう。
「皆さん、私の聞こえないのでしょうか?」
最後の警告ともいえる呼びかけをするが、やはり反応はない。
「成程、どうやら皆さんには私の声は聞こえないようですね……聞こえていないと言うのなら、何を言っても問題ないですね。」
俺の言葉が気になったのか、少し反応を見せる奴らがちらほら現れるが、無視はやめないつもりらしい。
俺はポケットからメモ帳を一つ取り出し読み上げる。
「オミタス子爵家のカナン・オミタス令嬢。」
俺が名前を読み上げると、一番前の席の女子が少し反応する。
「あなた、実家で無数の虫を飼っているらしいですね。」
「えっ⁉」
「しかも、小型の虫から虫型のモンスターまでと幅広く、最近では大型の蜘蛛のモンスターにも興味を持ったとかでわざわざギルドにモンスターの死骸を依頼したとか?なかなかいい趣味をお持ちですね、ですが一度大量の昆虫を逃がして家中が大パニックになったことがあるらしいので、そこは気を付けないといけませんよ。」
令嬢は思わず立ち上がりこちらに顔を向けるが、声をかけようとしたところで辛うじて止まった。
俺は別に気にしないのだが、あまり令嬢が大きな声で言えるような趣味ではないらしい。続いて俺は男子の名前を読み上げる。
「次期伯爵家の当主の、ライブラ・エメロードさんはなんでもお抱えメイドとデキているとか?」
「な、何故それを⁉」
「あら聞こえてたんですか?」
父親にも秘密にしていることがバレていることに驚いたのか、反応してしまった男子が思わず「あっ」と、声をあげるとすぐに口を塞ぐ。
俺はそのまま一時間目の授業では五名の生徒の秘密を暴露した、皆それぞれいいリアクションを取ってはくれたが、声をかける事まではしてこなかった。
ちなみに、読み上げているのは内容がぬるい順となっている。
なので初めの五名は軽いジャブで、授業が進むにつれて話す暴露する内容は酷くなっていく形で、午前中最後の授業での暴露ではかなりせめた内容になっていただけに、授業が終わると同時に教室はちょっとした騒ぎになっていた。
まあ、ガキの秘密なんてたかが知れてるが、それでも嫌なものは嫌なんだろうな。
そして昼休みになると、俺はクラスの生徒複数人に連れられて、初めてエマと出会った人気のない場所まで連行されていた。
「貴方、どういうつもりよ!」
複数の女子生徒に壁に追い込まれ囲まれる。案の定絡んできたのは、グスマンを筆頭にまだ暴露していない奴らばかりだった。
「何がですか?」
「授業中に人様の秘密を暴露したことよ!」
「ああよかった、ちゃんと聞こえてたんですね。」
わざとらしくそう言えば、グスマンがは苛立ちを隠しきれず俺の肩を小突いてくる。だが、か弱い令嬢の力では俺はピクリともしない。
「これ以上はあんなことはやめなさい。」
「何故ですか?ここにいる方々に関しては、まだ何も言ってないつもりですが……それとも、皆さん、バラされたくない何かやましい事でも?」
「そ、それは……」
そう尋ねると、向こうは口をつぐんだ。
はっきり言って、こいつ自身の秘密なんて大したものではないが、ここにいる令嬢たちには大きく関わることで、令嬢たちをまとめ上げる立場としてはかなり致命的なものだ。
そして、ここまでが俺の筋書き通りである。
「と、とにかく、いいわね?」
「わかりました、では貴方が、婚約者とは別に複数の男をはべらかしていることは内緒にしますよ。」
「な⁉ちょっ……」
「ちなみにその中の何人かは、ここにいる令嬢の婚約者もいるようですが。」
俺がそう言うと、先ほどまで結託していた令嬢たちはいとも簡単に崩れていく。
「ちょっと、アーシェ!どういう事よ!」
「今の話本当なの⁉」
「な、で、出鱈目よ、証拠もないのに出鱈目を言うのはやめなさい!」
「では、皆さんの男にぜひ聞いてみれば?ちなみに逢瀬の日付も把握してるので聞きたい方々はお教えしますが?」
「こ、この……」
グスマンが俺の顔に向かって大きく手を振り上げる、止めるのも避けるのも簡単だが、ここはあえて受けようとするも、それを男の声が遮った。
「何をしてるんだ!」
皆で一斉に声の方に目を向けると、ロミオ・ベーシスがこちらへとやってくる。
「これはどういう状況だ?」
「ロ、ロミオ様……こ、これはその……お、覚えてらっしゃいマティアス・カルタス!このままで済むとは思わない事ね!」
そう言い残すと令嬢たちは慌ててその場から立ち去っていった。
……あんなこと言ってるが恐らく
大方、マンティスの名と標的である俺を使って、上手くまとめ上げていたのだろうが、それも今日までだ。
ベーシスは横切り走り去る令嬢に目もくれず俺の方へとやってくる。
「マティアス嬢、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですよ。それより先輩はどうしてここに?」
今この男はエマ達と一緒にいるはずなんだが。
「君の話が僕のところまで伝わってきて、少し心配で話を聞きに来たんだ、そしたら君が複数の女子生徒に連れていかれたって聞いて、慌てて駆け付けたんだが……」
「それはありがとうございます、ですが特に問題はございません。」
「問題ないって……さっきも絡まれていたじゃないか⁉」
「ただ戯れてただけですよ。あの程度の事で傷つくほど軟じゃないです。それに貴方には関係ないでしょう?」
「しかし!その……友人として心配なんだ。」
「はぁ……」
そうか、友人だったか。そこまでの中になったつもりはなかったが、あくまで協力関係を結んだだけだったんだが。
「とにかく心配は結構です、私には私の考えがありますので、それよりあなたは二人の事に集中してください。」
マンティスが目をつけているのは俺だけではない、当然王子と親しいエマの存在も知っている事だろう。
こちらに意識を向けさせるため、あえて目立つように動いてきたが未だにマンティスが絡んでこないとなるとエマたちの方に目を向けている可能性が高い。
エマは俺と違って後ろ盾がないただの普通の令嬢だ。だからこそ、最も位の高い王子達がなるべく側にいてもらわなければならない。
「と言うわけで、いいですね?」
「あ、ああ……」
有無を言わせない勢いで告げると、ベーシスも渋々ながら頷いた。
さて、次はどう来るだろうか?
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