第138話 これから……
仲裁に入ったマルクトにより昼休みの騒動は収まると、その後は何事もなく時間が進んでいった。
そして放課後になると、俺は生徒会室に足を運び、改めてマルクトとその側近らしき男に事情を説明した。
「成程、そう言う事だったか……」
話を聞いたマルクトは険しい表情で額を抑え、隣の男も舌打ちして苛立ちを見せる。
「済まない……」
そう呟くとマルクトが深く頭を下げる。
「これは僕の落ち度だ。自分の立場を考えれば、特定の女性と懇意にすればどうなるかなんて想定できたはずだった、それが爵位の低い相手なら尚更、なのに……。」
マルクトが謝罪してくるが、俺に謝られても困る。それに問題となるのはこれからだろう。
「それで、これからどうするんですか?」
「え?」
「過ぎたことは仕方ないでしょう、問題はこの事実を知った後、あなたはあの子とどう接していくのですか?」
「それは……」
「嫉妬する令嬢たちの悪意から彼女を守って一緒に過ごすのか、それとも彼女と一切関わる事なく、残りの学校生活を過ごすのか、もしくはそのどちらでもない方法を探すのか……」
「それは……まだわからない。」
まあ当然だろうな、どちらを選んでもそれなりの問題が起こる。
苛めてた令嬢たちを断罪してこれからもエマと過ごすとなれば、事実かどうか関係なく二人の関係性が疑われる、そうなれば当然大人たちの耳に入ることになり、ただの学生恋愛だけで済まなくなる。最悪、エマの家に危害が及ぶかもしれない。
そして関りを断てば、そう言った問題は起こらないだろうが、そうなればもう二人はこの先話す機会もなくなるだろう。
もう一つの選択として、令嬢たちの行為を見てみぬふりをしていつも通り過ごすという手もあるが、そんな選択をするなら俺が黙っちゃいない。
……まあ、こいつの反応を見る限りそれはないと思うがな、惚れているかはともかく、少なくとも意識はしている。
そして事前に聞いた情報からもエマの方も満更でもない。だが、互いの身分が本音を出すことを遮っているのだろう。
だがそれを解決するカードを俺は持っている、エマがマリスの養子になれば、身分も男爵から伯爵になり、他の貴族からの妨害も
だからここでその話をすれば全て解決するだろう……が、気に入らねえな。
王子としての立場と言うもんがあるんだろうが、例え口先だけだとしても惚れた女を守ると言えねえような奴に身内を預けたくねえ、もう少し漢気を見せてもらわねえと。
幸い卒業までに時間はある、それまでこの話は伏せて悩ませるのもありだろう。
「とりあえず私はこれで、あとは貴方がたの判断に任せます。王子様はまだ若いですから十二分に悩みながら決断してください。」
「……君の方が年下だろ?」
「人の成長と言うのは生きた時間ではなく経験がものを言うのです、少なくとも私はあなたよりも濃い人生を生きてきていますから。」
それだけ言い残すと俺は生徒会を後にする。
「マティアス嬢!」
生徒会室から寮へ続く道を歩いていると、先ほどマルクトと一緒にいた側近らしき男子がこちらに駆け寄ってくる。
「ふう、何とか追いついた。」
「あなたは?」
「あ、一応さっきも自己紹介したんだけど……俺はロミオ・パーシスだ、生徒会副会長でマルクトの幼馴染兼補佐だ。」
「そうですか。」
そう言えばさっきそんなこと言ってたな。パーシス……確か侯爵家で宰相をしている男の姓だな。真面目で評判のいい貴族で俺達とは無縁の家だからあまり興味がないが。
まあ、遠い血縁者までたどればそれなりに関係のある奴もいるかもしれんが。
「それで?私に何か?」
「あ、えーと、昨日のことを謝ろうと思って。」
「昨日の事?」
「喫茶店での事さ」
「……ああ。」
昨日一人でべらべら喋ってた男か、余りに不快だったから顔なんてすぐに忘れていたがこいつだったか。
「その、悪気はなかったんだ。見慣れない子だったんでついいつものように声をかけてしまって。」
まあ、こんなイケメンに声をかけられて嫌がる女性はいないだろうからな、俺は男だから不快だったが。
「わかりました、その謝罪は受け入れます。では……」
「あ、待って!」
俺が再び歩き出そうとすると、腕を掴まれ、またもや呼び止める。
「まだ何か?」
「えーと、あの……あ、それと何だけど、これからもあの二人のことで相談に乗ってもらってもいいかな?ほら、あいつの親友としては、二人をどうにかくっつけたくてさ。」
「……パーシス様はエマが王族になってもよろしいのですか?」
「……身分を考えれば反対するべきなんだろうけど、俺は二人の関係をずっと見て来たからさ、やっぱ二人に幸せになってもらいたいんだよ。」
ふむ……まあこのままでも困るし、あいつらの事なら俺より詳しいだろうから悪い話ではないな。
「……わかりました、私も他人事じゃないので協力します。」
「あ、ああ、ありがとう!」
「ではこれで……」
そう言うと今度は本当に別れ寮へと戻る。
しかし……
「カルタスさん、ちょっといいかしら?」
その後、今度はビオラ・メフィスと取り巻きに呼び止められる。
「何か用か?」
「昼休みの話の続きをしたくて……。」
成程な、今度は俺が的になったか。
しかし、あれで怯まないとは、思ったより図太いんだな。
「わかったわ。」
俺は大人しく彼女の後について行くと、エマと出会った場所へと連れてこられる。
そしてそこには複数の男子生徒が待っていた。
「こいつらは?」
「これからあなたを躾けてくれる方々よ、自分の立場をわきまえない愚かなで卑しい平民の娘がどうなるか、その身をもって教えてあげようと思って。」
メフィスがそう言って男たちを紹介すると男子達を俺を取り囲む。
「へえ、こんなかわいい女子いたんだな?」
「でも本当にいいんですか?ビオラ様、この子好きにしちゃって・」
「構わないわ、カルタス家なんて今は大した貴族でもないし、卑しい平民の娘だから二度と表に出てこれないくらい滅茶苦茶にしちゃって、最悪孕ませたところでお父様に言えば
もみ消すか……成程な、随分甘やかされて育ってきたようだな。
「いいんだな、これは遊びじゃ済まねぇぞ」
「いいえ、私たちにとっては遊びみたいなものよ、卑しいあなたには水遊びよりこっちの方がお似合いだからね。」
メフィスたちは、まるで悪びれる様子もなく笑う。
仕方ねえ、なら俺が
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