第55話 奴隷②

奴隷市場の様子は前回と来た時より日が経っている分、店に並ぶ奴隷たちも変わっていた。

 といってもやはり大半が年老いた老人や男ばかり、まあ小さな街の奴隷市場なんてこんなもんだろう。

 だが、それでも中には比較的に若くて売れ残っている奴らもいる。

 そしてそいつらは同じ檻に敷き詰められていて、その檻の表記には犯罪者奴隷のタグがつけられてある。


「奴隷をお探しですかな?」


 客が少ないこともあってここを仕切る奴隷商人がこちらに声をかけてくる。


「生憎もう目ぼしい者は残っていませんが、老人でも荷物運びくらいなら十分できますよ。それに質を求めないのであれば犯罪者奴隷なども扱っていますが――。」

「犯罪者奴隷は多いのか?」

「ええ、最近カルタス伯爵により大量に売られてきましてね、これでもだいぶ売れた方ですが今回は数が多いんでね、まだまだ残っておりますよ。」


 そう言って、商人は先ほど遠目で見ていた犯罪者奴隷の檻の方を示す。

 俺は商人付き添われ、奴隷たちの檻に近づき改めて奴隷たちを見る、数はざっと見て五十人くらいと言ったところか。


 ……選ぶのも面倒だな。


「大体が賊で捕まった者ばかりですが、中には何人か別の犯罪者たちもいたりするので探せば掘り出し物もいるかもしれません。」

「そうか、ならここにいる犯罪者奴隷を全部買おう。」

「そうですか、全部……ぜ、全部ですか⁉︎」

「ああ、そっちが良ければだが。」

「も、勿論です!是非ともお願いします!いやーまさかこの数の犯罪者奴隷が売り切れるとは!」


 そう言うと奴隷商人は上機嫌で契約書を取りに行くと、気が変わらないうちにと言わんばかりに急かすように契約の手続きを進めて来た。

 そして、購入した奴隷、計四十四名を整列させると、奴隷達と顔合わせをする。


「あ、貴様は!あの女騎士と一緒にいた青髪のガキ⁉」


 すると早々に俺の事を見知った賊の男が声を上げる。


「俺を覚えているのか。」

「当たり前だ!青い髪に赤い眼なんて特徴的な見た目、いやでも忘れるかよ、俺たちが奴隷になったのも全部貴様達のせいだからな!」

「それは自業自得って奴だ、お前らが賊として生きる事を否定するつもりはないが、こうなる事の覚悟くらいは持っておけ、お前達がやってることはそういう事だ。」


 そう言うと、グッと睨むも何も言わず男は小さく舌打ちをしてそっぽ向く。

 しかしそうか、偽装で髪色を変えていたがこの眼とこの色の髪は逆に目立つのか、少し考えないといけないな。


「で、こんなに俺たちを買って一体俺達に何をやらせようって言うんだ?」

「お前らの得意な荒事だ、黙って従えばいい。もし、上手く行けば見返りとしてお前らを奴隷という立場から解放してやる。」

「なに⁉」

「ほ、本当か?」


 その言葉に反応しあちこちから言葉が帰ってくる。


「お前らがしっかり仕事をこなせばだがな。」

「でも、俺たちは奴隷だぞ?この首輪の契約によって俺達は嫌でもお前に従わなければならねえ、なぜそんなことをする必要がある?」


 奴隷の一人が自らに付けられた首輪を指して尋ねてくる。

 まあ、その疑問は当然だろう、俺の時は付いてなかったが、基本この首輪によって奴隷は管理されている。少しでも抵抗すれば、首輪にかかった収縮魔法によって、首輪は縮まり首が締まるようになっているようだ。だからわざわざ報酬なんて出す必要はないし怪しまれてもおかしくはない。


 まあ、理由は色々あるんだが、いちいち説明するのは面倒だな。


「ヘッ、そんなことどうだっていいじゃねえか?解放してくれるんならな。」


 そう思っていところで、少し後ろから声が上がる。

 声の主は列の中心にあたりにいた頬の傷が目立つ若い男だった。

 年齢的には俺より少し年上くらいか?なかなか好戦的ないい目をしている。

 前列に固まっている、賊達から誰だ?と言う声がちらほら聞こえてくるところを見ると、賊というわけではなさそうだ。

 まあさっきの話でも賊以外の犯罪者奴隷もいるとのことだったので、特に問題はない。


「それよりも今の話本当だろうな?」

「ああ、二言はねぇ、事が上手くいけば解放してやる。」

「そこもだが、それだけじゃねぇ。その仕事が荒事ってとこだ、それはつまり、暴れられるって事だよな?」




 男が目をギラつかせて念入りに聞いてくる。




「ああ、そういう事になるな。」

「へ、暴れられてしかも奴隷からも解放されるなんて、まさに願ったり叶ったりじゃねえか!」


 なるほど、なかなか血の気が多いみたいだな。

 こういう若者は嫌いじゃねぇ。

 その後、その男が周りにも共感を求めるが、仲間でもないこともあってか、あまり共感は得られてないようだ。

 だが男の勢いに圧倒されたのか、賊達も流される様にそのまま黙り込んだ。

 おかげでスムーズに話はまとまったが、俺はそれをきっかけにふとここにいる奴隷達に目を向ける。

 数の多い賊達が目立っていたが、後ろの方には賊以外の奴隷も少なからずいて、なにやら事情がありそうな人物や、中には罪を犯すことなどできないようなボロボロな状態の奴隷もいた。、


 犯罪者仕立て上げられ奴隷に墜とされた人間もいると聞くのでその類と言えば納得がいく。


 ……しかし、その中に一人、そう結論付けるのは難しい人物がいた。


 それは、最後尾で俺たちの会話を微笑ましく見守っていた女性だ。

 エメラルドを彷彿させるような緑色の髪に後ろから鱗のしっぽが見えており亜人だという事はわかるが、その容姿は人間に近く、前世を含めいろんな女を知る俺から見てもかなり綺麗な方に部類する。


 これほどの女性が奴隷であれば犯罪者であっても普通はすぐに買われてもなってもおかしくはない。

 しかし、女性は売れ残るどころか、この場にいる賊たちからもまるで相手にされていない様子だった。

見えていないのか、それとも亜人だからなのかはわからないが、間違いなく普通ではないのは確かだ。


「……掘り出し物が混じっていてもおかしくはない……か」


 それと同時に劇物も混じってそうだな

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