第61話 強者

「これでいいのか?」

「はい、それで契約は解除されると思います。」


 俺は袋に入れておいた奴隷達全員分の契約書を用意すると、マリスの指示に従いながら解除の手続きを行う。  

 解除方法は契約書に書かれている奴隷の刻印を塗りつぶし、最後に火で焼くことで魔法の効果が消滅するというものだった。


 一応火をつける際は燃え移りに備えて水も用意しておいたが、火を掛けると契約書は不自然なほどにあっという間に燃え上がると瞬く間に灰になった。

 どういう原理なのかはわからないが、これも魔法によるものだからと言われればすべて片付く世界だから仕方ない。

 

 そして契約書が燃え尽きたのに合わせて奴隷達についていた首輪も一瞬の火花を散らすと焼き切れて床にポトリと落ちた。

 

「これでお前らは自由だ、あとは好きにするといい」

「あ、ああ……」


 あまりにもあっさり終わったからか奴隷たちは戸惑った状態でその場で立ち尽くしている

 まあ、これで約束は果たしたしこれ以上は俺の知るところじゃない。

 騒ぐも立ち尽くすも好きにすればいい。


 俺は解除したのを確認すると、教会の外へ出る。

 教会の周囲は建設の時に整備されたのか、森の中の立地ながら木々がなく広々としている。

 視界も広く、邪魔な障害物もない。まさに戦うのに持って来いの場所で、そこには既に首輪が外れたアルビンが鞘に入れた剣で肩を叩きながら待ち構えていた。


「首輪はしっかり外れたようだな。」

「ああ、つけていた時の感触が未だ残っているがな。」


 そう言ってアルビンは首輪が付いていた部分に擦る。


「まあいいさ、ならとっとと始めようぜ。ギャラリーもいるみたいだしな。」


 アルビンが俺の後ろを見ながらそう言うと、丁度教会の中から出てきたマリスやエッジ達の他、解放した奴隷達も俺たちの周囲に集まり出し観戦し始める。


「余興扱いか」

「見られるのが嫌なら追い払うか?」

「いや、邪魔さえしなければ問題はない。」

「そうか。」


 アルビンが鞘から剣を取り出すと、鞘をその場に投げ捨てる。


「ルールはどちらかが負けを認めるか戦闘不能になるまでだ、ハンデとしてこっちはスキルは使わねえ。」

「ルールはそれでいい、だがそのハンデはなしだ。」

「なに?」

「この決闘タイマンはお前が俺を試すのと同様、俺もお前の実力を測るためでもある。手加減なんてしてたら不採用だ。」

「へえ……死んでも知らねえぞ?」

「死んだらお互いご縁がなかったってことだ。」


 そう言うとお互いにやりと笑う。


 さて、ならばこちらも準備するか。

 こいつは今までの奴らとはわけが違うからな。

 今まではこの見た目や奇襲もあって、どんな相手にも油断というものがあったが、今回の戦いではそれが一切ない。そして何よりこいつは今まで相手にしてきた奴らよりもはるかに強い。


 持っている剣は仕事用に俺が与えた安物だが、それでも凶器だ、一度でも攻撃をまともに受ければ俺の五体なんて簡単に持っていかれるだろう。

 つまり、俺は奴の攻撃を一度も受けずに勝たなければならない。


 俺は一度息を大きく吸うとゆっくり吐き集中力を高める。

 そして着ていた服をその場で脱ぎ捨てると背後のギャラリーが少々ざわつき始める。


「へぇ、防具をつけるどころか服まで脱ぎ捨てるとは。」

「防具は無能の俺には足枷になるからな、防御を固めるよりは身軽になって機動力を得た方がいい。」


 まあ、服の重さなんて気休め程度だが、肌が露出することで危機感が増え集中力が上がる。


 そして次に袋から片手剣を一つ取り出し、両手で構える。

 スキルのない俺にとってはそこそこの重さだが、スキルがなくても使えないわけではない。

 全ては物の使いようだ。


「さて、準備が整ったところで始めようか。」

「ああ、精々楽しませてくれよな」

「よし……じゃあ行くぞ!」


 その言葉を合図に戦いが始まる。

 まずは先手必勝と俺がすぐさまアルビン目掛けて突撃するとそのまま勢いよく剣を振り下ろす。


「うお、速え⁉」


 などと言いながらもアルビンは簡単に剣を受け止めると、弾き返す。

 俺もそのまま距離を取る。


「無能はステータスが高いとは聞いていたが、ここまでとは正直驚いたぜ。だがやはりスキルがない分、振りが鈍かったな。まあそれでも低スキルの奴らよりは動けているぜ」


 などと、俺の攻撃を寸評してくるのは少し癪だがまあ今はそれでいい。


「なら次はこっちから行くぜ」


 そう宣言通りにアルビンがこちらに向かって斬りかかる。

 そしてその速さに俺はスキルの恐ろしさを改めて実感させられる、俺とは比べ物にならないほど速く剣で防ぐ余裕すらままならず、俺は紙一重でそれを避ける。


「よし、しっかり避けれてるな。ならどんどん行くぜ」


 アルビンが続けて斬り掛かってくると俺もそれをひたすら避ける。


 どうにか反撃もしないといけないが、そんなことを考える余裕などまるでないほどアルビンの剣の速さは異常だった。以前戦ったカルロとかいう奴は動きを読んで避けていたがこいつの剣ではそんな芸当はできるわけはなく、正直自分でも何故避けられているのかが不思議なほどだ。

 恐らく今までの経験による危機感と本能も合わさってやっと避けれているのだろう。


 これが本当の強者という奴か。

 俺が今後ノイマンやあらゆる立場の人間のクビを狙う奴らにはきっとこいつ以上にヤバい連中とも腐るほど対峙することになるのだろうな。


……面白い、ならば俺はその状況で使えるありとあらゆるものを使って喰らいついてやる

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