第103話 仲違い①

「あ、アニキ。」


 会合の場となった時計台を後にし拠点に戻ると、丁度入口付近で同じく冒険者活動から帰ってきたつるはしの旅団たちと合流する。


「お前らも戻ったのか。」

「ああ、そっちも盗賊ギルドとの話し合いは終わったのか?」

「まあな、お前らの方はどうだった?」

「大方あんたの計画通りになってたよ、とりあえずここで話すのもなんだし中に入らないか?」


 ルースの言葉に同意すると、扉を開け中へと入る、すると拠点の中では中は少し不穏な空気が漂っていた。


「なんだ、何かあったのか?」


 目の前には少し顔色の悪いランファと眉を吊り上げ他の奴らを睨みつけるパラマ、そして疲れた顔をしているギニスがいた。

 そしてギニスは俺の姿を見ると嬉しそうに近づいてくる。


「だ、ダンナ!やっと戻ってきてくれたか!」

「その様子だと色々あったみたいだな。」

「ええ、まあ……。」


 そう言うとギニスは思い出したのか再び疲れた顔を見せる。

 ここにいる面子を見る限り主にエルフ関係か……ガイヤがいないのも気になるな。


「……聞くことが色々とありそうだな」


 そう考えると俺はそのままアルビンとギニス、つるはしの旅団、そしてガイヤを抜いたエルフ二人連れて奥にある自室に入っていく。


「で、何があったんだ?」


 部屋に置いてある自分用に用意した少し高価な椅子に腰を下ろすと、まずはギニス達の話から聞く事にした。

 話によればどうやら俺とアルビンが不在の間に、最近入った新入り達がエルフを差別や見下す発言をしたことでエルフの三人一悶着あったようだ。

 初めはランファがガイヤを宥めて言い争うだけだったが、興奮した一人がランファを突き飛ばし、それに怒ったパラマにつられ、ガイヤが手を出し、新入りの一人と殴り合いの騒動になったという事だ。


 その後、ギニスがなんとか間に入ってどうにか治まったようだが、ガイヤともう一人の興奮がなかなか冷めない事から、二人は反省も踏まえ頭を冷やさせるため現在、地下の牢獄に閉じ込めてあるという事だ。


「成程な話は大体わかった、ギニスもご苦労だったな。」

「……ホント、疲れたぜ。」


 そう言うとギニスは大きく息をはく。

 前からいた面子は奴隷という事もあってかあまり気にしていなかったようだが、やはりどの世界でも種別による差別はあるようだな。

 戦力補強のために来るものは拒まずに受け入れたがそうなると統率も難しくなる、まとめ役がギニス一人では厳しいか。


「その件に関しては後日改めて話をしよう。」


 ガイヤの事も気になるが今は他に聞きたいことがある。

 俺は次にエッジたちの方を見る。


「で、そっちの方はどうだった?」

「あ、はい。アニキの言った通り、森の魔物が急に激減した事で現在討伐依頼は極端に少なくなっています、、元々討伐依頼は森の魔物関連が多かったので、討伐クエストが極端に減っていましたね。おかげで仕事も減り街を出る冒険者も増えたとか。」

「そうか。」


 どうやらそっちも予定通りに進んでいるようだな。


「それで、あんたの方はどうだったんだ?」


 今度はエッジがこちらに尋ねてくる。


「ああ、、要件は伝えたし、後は動くは奴ら次第だ。」


 正直動かなければ助かるが、動いてきても脅威ではない。残念ながら今の盗賊ギルドはその程度という事だ。


「で、これからどうするんだ?」

「予定通り森の中で再び魔石の馬車を襲う。キングに準備をさせろ。」

「しかし、本当に森を通るんっすか?いくら森が安全になったからって森から運ぶなんてわからないっスよ。」

「それに関しては別の方から手は回してある、それで今回の作戦の担当なんだが……」

「じゃあ、また俺が――」

「いや、今回はパラマ、ランファに行ってもらう。」

「え?私達。」


 アルビンを差し置いての指名に二人は驚きを見せる。


「で、でも私たちそこまで強くないんだけど」

「今回はあくまで事故を装う、だからお前らが直接手をかけることはない。お前らにはへの指示役と作戦が成功するかを見届けてしてもらいたい。ビビアンに伝える生き証人も確保しておかないといけないからな。」

「……わかりました。」

「あの、ちなみにあの子は……」


 ランファが心配そうな目でこちらを見てくる、恐らく聞きたいのはガイヤの事だろう。


「ガイヤに関してはさっきの件で話をしなければならないから今回は外す、安心しろ、悪いようにはしない。」


 そう言って話を切ると、俺はそれぞれに次の攻撃指示する。全員が皆次の動きのため部屋から出ていった。


「話は聞いてた通りだ。どうだ、これでいけるか?」


 俺は誰もいないはずのこの場所でいる前提で語り掛ける。

 すると、部屋の扉の前にピエロの格好をした男が現れる。


「ええ、十分です。ではビビアンが森を通って魔石を運ばせるように誘導しておきましょう。」


 相変わらず奇妙な奴だ。


 キヒヒと独特な笑い声をあげニタニタと笑うピエロの格好をした男。

 名はジャッカルと言いメーテルと同じくビビアンの参謀として仕えている道化師だ。

 メーテルを通して俺の存在を知り、無条件で協力を申し出てきた謎が多い男だ


「それで、盗賊ギルドの方はどうでしたか?」

「ああ、お前に聞いていた通りだった。奴らは一枚岩ではない。」



 東部地方で活動する五大盗賊ギルド、だがこの街に住み着いてから十年以上経ち組織もいろいろと代わってきている。

 中でも『影無き蛇』と『ブラッディラビット』は頭が代わっている事もあって崩すならこの辺りだろう。


「キヒヒ、少しは信用していただけたようで。」

「ああ、それでお前は何が望みだ?」


「キヒヒ、私はしがいない道化。ですが時には観客として楽しみたくもあるのです、だから楽しませてくれればそれで充分……ですが。もし宜しければ私の主人に是非お会いしてもらいたいです。

 あなたの事をお伝えしたところ大変興味を持っていられたようなので。」


 主人……もちろんビビアンではないだろう、という事は別に主人がいるという事か。


「いいだろう、計画が終わった後に

「それは、きっと主人にいい知らせができそうです。では、あなた方がこれからどうするのかを楽しみにお待ちしております」


 そう言い残しジャッカルは奇妙な笑い声とと共に宙返りをするとまるで手品を見ているかのようにその場から姿を消した。

 

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