第131話 入学準備

 マリスからの依頼を受けることを決めると、俺は早速入学の準備に取り掛かった。

 まず初めに学園の教員及び関係者の情報を頭に叩き込み、次に学園寮に帯同させるメイドを選出した。

 メイドの数は入学時に払う寄付金によって変わり、俺は少し多めに払う事で三人の女をメイドとして帯同させることにした。


 一人目に選んだのは組織内で諜報及び盗賊として活動するリネット・ブルーム。いつもいる取り巻きたちがうるさいので初めは候補から外す予定だったが、本人からの志願もあったことから承諾した。


 次に選んだのは組織内の女暗殺者、レイル・マーフィーだ。

 元ブラッティラビットの一員で、水色の髪といつも眠そうな顔をしているのが特徴的な、とても殺し屋には見えない女だ。

 性格も怠惰なところがあり、前の抗争では楽ができる方と言う理由でベルゼーヌ側についており、竜王会に移籍した理由もビゼル率いるブラッティラビットの活気についていけなかったという事だ。

 やる気はないがその実力は指折りで、年齢は俺とさほど離れていないにも関わらず、抗争の時は副団長だったビゼルの相手をしていたほどだ。

 護衛として選んだときは、乗り気じゃない様子だったが、俺が学園に行っている間は好きにしていいという条件を与えたら即決で承諾した。


 そして三人目はアメリ・コンバーター。元はただの農民の娘で黒き狼に捕らわれてたところを開放したのが縁でそれ以降、もう一人の女性、フィリーズと共にこの組織の家政婦的な役割で働いている。

 他二人にメイドの仕事は望めないので、一人くらいは普通のメイドが必要だろうと選んだ、あとは社交的な性格なので、他の貴族のメイドたちと交流して情報や噂なんかも集めてもらう用途もある。


 入学の手続きや制服の手配などは全てマリスがやるので、俺自身が学園に対してする準備はこれくらいか。


 あとはマリスが最低限の女性の振る舞いだとか、淑女としての言葉遣いがどうこう言っていたが、まあそこは気にしなくていいだろう。


 その後は俺が不在の間、組織を任せるギニスに引き継ぎを行ったあと、入寮する日までは適当に過ごしていた。

 そして入寮の日……


「へえ、よく似合ってるじゃない。」


 学園へと向かう前に俺は、マリスの屋敷で学園指定の制服に袖を通し、鏡で自分の姿を確認する。

 制服は清潔感溢れる白いブレザーでなかなか華やかである、一応色は男が黒、女が白とで分けられているらしいが、男女どちらが着ても似合う仕様になっている。

 この世界ではまだ十七とは言え、もう一度学生服を着ることに少し躊躇いがあったが、俺の学生時代の学生服といえば、学ランやブルセラが主流だったので、それを着るよりかはまだブレザーの方がマシに感じた分、着ることにそこまでの時間は掛からなかった。ただ、やはりスカートを履くのはまだ慣れず、未だに履くことに躊躇いがある。


 ただそれより、気になるのは左胸に付いている校章だ。

 俺の胸についている校章は銀色で、話によれば爵位によって校章の色は変わり、王族、公爵以上が金、侯爵、伯爵以上が銀、それ以外は銅と分けられているらしい。


 校則上、学園内では身分は関係ないと書かれているが、こんなものを付けていることから学園内がどういう状況かは大体察しがつく。


 髪はいつも通り青く染め上げ、少しでも女に見えるようにと、軽く切り揃えた後、赤いカチューシャを身に着ける。

 顔には薄くだが、化粧を施しており、入寮後はアメリにやってもらう事になる。


 体つきはペンダントの効果により、俺の鍛え上げた筋肉が鳴りを潜め、元々小柄だった俺の体は随分女々しくなってしまった。ただ、体の動きに違和感はないので、衰えたわけではないらしい。

 声は元々そこまで低くなかったが喉ぼとけが縮んだ影響で幼少時代の声に戻っている。


「これで俺も十分。女学生に見えるだろう?」

「ええ……と言うより本当に悔しいくらい似合ってるわね、元々女性だったんじゃないかしら?」


 そう言ってマリスが女の格好をする俺に皮肉を言う、先日の時と言い最近色んな男を手玉に取ったからか少し調子に乗って得るようにも見えるな。


「フッ、俺の体が男であることは、お前ならよく知ってるだろ?」

「な⁉お嬢様⁉」

「そ、それは……コホン!と、とにかく、多少の不貞は許すけど、一応今のあなたにはカルタスの名がついていることを忘れないでね。」

「ああ、わかった。」


 俺は頷くとポケットから葉巻を取り出し咥えるが、火をつける前に取り上げられる。


「そう言いながら葉巻を吸わない!臭いついちゃうでしょ!」

「チッ」


 学生なら葉巻を吸うやつくらい普通にいるだろうに、仕方がない、とりあえず学園に着いたらまず葉巻の確保だな。


「じゃあそろそろ行くとするか。」

「エマの事、お願いね。」

「ああ、お前も旦那探しとけよ。」

「え?」

「養子を取るなら夫婦じゃないと取れないだろ?」


 仮としても離婚するにしても最低一年は過ごさなきゃならんしな。


「あ、ああ、そうね……また探しておくわ。」

「それより、お嬢様!さっきの話を詳しく」

「ああ、もううるさい!」


 後ろでマリスと執事が騒いでいる間に俺は馬車に乗ると、ベルランド学園へ向かうため王都へと出発した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る