第111話 ティア・マットVSオギニ・ブランドン

オギニ・ブランドン

 十年前に滅んだ国、カレドア王国で将軍を務めていた男だ。

 その実力は他国からも一目置かれるほどで、カレドアが四大大国の一つとされるアルド帝国に攻め込まれた際には常に最前線で戦い、強大な帝国相手にカレドアが一年近く抵抗を続けられたのはこの男の存在が大きかったとも言われている。

 個人の実力、指揮能力も高いがその中でも最も知られていたのが国への忠誠心だ。


 カレドアは種族差別の激しい国で薄いながらもドワーフの血が流れていたオギニは、幼い頃から激しい差別を受けていた。


 育った村では家族共々迫害され、城の兵士に入隊した時は毎度理不尽な罰を受け、功績をあげても評価してもらえず、更にはやっとの思いで昇格し部下を持っても、殆どの者たちがオギニの命令を聞かなかった。


 それでもオギニは不満一つ言わず国のため仕事を全うし続けた、そしてその実力と境遇は徐々に他国に知れ渡り、引き抜こうとオギニに接触する者たちが多数現れ始める。

 しかしオギニはそれを断り続け、国王もそこでやっとオギニの評価を改め国の将軍に任命した。


 ……しかしそんなオギニも、最後には国の城の門を開き国王の首を帝国に渡し降伏を申し出たのだった。

 この話はオギニの境遇を聞いていた他国の者たちからは理解を示されたが、カレドアの国民達はそんなオギニの行動を非難した。

 その後、オギニは他国からは忠義の将と呼ばれ、カレドアの国民達からは裏切者と称される矛盾の称号を手に入れていた。


 ――


 ……気に入らねえな色々と。


 俺は目の前でビビアンを守るオギニを睨みつける。


「オギニよ、よく戻ってきた!さすがは大金はたいて買った奴隷なだけはある。」


 嫌味たらしいビビアンの称賛の言葉にオギニは無言で会釈をすると、ビビアンを背中に隠すように守りの体勢に入る。


「……ここは私にお任せビビアン様は早く外へ。」

「うむ、しかしどうやって逃げればいいのだ?」


 この部屋の出入り口である扉はこちらが陣取っている、あるとするならば窓からだがここは二階で、軟弱なビビアンが飛び降りれば無事では済まないだろう。


「少し失礼します。」

「なに?」


 ビビアンに一言謝罪を済ませると、オギニは床に座るビビアンの頭に手を近づける、するとオギニから黄色い光が出てくるとそのままビビアンを包み込む。


「……これは少し厄介ですね。」


 その様子をみたメーテルが何かを察したようにオギニに向かって走り出すが、オギニの前の床が飛び出し壁となってメーテルを遮る。

 そしてその隙にオギニは窓からビビアンを外へ放り投げた。


「な⁉」


 すぐさま隣の窓から顔を出しビビアンを探す、するとビビアンが何事もない様子でそのまま屋敷の外へ逃げていく姿が見える。


「……これは恐らく大地の加護ですね。」

「大地の加護?」

「はい、正確に言えば大地の精霊の加護です、自分のマナを使い精霊に力を借りるドワーフが使える召喚魔法の一種です、その力を使ってビビアンが地面に落下してもダメージを受けないようにしたのでしょう。まさか、純血以外の者が使えるとは思ってもいませんでした。」


 大地の精霊か……流石は異世界、なんでもありだな。


「メーテル、ビビアンをってこい。」

「私が追ってもよろしいのですか?」

「ああ、交渉は既に終わっている。俺が行く必要性もない。」


 というよりも今はビビアンあいつよりもこいつの相手をしたい。


「承知しました。」


 そう言ってメーテルも窓から飛び降りてビビアンを追いかけに行くと部屋には俺とオギニの二人だけになる。


「貴様が追わなくていいのか?あの女の方が私より遥かに強いだろう。」

「俺じゃ不服か?」

「いや、寧ろ好都合だ、ドワーフの血を引くものとして魔剣の持ち主とは一度手合わせしてみたいと思っていたからな。」


 オギニはアイテムボックスを発動させ中から大剣を取り出す。

 魔剣よりも遥かに大きいが、オギニはそれを鞭を扱うがのごとく軽く振り回して見せる。


 やはりこいつも剣スキルが高いのだろう、だが今回の俺が持っているのは魔剣、例えスキルがない俺でも手足の如く奮える。


「行くぞ。」


 呟くように静かに宣告すると、床を蹴ってオギニまでの距離を詰め、そのまま剣を振りぬく。

 ドワーフの血が流れているとは思えないそのデカい図体ずうたいを真っ二つにするつもりで剣を横に振るが、オギニはそれを大剣で受け止める。

 だがその瞬間、魔剣がオギニからマナを吸い始めるとオギニは顔をしかめ、すぐに距離をとる。


「……今の感覚、マナを奪われたか。流石魔剣と言ったところか。」


 オギニが手の感覚を確かめるように手を動かす。


「間接的でも触れればマナは吸われるか。」

「ならどうする?」

「簡単な話だ、触れなければいい。」


 オギニが大剣を床に置き、再びアイテムボックスを開くと、今度は金色のハンマーを取り出す。

 そして地面に向かって振り下ろすと、部屋の床全体にヒビが入り、叩いた部分の床は割れ、下へとつながる穴が開く。

 だが注目するのはそこじゃなく、床が割れた時にできた瓦礫がぼんやりと光りながらオギニの回りに浮き始めていることだ。


 そしてオギニが浮いている瓦礫をハンマーでバットを振るように叩くと、瓦礫が石の矢じりに変わりこちらに向かって飛んでくる。


 間一髪で避けるが頬を掠め、掠めたところからは血が頬を伝う。

 そして今度は小石程度の小さな破片をまとめて叩き、矢尻に変えて続け様に飛ばしてくると避けきれずに体にいくつか突き刺さる。


 まるで銃弾だな。

 幸いなことは銃弾ほど固くはなく、俺の体の頑丈さもあり体に入り込むほどの威力はないというところか。

 刺さった部分からは血が滲み出ているが、ダメージとしては大したものではない、だが今のままでは時間の問題だろ。


 慣れない剣で戦うよりは拳で戦った方がいい、俺はすぐに魔剣の力を失った右腕の形を変えるとその腕で飛んでくる矢尻を次々と撃ち落とす。


「ほう、マナを使ってそんなこともできるのか、やはり魔剣とは不可解な剣だな。」


 オギニが再び床に向かってハンマーを振り下ろすと、今度は床から石の人形のようなものが現れる。


「俺からしたらてめえも十分不可解だ。」



 ――


 竜王会の拠点で続いている二大盗賊ギルドと竜王会との戦い。

 殺し屋集団であるブラッティラビットはベルゼーヌ率いる団員と、ビゼルが率いる団員たちで別れて戦い実力は均衡状態となっている。

 一方、影なき蛇とそしてデオンの言葉に乗せられ、寝返った竜王会の団員たちは、人数で言えば竜王会より多いがデオンが殺された事で混乱に陥り、寝返らなかった団員たちはギニスの指揮の元、裏切者たちを一掃していく。


 戦力差は盗賊ギルド、勢いを見れば竜王会に分があり現時点では勝敗は分からない状態となっている。


 ……しかし現在拠点の中央で戦っている二人の男の戦いは明暗がくっきり分かれていた。

 ここまで無双と呼べる戦いを続けていた竜王会の切り込み隊長とも呼べる剣士、アルビンとブラッディラビット現団長ベルゼーヌの戦いは、血を吐き膝をつくアルビンに対し、ベルゼーヌは傷一つつくことなく膝をつくアルビンを見下ろしていた。

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