第104話 不穏な三人

 その日の夜、俺はガイヤと揉めていたと言う新入りを部屋へと呼び出した。

 パラマとランファに連行されるように連れてこられたガイヤに対し、もう一人の相手は他の新入りと思われる数人の取り巻きに守られるように入ってきた。


「さて、俺がいない短時間の間に随分暴れたそうじゃねえか、ガイヤとそして……」

「リネットです、リネット・ブルームです。」


 そう名乗ったのは意外な事にまだ幼さの残る少女だった。年齢は俺と同じか少し下くらいか、鮮やかな金色の髪を短髪に切りそろえ、気の強そうな吊り目でこちらを睨み返している。

 一緒に入ってきた男達は頭である俺に対しても護衛の様にその少女を囲っている。

 恐らくここに来る前からの関係がだろうが、別に過去を詮索するつもりはない。


「で?きっかけは一体何だったんだ?」

「理由なんてねえよ、こいつらがいきなり俺たちに絡んで来たんだ。」


 ガイヤの言葉を聞いた後、リネットに目を向ける。


「先に所属していただけの下等なエルフ達がでかい態度をとっていたのが気に食わなかっただけです、更に言えばエルフが人間の街にいる事態受け入れたくありません。」

「なんだとぉ!」


 ガイヤがまたしても突っかかろうとするが、すぐにパラマ達に宥められギリギリなところで堪えている。

 リネットも護衛に守られながらも怯む様子は見せない。

 しかし、挑発されているとはいえこんなガキ、それも女相手にも喧嘩するガイヤの血の昇りやすさも少し問題だな。

 俺は次にランファとパラマを見る。


「お前らはどう思った?」

「確かにガイヤの態度はよろしくなかったとは思うけど、だけどそれを理由に私たちエルフを罵倒する理由にはならないと思うわ。」

「そうね……私たちだって好きでいるわけじゃないし。」


 二人も怒りはしないもののこいつの言葉に思うところはあったというところか。


「二人の言い分はよくわかった、リネットと言ったか?」

「はい。」

「確かにこいつらは他よりも付き合いは長いし信頼もしている、だが付き合いだけで信頼しているわけではない。この三人が使えるからだ、三人はエルフだから魔法は長けている他、パラマは弓の腕が良く、ランファには薬学の知識がある、そしてガイヤは高い攻撃魔法を持っていたりと、それぞれが有能な面がある。お前には何かあるか?特技と呼べるものが。」


 そう尋ねるとリネットはフッと笑ったかと思うと、視線を少し逸らす、それを追う様に俺も視線の先に目を向けるが、特に何もなくリネットの視線も元に戻っている。

 ……が、その瞬間違和感に気づく。


 ……へえ、いい腕じゃねえか。


「ありますが、残念ながら今は私の実力を披露することはできません。」

「けっ、なら大したことねえんだろ。」

「エルフの様な間抜けにはそう見えるでしょうね。」

「なんだと!」

「あなた達、いい加減にしなさい!」

「それで?二人のの処分はどうするんです?」


 ランファが少し心配そうに尋ねるとガイヤの表情が少し強張り、リネットの取り巻きたちも身構える。


「別にそんな事するつもりはない。ただ経緯が気になっただけだ、嫌おうが喧嘩しようが別に構わねえ、仕事さえきっちりこなしてくれればな、以上だ。」


 それだけ言うとこの話は終わりにして、その場は解散とした。


「ああ、あとリネット、お前の好きに使うといい。」

「⁉︎」

「お前が有能だと言えるならその力でガイヤよりも役に立つことを証明して見せてみろ。」


 最後に一言告げるとリネットは少し驚きつつもそのまま無言で部屋を後にした。

 ……しかし、なかなか面白い奴らがいたもんだ。

 あの眼は俺に従うというより首を狙っているという感じだな。だがまだ青い、己の実力への慢心と相手への侮りが見え隠れしてる。

 だがあの技術は非常に使える、特に俺達みたいなのにはな。

 腐っても五代盗賊ギルドがいる街だ、その影に隠れた存在はいるかもしれんな。ことが終わった後に改めて調べるのもありだろう。


 ――


 リネットと取り巻きの男たちは、ティアの部屋を後にするとそのまま拠点の外に出る。

 闇夜に紛れ、周囲に人がいないところまで来ると、男の一人が一つ息を吐いた。


「ふう、何とか大事にはならずに済んだようですね。」

「しかしお嬢、気持ちはわかりますがあまり揉め事は起こさないでください。」

「わかってるわ、ごめんなさい。」


 リネットは注意されると素直に頭を下げる。

 かつての自分の父親の部下であった男達は今、同じ組織に属するただの同期であるが未だに自分のことをお嬢と呼び、従いついてきてくれている。


「しかし、追い出されるのではヒヤヒヤしたな。」

「フン、ただでさえ小さい組織なのにあろうことかあのビビアンと事を構えようとしてるんだ、俺たちを切り捨てる余裕があるわけないだろう。」

「それもそうだな、それにしてはビビアンを狙うなど随分と無謀なことを考えるな、我々の『無能』なリーダーは。」

「まあ殺すだけならできるかもな、あの女がいれば……」


 部下の二人が話す女、それはここ最近この地方に突如現れ名が知れ渡った、メーテルという謎の女だ。

 ある日突然現れたこの女は誰に雇われたわけでもなく、東部地方のとある貴族二人と名の知れた賞金首を殺害し、東部地方を騒がせた。

 しかし謎なのはその女は貴族を殺しておきながら何故か指名手配はされていないところだ。

 そしてその名は裏社会でも知られ様々な組織や貴族からスカウトされたメーテルが選んだのはこの街の管理者、ビビアンの元だった。


 だが『イービルアイ』から得た情報で、そんなメーテルが本当に属しているのは竜王会という名も知らないような組織だとし知らされた。

 そして更にその組織を調査すると、わかったのはその組織はまだできて間もない小さな組織でリーダーが『無能』だという事だった。

 無能が率いる弱小組織に何故か所属する最強の女、そんな竜王会に興味を持ったリネットはとある目的のため、二人と共にその組織に入ることにした。


「それとあのアルビンという男もヤバいな、あれは人間というより獣だ。」

「ああ、あんな奴らがどうして『無能』の子供なんかの下に。」

「さあな、ああいう奴らの考えることはよくわからない、どうせ何かの気まぐれだろう。だからこそ、そこに突き入る隙がある。」

「あんな『無能』の子供があんなでかい態度が取れるのもあの二人のおかげだ。あの二人さえいなくなればこんな組織大したことはないからな。」

「……」


 ――無能……果たしてそうだろうか?


 部下の二人の会話に出てくる言葉にリネットは腰につけたゴールドの入った袋に目を移す。

 先ほど、ティアに特技を聞かれた際、密かにティアから盗んだゴールドである。

 父親から受け継いだ盗みスティールのスキルと、幼い頃からそれを使い身に付けた技術は、リネットの自慢で無防備な者から誰にも気づかれずにゴールドを盗むことなど造作もないことだった。

 しかし、それをティアには見抜かれていた。


「お嬢?」

「いえ、何でもないわ。とりあえず今は大人しく奴の下で働きましょう、そして少しずつ団員をこちらに取り込み最後にはこの組織を乗っ取りそのまま私たちの居場所を取り戻す。必ずね。」


 その言葉に部下の二人は大きく頷いた。


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