第54話 奴隷①
――おかしい……
ガバスはここ最近のマリスの様子にどこか違和感を感じていた。
ブリットと立てた計画は全て順調そのものだった、ガバスとブリットの工作により日に日に領民のマリスに対する不満は増していき、いつ爆発してもおかしくない状況であった。
屋敷の人間もこちら側につき、あとはタイミングを見計らってマリスの圧政を理由に謀反を起こし、自分の領主襲名を完成させるだけ、それは時間の問題と考えていた。
しかし、ここのところのマリスは何かがおかしかった。
以前は領主として振る舞おうと何かと焦りや動揺が見えた様子だったが、今は全てにおいて落ち着き冷静に対処している。
この多忙に慣れ始めたと言えばそれまでなのかもしれないが、どうもそう言う風にも見えなかった。
マリスは、父親であるコレアほど有能でもないし人望もない、しかしコレアと違い甘さと言うものはなく、そしてコレアと同様の民を思う気持ちは持っている。
少し真面目過ぎるところがある為、勘違いもされやすいが領民のに対しては人一倍気にかけていた。
だからこそ、誰も切り捨てられずに人手の足りない状況でもなんとかこの広い領土を統治しようと毎日一人で戦っていた。
だが、今は割り切ったように一つ一つに対処している。
そのおかげで未だ領地の状況に気づいていないようだが……
――本当なら、疲弊しきったところで圧政を公表し畳みかける予定だったが……
「ふむ……」
この現状をブリットに相談するべきか考える。
しかし、ガバスはまだグランデルの殺害が実行できておらず、これ以上印象を悪くしたくない。
ブリットは爵位では自分よりも下であるが、知恵が周りそして後ろ盾があることもわかっている。
下手に機嫌を損ねて切り捨てられることだけは避けなければならない。
「……今はまだその時じゃないな」
一人でそう結論付けたガバスは、もう少し様子をみることにした。
――
マリスと手を組み、グランデルから活動資金を手に入れ着々と準備が進む中、次に俺は闇市があるロスタルへと来ていた。
と言っても闇市に行くのが目的ではない、今回の目的はこの街での人手探しだ。
今俺達に必要なのは何と言っても人手だ、俺とマリスにエッジ達で七人、更にそのうち戦えるのは俺とエッジの二人と何をするにしても数が足りない。
マリスの状況から察するに屋敷にも頼れる人間はもういないだろう。恐らく向こう側についたか、あるいは排除されたか……
ならばどうするか?答えは簡単だ、いないなら集めるだけだ。
本来なら街で冒険者でも募れればいいのだが、現状を考えるにそれは難しい。
今、恐らく街には向こうの息のかかった人間があちこちに存在しているだろう。
流石にどの人物がそうなのかなどはわからないが、試しにギルド近くでグランデルを路地裏で見かけたなどとわざとらしく話したところ、その日のうちに路地裏に怪しげな格好の男達が動き回っていた。
そんな状況じゃ、下手にマリスの名前は出せないし、たとえ名前を出さなかったとしても冒険者を大人数集めるとなると自然と目立ってしまう。
他の町で冒険者を探すと言う手段もあるが、ギルドは各拠点にそれぞれ支部があると言っても結局ところは一つに繋がっている。近辺の街同士なら情報の共有もありえない話ではない。
特に今回の標的であるブリットと言う貴族は、それなりに頭の切れる男のようだからな。
コレアを殺害した時の話やグランデルから聞いた話からするにブリットは根回しが非常に早い。
更に最近、街に偵察に向かわせたエッジから定期連絡が入ったが、なかなか面白い話も聞けた。
それはブリットの統治する街ラスタはとても治安が良いと言うことだった。
街の治安はよく、税も高くないし、問題があればすぐに対処してくれると住民達からの評判はいいらしい。
話だけを聞けばいい領主だが、ブリットが裏で賊や闇商人を使って人を攫い、貴族たちに向けた違法奴隷オークションを開いていることはグランデルから聞いている。
つまりだ、そのラスタの街全てがブリットの裏の仕事を隠すための隠れ蓑になっている。
こういう輩は情報の重要性をよく知っている、そいつが、マリスの叔父とやらに入れ知恵してるとなると常に警戒しておかねばならない。動くなら常に慎重にだ。
正攻法で戦力を集めることは難しい、そこで考え付いたのがロスタルの奴隷市場で売られている、奴隷の存在だった。
奴隷は俺にとっては馴染み深い存在だが、自分が元奴隷だからと言ってその制度を否定するような考えはこれっぽっちも持ち合わせていない。
ただ全ての奴隷が戦力になるとは限らない。
奴隷はその日、その場所によって売っている人間が違うし売られているのも大体が貧困により売られた村人ばかりで戦闘経験のある者はいない。
中には戦える者もいるのだろうが、それは極稀で寧ろいない方が普通と考えた方がいいだろう。
だが俺は今なら戦える奴隷が多数いると考えていた、それが犯罪者奴隷だ。
犯罪者にも色々いるだろうが俺は、ここ最近おせっかいな女騎士の手により数多くの賊が捕えられている事を知っている。
捕えた場所の領主はカルタス領土で現在取り仕切っているのがマリスではなく叔父のガバスの方であるなら奴隷にして金に換えてる方可能性が高いだろう。
俺はロスタルに着くと早速奴隷市場へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます