第133話 暇つぶし

 

 学長への挨拶も終えて、校舎の中も一通り見て回った後、俺は改めて学生寮へと向かった。

 寮長を務める女性に部屋の場所を聞き、その場所に向かうと、カルタスの名が書かれた扉があったので、その扉を開ける。


 流石はお嬢さまの部屋と言ったところか、中は広く高級感あふれる絨毯やベッド、机など生活するのに必要な物が一通り用意された豪華な仕様となっていた。

 小部屋もいくつか用意されており、学生が過ごすには十分すぎるくらいだろう。


「あ、お帰りなさいませ、お嬢様。」


 一人で黙々と掃除していたアメリが俺に気づくと、一度手を止め挨拶をする。

 しかし、お嬢様か……やはりまだ慣れねえなあ。


 とりあえず部屋の中へ入ると軽く全体を見渡す。

 ベッドに目を向けるとレイルが寝息をたててぐっすりと眠っており、それを見たアメリが呆れた顔を浮かべる。


「レイルさん、部屋に着いたらすぐベットに倒れこんで、それからずっと寝てるんですよ。一度起こしましょうか?」

「いや、構わない、寝れる時に眠ってもらった方がいいしな。」


 それにこいつの主な役目は夜の護衛だ、昼は俺一人でも対処できるが夜の襲撃は常に神経を張り巡らせなければならない。


「そういえば、リネットは?」

「リネットさんなら、早速アンデス・ノイマン様の情報収集に向かわれましたわ。」

「へえ……」


 あいつがそこまで、仕事熱心だと思わんが……やはりこの学園になにかあるのか。

 初めて会った頃は何やら企んでいたようだったが、この一年で考えを変えたのか今はそんな素振りは見せていない。


 ただ、取り巻きに何やら探らせてはいるようだった。組織の人間を使っていないところを見るとまだ信用はされていないのか、あまり干渉してほしくないのかわからないため、今は見てみぬふりをしている。

 まあ、仕事はしっかりしてくれるなら別にいい。


 しかし、部屋に来たのはいいが、やることがないな。

 明日からはこの時間は授業を受ける事になるが、今日は時間を持て余しすぎる。


「あの、お嬢様。掃除するまで少し時間がかかるので、もしよろしければ外で時間を潰してきてもらってきていいですか?」


 暇つぶしに部屋を適当に漁る俺を見て、アメリがそんな提案をしてくる。


 まあ学園周辺なら学生服でもそこまで目立つこともないだろう。何か聞かれれば授業の一環とでも答えればいいか。

 俺はアメリの提案に乗り、学園の外へと繰り出すことにした


 本来なら授業時間に外へ出る時は届出みたいなのが必要らしいが、警備員が俺の顔を覚えていたみたいで理由を告げると、今回は特別に許された形だ。


 俺は校門を出ると軽く周辺を探索する、やはり学生メインなのか、食事処の店が多い。


 俺は辺りを適当にぶらついた後、途中に見つけた、和風の喫茶店で時間を潰す事にした。

 この世界で和風の店は珍しいからか、人気も少なく非常に落ち着いた雰囲気の店だ。


 俺は店員に案内された席に座り、適当にコーヒーを頼むとそこでゆっくりと過ごし始める。


「へえ?珍しいね、こんな時間に女の子がいるなんて。」


 不意に後ろから声をかけられる。振り向けば学生服を着た男が一人、テーブルに頬杖をつきながらこちらをみていた。

 金髪の髪に整った顔立ちで優しそうな笑みを浮かべながら真っ直ぐこちらを見つめてくる姿はいかにも女性が喜びそうな光景で、ホストにでもなれば瞬く間に人気が出そうな容姿をしている。


「学園で見かけたことないけど、もしかして転入生?それともここにいるのは僕と一緒でサボりかな?、せっかくだし一緒にどう?」


 何だこいつ。

 なんで、何処の馬の骨かもわからない野郎と茶をしばかなくちゃならねえんだ。

 俺は無視して、コーヒーを飲む。


「ふーん、釣れないねえ。僕としてはここを見つけてくれた君とちょっと話がしたかったんだけど、ここって、見た目のせいか学生にはあんまり人気なくってさ、でも店の食べ物はどれも美味しいんだ、ちなみに僕のおすすめは――」


 無視してるにも関わらず男はひたすら話し続ける。

 しかし、よくもまあ、空気も読まず一人でベラベラと喋れるもんだ。

 この格好じゃなければコーヒーぶっかけてたところだ。


 こんな奴がいたんじゃ寛げねえ……仕方ない、帰るか。


「あ、そう言えば君――」

「ご馳走さん。」


 そう言って勢いテーブルに手をつき、音を立てて立ち上がると、音を聞いた店員が少し慌てた様子でこちらにやってくる。


「あの、もしかして、何か不備なところがございましたか?」

「いや別に、ただ今日は周囲が騒がしくて落ち着かないから日を改めてくる事にします。」


 店の中の客は俺とそこのうるさい男と二人だけだ、それに気づいた店員は男を見て、困惑した様子を見せる。


 俺は少し多めに金をテーブルに置くと、キョトンとする二人を置いて店を出て行った。


 そしてそれからは部屋で適当に過ごし、夕方になると、リネットが部屋に戻ってくる。


「ただいま戻りました……ってお嬢さま、どうしましたか?」


 部屋に戻ってきたリネットが、明らかに不機嫌に茶を飲む俺を見て尋ねてくる。


「えーと、外で色々あったようです。」

「そうですか。」


 アメリが簡単に説明するも、リネットは興味がないのかそれ以上聞こうとはしなかった。


「それで、アンデス・ノイマンってのはどんな奴なんだ?」


 俺が態度を改め尋ねると、リネットもすぐに真剣な表情に戻し、調べて来た内容を報告する。


「あ、はい。アンデス・ノイマンはこの学園の三年生で成績は常に主席。そしてどうやら彼女だけは、特別に別の寮が用意されているようで、この寮にはいないらしいです。」


 へえ、そりゃ随分な高待遇じゃねえか。

 金を積まれたのか媚を売ってるのか、あの学長ならどちらでもあり得そうだが。


「人物としてはどんな奴なんだ?」

「え?」


あのノイマンの娘だ、それなりに癖がある人物だろうと思い尋ねてみたが。リネットは何故か言葉を詰まらせる。


「えーと彼女は、その……」

「なんだ?言いにくいのか?」

「いえ、逆です、特に伝えるような内容がないんです。」

「なに?」

「彼女は基本授業以外はずっと部屋で本を読んでいる様で、誰とも関わろうともしてないようです、たまに本を借りに図書室へ行きまた部屋に篭るを繰り返す、いわゆる本の虫と呼ばれる方のようです。」

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