第122話 掟

 

 親子の盃を交わしてから数日後、ティアは新しく幹部となった者達のみを集めてこれからの組織の在り方についての会議を開いていた。


 幹部に抜擢されたのは全員で七人。

 選ばれたのはエッジ、マーカス、ギニス、アルビン、メーテル、ガイヤ、ランファといった様々な分野で実力のある者たちだった。


「……という事で、組織の方針については以上だ、次に組織内での掟についてだが……仲間同士での殺し合いは御法度、以上だ。」

「え、それだけっスか?」

「俺からはな、後はお前たち幹部で決めろ。」


 それだけ言うと、ティアは一人部屋から出ていった。


「……さて、どうしようか?」


 ギニスが残されたメンバーに問いかけるも、こういう話し合いの経験を持たない者たちばかりという事もあり暫く沈黙が続く。


「そもそも組織内の掟って、アニキがさっき決めたやつとはどう違うんっスかね?」


 マーカスが皆に向かって尋ねる。

 さっき決めた掟というのは、先ほどまでしていた組織の方針についての話で出てきたティアが決めた掟だった。


 ティアが挙げた掟は二つ。


 まず一つ目は、『親のは絶対である』と言うものだ。

 これは親……つまりティアが決めた事はいかなることでも絶対従うという決まりだ。

 言葉だけ聞けば横暴なものにも聞こえるが、これに不満を持つものはいない。

 盃を交わす際に誓った内容と同じという事もあるが、絶対なのはあくまで最終決定、つまり決まる前に意見する事は可能という事だ。

 もし不満があるなら最終決定をする前に自分を説得しろということを本人は悪ぶって言ったつもりだったかもしれないが、皆そこをしっかり理解していたので文句は出なかった。


 そして二つ目、一般の人間には手を出さない。

 表には表の、裏には裏のそれぞれの社会があり、わざわざ表で平凡に暮らしている人間を無理やり引き込むという事をすることはないというティアの前世からの考えが入った掟である。

 ただ、話を持ち掛けるのは問題なく、その際には裏に関わるリスクをしっかり説明したうえで誘うようにとのことだった。


「恐らくさっき決めたのは組織全体の……つまり竜王会に属する傘下組織にも適用される掟で、そして今決めているのは俺達の、つまり竜王会だけの掟を作れという事じゃないか。」

「なるほど。そう言う事っスか」


 ギニスの説明に理解すると、マーカスもポンと手を叩き納得を見せる。


「とりあえず、その全体の掟を踏まえて、組織内の掟を決めるとするか。」

「……では私から一つ、敵味方問わず女性への性暴力は禁止にしましょう。」


 一つ目の掟として女性エルフのランファが提案する。


「私も女性ですから、いかに敵であってもそう言う話や光景は見たくないので。」

「それは俺も賛成だ、俺たちは冒険者や騎士団ではないが賊でもない。ここのメンバーは元は犯罪者奴隷の集まりだからそこら辺を区別するためにもそのルールは入れておいた方がいいだろう。」

「俺もだ。ミリアムの耳にそういう話は入れたくないしな、金もしっかりもらってるし、近々娼館も経営するって話もさっきあったところだ、やるなら合意のもとでやるべきだな。」


 その提案にギニスとエッジが賛成する。


「俺はどっちでもいい、興味ねえわ。」

「私もです、まあ襲われるのも少し面白そうですけどね。」

「……お前に手を出そうとする人間はいないだろう。」


 次にどっちでもいい派としてアルビンとメーテルが興味なさそうに答える。


「エッジさん、ギニスさんが賛成でアルビンさんとメーテルさんが中立、提案者の私は勿論賛成なのでこれで過半数越えてますし、決まりでいいでしょうか?」

「ああ、これで弟のガイヤが反対したら笑えるけどな。」

「……バカなことを言うな。」

「でもアッシ達は別に構わないっスが、一部の団員からは抗議が来そうっスね。」

「特に今後人が増えれば余計にな、この組織はそう言う輩が集まることが多くなるだろうし。」


 今いるメンバーは、賊だった元奴隷メンバーが多く、女性に対しそういった行いをしていたのが当たり前だったものが殆どで、更に今後新しく加入する団員達もそれを当たり前と考えるかもしれない。

 そうなると、不満が出てくるものも増えるだろう。


「今いる奴らはまだいう事を聞いてくれるが今後集まれば血の気の多い奴らも増えるだろうし、秩序も乱れそうだ。」

「では新しいメンバーは団員の推薦式なんてどうでしょう?ヴェルグでは募集という形にした結果、集まった団員の大半が寝返りましたから。」


 そう提案をしたのはこの話し合いにあまり興味を持っておらず返答して以降、気配を消していたメーテルだった。

 皆、メーテルが提案したことに驚きを隠せなかったが、内容は凄く真っ当な提案だったのですぐに考え込む。


「……それはいいかもな、今は五大盗賊ギルドが下についたことで戦力も大幅に増えたし、すぐに人手が必要というわけでもないしな。」

「ふふ、じゃあ決まりということでいいですね。」


 意見が通って満足したのか、メーテルはニコリと微笑むと再び気配を消して黙り込む。


「じゃあ俺からも一つ、物事を決めるときは決闘で決める!」

「却下、それだと武闘派ばかりが優遇されちまう。」


 メーテルの意見が通ったことで隣にいたアルビンもその勢いで提案するもあっさり却下される。

 組織のメンバーは、荒くれ者も多いがウラッグやミリアム、そしてそのままメンバーとして残っている黒き狼に捕まっていた女性たちもいる。そのメンバーの事を考えればその提案は受け入れられないだろう。


「とりあえず物事を決めるときはまずは話し合いからだな。」

「それで決めても納得しない奴も出てくるときはどうする?」

「よし、じゃあそう言うやつがいたら俺が割って入るってのはどうだ?喧嘩になっても問題ねえぜ!」

「それはお前が暴れたいだけだろう……って気もするが割とそれは理にかなっているな。やはり血の気の多い奴らには強さを見せるのが大事だからな。」

「ならいっそのこと役職なんて作るのはどうだ?」

「役職?」


 ギニスの言葉に注目が集まる。


「ああ、今言った、喧嘩の仲裁をする人間を決めるようにに幹部内一人一人に役職を決めるんだよ。」

「あ?なんかそれメンドクサくねえか?」

「お前は暴れる奴らの制圧をする担当だ。」

「ならいいぜ。」


 顔をしかめていたアルビンだったが、役割を聞くと納得しあっさりと引き下がる。


「成程それはいい案かもな。やっぱりティアだけじゃすべてを把握するのは難しいだろう。」

「だろ?じゃあ決まりだな、じゃあ役職なんだが――」

「では、まずこの幹部のまとめ役としてリーダーはギニスさんでいいですね。」

「え?」


 ランファの言葉にギニスが言葉を詰まらせる。


「よく、ティアさんの代理を任されていますし、今もアルビンさんを上手く丸め込みましたからね、ガイヤもギニスさんの言う事はよく聞く方ですから。」

「……まあ、まだマシな人間だしな。」


 ガイヤがそっけなく返答するが、人間を酷く嫌うガイヤの言葉としては最高評価ともいえるだろう。


「そうだな、なんだかんだでこの場もうまく指揮っているしな。」

「それに多分アニキから一番信頼されているんじゃないっスか?」


 幹部たちの声にどんどん外堀が埋められていく。

 そこまで信頼してもらえるのはありがたい……しかし同時にかなり厄介ごとを押し付けられる気もする。


「いや、流石にこの面子をまとめる自信は……」

「では決まりですね。」


 そして最後は有無を言わせないようなメーテルの一言で締めると、ギニスは諦めたように了承した。

 その後、手探り状態で始まった掟についての話し合いは数時間及び議論されることになった。


 そして決まった事は以下の通り


 決められた掟


 その1 仲間同士での殺し合いは禁止

 その2 敵味方問わず、女性への性暴力は禁止。

 その3 新規団員は団員の推薦とし、その後人材教育担当の幹部との面談後、親に報告され採用の決定をする。

 その4 組織内でのトラブルの際は役割に該当する幹部に報告する。


 破ったものは内容に応じて罰則が与えられる。


 新しく決まった幹部たちの役職

 幹部リーダー ギニス 

 役職補佐 メーテル  

 人材、および教育担当 マーカス、エッジ 

 仲裁担当 アルビン

 女性相談担当 ランファ

 懲罰担当 ガイヤ

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