第108話 襲撃②

「来たか……」


 拠点の入り口の前をブラッティラビットと影無き蛇の集団がまるで退路を塞ぐように並ぶ、ざっと見るだけでもこちらの倍以上の兵隊が集まっている。


「奇襲のつもりだったが、あまり驚かないのだな?」


 デオンと共にその集団を率いるベルゼーヌが表情を変えずに尋ねてくる。


「あらゆる事態を想定しておくのは当たり前のことだからな。」

「ならばこれも想定内という事か、ではこの戦力差をどう埋める?辺りを仕切る盗賊ギルドが二つと、最近出来た弱小組織、数も実力も随分と差があると思うが……。」

「いや、それだけじゃ足らねえな。」


 デオンがベルゼーヌの言葉に付け足すように言い一歩前に出ると、デオンがこちらに向かって呼びかける。


「おい、お前ら。そんなガキの下につくよりこちらにつかねえか?俺達五大盗賊ギルドに入るほうが遥かにいい夢が見れるぜ。」


 デオンの言葉に、こちらの兵隊がざわつき始める。


「それに知ってるか?そいつ、無能なんだぜ?無能なんかに顎で使われていいのかよ?」

「む、無能だと⁉」

「そんな話初めて聞いたぞ!」


『無能』その言葉を聞いた瞬間、部下たちの俺の眼が見慣れた蔑む様な眼に変わる。


 ……なるほど、これがデオンのやり方か。

 元々影無き蛇は盗み専門で、標的以外は相手にしないというギルドだったが、こいつが頭になってからは盗みというより、強盗に近いやりたい放題な組織になったと聞く。

 組織の方針に全く合っていない男がなぜ頭を張っているのかと思ったが、こうやって周りを落とし支持を集めていったのか。やはりだな。


 デオンの言葉を聞いたあと、部下達は次々と寝返っていく。

 まあ、仕方ない。この世界での無能の扱い、更に戦力差も考えれば寧ろ正しい選択とも言える。

 それに弱小勢力から大手への誘いがあればに乗り換えるのも当然の選択だ。


 ただ、それをこいつが本当に守るかは別だがな。

 ベルゼーヌもそれをわかってるのか、無表情を崩さない程度に眉をしかめている。

 気がつけばこちら側に残っているのは元奴隷組と他数人と言ったところまで減っていた。


「お?誰かと思えばリネットとその取り巻きじゃねえか。」


 そしてその中にリネットの姿を見つけたデオンが彼女に声をかける。


「知り合いか?」

「以前まで影無き蛇にいたのよ、私の盗みスティールの実力は知ってるでしょ?あくまで盗みが目的で極力人に被害は与えないような組織だったし、居心地も悪くなかったわ。最もあいつがリーダーになってからは辞めたけどね。」

「今からでも戻って来いよ、お前のそのスキルは影無き蛇にいてこそ価値があるだろ。」

「お断りよ、今の影無き蛇あなたたちには必要ないでしょ、殺して奪うだけの略奪集団には。」

「言うじゃねえか、だがいいのか?そっちについていても勝ち目はねえぜ。」

「……」


 リネットはその言葉に対しては何も答えない、こいつもそう思ってるんだろう。


「安心しろ、こちらもそう簡単に負けることはない。」

「ハっ、強がるのもいい加減にしろ。この戦力差でどうするつもりだ?」

「簡単だ、人がいないなら雇えばいい。」

「は?何言って――」


 そう言って俺は手を挙げ合図を送る、するとそれと同時にベルゼーヌ達の後ろに控えていた奴らから血飛沫が飛んだ。


「なっ⁉」


 血を流しているのはブラッティラビットの一人、そしてそいつを後ろから剣で胸を突き刺したのもブラッティラビットの男だった。


「貴様、一体どういうつもりだ!」

「悪いな団長、これも仕事なんでな」


 その問いに答えたのはブラッティラビットの副長を務めるビゼルという男だった、その事に流石のベルゼーヌも驚きを隠せずにいる。


「どういうことだ⁉ビゼル!」

「ああ、そこの男に雇われたんだよ、殺し屋としてな。標的ターゲットは『ブラッティラビット』で」


 そう言ってビゼルが俺を指さす。


「それをお前は引き受けたのか?」

「ええ、でも別に驚くことでもないでしょ?本来のやり方に戻っただけですよ、金さえもらえばを受けたらどんな仕事でも引き受ける、殺し屋ブラッディラビットにね。」


 仕事を選ぶ今の組織への皮肉のように告げるとビゼルの言葉に合わせて、次々と他の団員も剣を取り出し構える、その様子に何も知らされていない他の団員と影無き蛇のメンバーは動揺を隠せない。

 ベルゼーヌが俺を睨みつける。


「貴様、一体いつから⁉︎」

「さあ、いつからだろうな?」


 実際は一ヶ月ほど前、ジャッカルから五大盗賊ギルドの内情を聞いた時だ。

 五大盗賊ギルドはそれぞれ問題を抱えており、ブラッティラビットは今の方針に不満を持っている奴らがいるという話だった。そして会議で俺の話での反応を見てそれが確信に変わり接触を試みた。


 話に乗るかは博打だったが、どうやら俺の勝ちのようだ。


「安心しろ、お前たちだけじゃない。」

「……なに?」

「きっと向こうも今頃大騒ぎになってるだろうよ。」


 ――


「な、なんなんだいあんた達は!」


 闇越後の拠点に突如やってきた、兵士達に鴉は戸惑いを隠せない。


「貴様ら闇越後に現在魔石強奪の容疑が掛かっている。」


 身に覚えのないキーリスの言葉に鴉はただ首をかしげる。


「は?何を言っているんだい?だから犯人は竜王会だといっただろ。」

「今回の襲撃の生存者から見慣れないモンスターがいたという情報を得た、そんなことできるのはモンスターを売り、怪しげな道具を売りさばくお前たちだけだ。」


 確かにモンスターは他の地域や他国から仕入れているし、モンスターを操る道具も扱っているが、ここ最近はモンスターは売れていないし操る魔道具も操れると言っても一体のみであまり使い勝手は悪い。

何よりそんなことをした覚えはない。


「何をバカなことを、そんな大それたことするわけ――」

「隊長!こちらに盗まれたと思われる魔石をが見つかりました!」

「な⁉バカな!それは揚羽が奥で厳重に保管していたはずじゃ――」


 そこまで言ったところで鴉が慌てて口を塞ぐ。


「……これで確定だな、ビビアン様の命令だ!この場にいる奴らを殲滅しろ!」

「待て、違う!これには訳が……そうだ揚羽!揚羽はどこだ!」


 鴉が逃げるように慌てて後ろに走り出し必死に揚羽の姿を探す、しかし……


 ――ない⁉︎揚羽の姿どころか今日まで稼いだ売り上げや商品も見当たらない、まさか⁉︎


「どこにいった!揚羽!揚羽ぁ!」


 鴉の奇声のような呼びかけが部屋中に響き渡るが、それに対して返事が返ってくるのもはなかった。


 ――


「お前ら……」

「さて、これで戦力は五分五分といったところか、アルビンいけるか?」

「へへ、当たり前だ!」


 アルビンが剣抜きベルゼーヌに見て不敵に笑う。


「だが気を付けろ、今までの奴らとは違うぞ?」

「だからこそだろ、強い奴と殺し合う事ほど面白いことはねえからなあ。」


 アルビンは俺の問いに答えながらもベルゼーヌから目を離さない、こいつにはもうベルゼーヌしか見えていないようだ。


「ってことで、よろしく頼むわ、オッサン。」

「若造が、舐めるなよ!」


 アルビンの挑発に答えるようにベルゼーヌも剣を取り出す。

 そして剣を交えるとそれを合図に他の奴らも交戦を始める。

 周りが戦い始めた隙に俺もビビアンの元へ向かうため動き出す。


「待てよ!俺がいることを忘れるなよ」


 すると、俺の前にデオンが立ちはだかる。


「そうだな、お前もいたな。」

「無能の分際で舐めやがって、その体真っ二つに引き裂いてやるよ!」


 デオンが唸りをあげ始めると体から赤いオーラを発し、筋肉が肥大化していく。

  もう一度言うが俺は五大盗賊ギルドのことはジャッカルから聞いている、その結果……


「悪いな、お前のことは、はなから眼中になかった。」


 俺は無慈悲にもデオンの変身を待つことなく魔剣でデオンの体を容赦なく切り裂いた。 

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