第63話 無能の戦い方
アルビンに向けて剣を構えると、向こうはその場から動くことなくこちらが向かって来るのを待ち構えている。
ただ剣の構えが先程までと違い、基本的な中段の構えから剣先を地面に向けた下段の形に変わっている。
恐らく向こうも勝負に出るつもりだろう。
そのことも踏まえながら、俺は一直線にアルビンへと突っ込んでいく。
するとそれに合わせてアルビンが息を吐きながらゆっくり唸りをあげ始めると、アルビンの持つ剣に光りが集まり始め、徐々に巨大化していく。
どういう技かはわからないが、どんなものであれまともに受ければただでは済まないのは確かだろう。
だからと言って止まる気も後退するつもりもない、ならば躱してくぐり抜けるしかない。
まだそれなりに距離はあったが射程圏内に入ったのかアルビンの手が動くと、俺もそれに合わせて上へと高く跳ね上がった。
「円絶刃!」
その瞬間、アルビンはそのまま自らを軸に巨大化した剣で弧を描くと、俺のいた場所全域に刃が空を切った。
その速度は今までのどの攻撃よりも速く、剣の風圧により周囲で見ていた奴隷たちが吹き飛ばされていた。
……直感で思わず上に跳んでみたが、もし少しでも遅れていたら、上以外に避けていたら、今頃は綺麗に真っ二つになっていただろう。
まだ
俺はそのまま上空から剣を大きく振り上げるとアルビンに向かって落下していく。
アルビンはそれを剣で防ぎにかかる。
きっとこいつは俺が落下の勢いを乗せて剣を振り下ろすと疑わないだろう。
……この世界の奴らは、魔法やスキルと言うものに慣れきっている節がある。
金さえ払えば誰でも買える武器、訓練すれば使える魔法、そしてそれらに付与され力となるスキル。
だからこいつらの戦い方はすべて、それに合わせたスタイルになっている。
だからこそ、それらを使わない戦いに慣れていない、使えない無能の人間の戦いかたを知らない。
俺は振り上げた剣で斬りかかるふりをしてそのままアルビンに目がけて投げつけた。
「な⁉」
不意を突かれたアルビンだがすぐに剣で俺の投げた剣を弾く。
しかし、そちらに眼を向けてくれたおかげで俺はその隙に懐に飛び込むと、そのままアルビンの溝落ちに肘を入れる。
「っ……⁉」
アルビンの呼吸と動きが一瞬止まる、そして更にその隙をついて剣を持っているアルビンの手首を掴むと、がっちりと固定して抑え込んだ。
「あ、てめぇ……クソ、放せ!」
俺の手を振り解こうと必死の抵抗を見せるが、力比べならこちらが負ける理由はない、俺は暴れるアルビンから手を放さず押さえ続けると、向こうが自分の方に引いたタイミングでその勢いに合わせて眉間目掛けて頭突きをかます。
「うぐっ」
アルビンが怯み抵抗が弱まると、そのまま剣を奪い取り遠くへ投げ捨てる。
「しまった」
「さて、反撃開始だ。」
俺は掴んでいる手はそのままでもう片方の手でアルビンの顎を殴る。
その勢いで吹っ飛びそうになったアルビンを掴んで、もう片方の手で引っ張りつなぎ止めると、更に続けて顔面を殴りつける。
「正直逃げてばかりでずっとイライラしてたんだ、その分の借りも返させてもらうぜ。」
今までの鬱憤を晴らすようにアルビンをサンドバックのようにひたすら殴り続ける。
剣さえ無くせばこっちのもんだ、あとはこいつがくたばるまで殴り続けるだけだ。
しかしそう思った矢先、俺の脇腹に突如ハンマーで殴られたような強い衝撃が襲う。
気がつけば俺の脇腹にもアルビンの拳が入っていた。
「へっ、へへ、剣がなければ戦えないと思ったか?残念だったな、こういう時のために体術も少しばかりか習得してるんだよ。」
ダメージを受けていた分、勢いこそあまりついてはいなかったが、マナのこもった拳での一撃は俺の拳よりも遥かに威力があり今ので肋が何本かやられたようだ。
……まあ、それだけだけどな。
俺はそのまま気にせず再びアルビンの顎に拳を振り上げる。
するとアルビンも殴り返してくる。
「剣、取りに行きたきゃ行けよ」
「ハッ、必要ねえよ、てめえと同じ素手で勝負してやるよ」
「いいぜ、なら殴り合いと行こうじゃねえか!」
さあここからは、喧嘩の時間だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます