第109話 情報
「だ、団長がやられただと⁉︎」
「バカな!あいつ、無能じゃなかったのか⁉︎」
デオンがやられたことで、影無き蛇の団員達の驚きと動揺の声が広がっていく。
頭が殺られればそうなるだろうが、こいつの実力を考えれば別に騒ぐほどのことではない。
『影無き蛇』の現団長のデオンは盗みを生業としているこのギルドでは珍しい武闘派として知られ、最近自らが起こしたクーデターにより団長に襲名した男だ。
主に身体強化に長けており、その実力は
……が、実際はこいつにそんな力はない。
こいつの持つ本当のスキルはステータスや外見
つまり、タネさえ分かっていれば大した相手ではない。
だが戦闘要員が少なく、慎重派の多かったこの盗賊ギルドではこの能力の効果は絶大で、誰もこいつと争おうとはせずバレることはなかった。
悪知恵もなかなか働くようで、その能力や組織外の人間を利用し仲間の妨害や、手柄を奪ったりなどして若いながらも幹部に選ばれると、団長や幹部達を罠にはめ手柄を欲しがっていた騎士団の者に引き渡し、クーデターを成功させたようだった。
そんなこいつの敗因は自惚れと無自覚にできたプライドだろう。
実力はないのに、周りの反応からいつしか本当に自分が強いと勘違いしてしまい、時計塔で実力は分かっていたにも関わらずそれが通じなかった俺にムキになり自分から仕掛けてきた。
一体どういう姿に変わって威嚇しようとしていたのか気にならないと言えば噓にはなるが、まあ今となってはどうでもいいことだ。
俺は交戦状態の拠点を一人抜け出し改めてビビアンの屋敷へ向かう、その道中の街中では何やら不穏なざわつきを見せている。
大体予想はついているので特に気にすることなく進んでいくと、途中この異世界でひときわ目立つ和服の格好をした集団が待ち構えていた。
俺が一度その集団を前に足を止めると女性が一人、集団から出てきてそのままこちらに向かって頭を下げる。
「お待ちしておりました、どうやら作戦は成功したようですね。」
「ああ、お前も森での魔物の手配、ご苦労だったな、揚羽。」
そう言うと揚羽は妖艶と呼ぶにふさわしい微笑みを見せる。
ジャッカルから得た情報ではこいつは闇越後からの独立を目指しているが、鴉がそれを許していないという事だった。
そんな揚羽に俺が持ちかけた話はビビアンを狙う際に一緒に闇越後を壊滅させる作戦に使える商品の提供と、その後揚羽が立ち上げる予定の新生闇越後への資金の援助だった。
「いえ、お陰様でこちらも計画通り進められましたので、今頃闇越後はビビアンの兵に全滅させられていることでしょう。」
「そうか、だが良かったのか?鴉は育て親だったんだろ?」
「育ての親……ですか。」
その言葉に上機嫌に笑みを浮かべていた揚羽の顔つきが少し変わる。
「確かに恩着せがましくそう言われることもよくありましたが、元々幼い頃に両親を殺し私を攫ったのは鴉様ですよ。まあ今の暮らしには満足していましたのでその事に関して恨みはありませんが。ただ、店が私が目指すものとは少し違う方向に行ってましたのでね、残念ながら老い先短いと思いご退場してもらいました。」
揚羽は淡々とそう告げると、俺の隣へと並ぶ。
「では、ここから先は私達新生闇越後の元締め、揚羽が護衛を努めさせていただきます。」
「ああ、頼む。」
「お任せを、この計画はあなたが勝って初めて成功ですから。」
そう言って揚羽は笑みを浮かべ、腕を絡ませてくると瞳を紫色に光らせる。
その眼をただ見つめ返すと、揚羽は「本当に効かないのですね……」少し残念そうにつぶやいた。
「しかし、よくご存知でしたね。デオン様の能力はアルメリア様ですら知られていなかったのに。」
「……こちらの伝でな。」
―― 一か月前
「これが五大盗賊ギルドに関する情報です。」
「ほう……よく調べたもんだな。」
ジャッカルから渡された資料を見て思わず感心する。
そこには五大盗賊ギルドの幹部の能力から性格、思想、更には交友関係まで詳細に書かれていた。
「キヒヒ、お褒めに預かり光栄です……が、残念ながらこれを調べられたのは私ではなく我が主人です。」
「主人?」
「ええ、我が主人は優秀すぎる故、なにかと暇を持て余していらっしゃいます。これも暇つぶしの一種だったようでビビアン・レオナルドが五大盗賊ギルドと接触した際にそのギルドに関して全てを自らの手で調べ上げ、今も暇があれば片手間で情報を更新しているらしいのです。」
「……」
ジャッカルが誇らしげに自分の主人の話をする。
ビビアンと接触した時という事は何年も前からという事になるが、この情報はここ最近のことまでしっかり書かれてある。
暇つぶしでこの情報量か、恐らく俺のことも筒抜けなんだろうな。
「キヒヒ、興味を持たれましたかな?」
「まあな。」
「では宜しければ事が終わり次第、一度会われてはどうでしょう?主人もあなたと是非顔合わせしたいとの事でした。」
「そうだな、それもありかもな。」
話を聞く限りでは、今のところ敵意はなさそうだがこの先どうなるかわからない、今のうちに接触するのもありかもしれない。
「キヒヒ、是非前向きに検討しておいてください。」
――
ジャッカルの主人がどのような人物かはわからないが、このままいけば会うことになるだろう。そのためにもさっさとビビアンの首をとりに行くとしよう
――
――なんだ、この胸騒ぎは?
ビビアンは落ち着きなく部屋の中を一人歩き回っていた。
先ほどオギニ達から闇越後が魔石を持っていたという連絡が入り殲滅を命じ、安心したのもつかの間、今度は別の密偵から『影なき蛇』と『ブラッディラピッド』の二つが竜王会へ押し入ったという報告が流れてきた。
魔石は闇越後にあったことで今回の一件の犯人は闇越後でほぼ間違いないはず。
だが、鴉が犯人と言っていた無名の組織に二つの盗賊ギルドが押し入っているという話にビビアンの内心に不安がよぎっている。
――もし本当に竜王会というのが犯人なら、私はとんでもない勘違いをしてしまったのでは?
そう考えるだけで、部屋を歩き回る足が速くなる。
すると、扉が開く音が聞こえると。
「も、戻ったか!それで、どうだった……――」
真相の知りたさにビビアンはすぐさま顔を扉の方へ向けたが入ってきたのは見覚えのない人物だった。
「だ、誰だ貴様⁉どうやって入ってきた⁉。」
入ってきた人物は赤に近い眼と髪が目立つ片腕の少年でその眼を見た瞬間、何故か背中にゾワリと悪寒が走る。
少年は答えずこちらへ一歩一歩近づいてくると、腰につけた禍々しいオーラを放った剣を抜きこちらに向けてきた。
「ビビアン・レオナルドだな?てめえの
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