第41話 寄り道

 アリアと一緒にリンドンの町を後にしてから二週間が経とうとしていた。

 俺達は今、人里から少し離れた場所にある山の中にいた。


 リンドンから俺が拠点にしている町、レーベルまでは街道を通るだけで、三日もあれば着く距離だ。

 実際に俺は三日で来ている。

 それが二週間も経っているのにも関わらず、何故未だに町に着かずに道から外れた山の中にいるのか?

 それはアリアが言った一言から始まった。


――


「あの、少し寄り道していいですか?」

「ん?」


 リンドンを出てから程なくして、行き先とは少し違う方向に目を向けたアリアが立ち止まる。


「実はこの先に村があるんですけど、そこに今回の誘拐された子供達が何人かいるので様子を見に立ち寄りたいのですがどうでしょうか?」


 アリアが少し申し訳なさそうな顔で聞いてくる。


「ああ、いいんじゃないか?」


 まあ、急ぎ帰るようもないしな、少しばかりの寄り道もいいかもしれない。

 提案に頷くとアリアは嬉しそうに、お礼を言いながら頭を下げる。

 そして俺たちは少し方向を変えて寄り道をすることになった。


……だが、アリアの寄り道はこれだけで終わらなかった。


――立ち寄った村にて


「え⁉村の周辺でウルフの集団を見かけた?ティアさん、すみませんがもう少し時間をいただけませんか?村の危険をこのまま見過ごすわけにはいきませんので」

「ああ。」



――次に村に滞在中の商人に出会うと――


「え?急ぎ町に戻らないといけないのに護衛の方が怪我をして動けなくて困っている?ティアさん、少し遠回りになるんですけど、この方を目的の町まで送って差し上げて宜しいでしょうか?」

「……ああ。」


――そして、その町では――


「え⁉この町で指名手配犯を見かけた?ティアさん、すみませんが――」

「……好きにしろ。」


 他にもあれよこれよで、寄り道と言う名の人助けをしてレーベルからはどんどん遠ざかっていき、現在ようやく軌道修正してレーベルの町が見えてきたところで、今度は途中に出会った旅人から付近の山で大人数の山賊がいるとの情報を聞き山賊退治に来ていた。


「我が正義の刃を受けよ!」

「ぎゃあ!」


 今、アリアは四十人もの大所帯の山賊相手に一人、獅子奮迅の活躍を見せている。

 俺も助けが必要そうなら手を貸すつもりだったが、必要性は皆無なのでただ戦いの様子を見学している。


「クソ!何やってんだ!相手はたかが女一人だぞ」

「しかし、お頭!この女、強過ぎますぜ!」


 確かにアリアは強い。

 集団相手にも物怖じせず、素早い動きで撹乱全て一撃で倒している。

 俺だったらこうはいかないだろうな。


「おい!あいつだ!あの連れの男を人質にするんだ!」

「ん?」


 頭らしき男に命令をされた男がこちらに向かって走ってくる。

そして背後に回ると、首に腕を回し剣を突きつけてきた。


「おい!女!武器を捨てろ!さもないとこいつがどうなっても――」

「気安く触るな」

「ぎやあぁぁぁぁ!」


 男の腕に短剣を容赦なく突き刺す、そしてその拍子に手を放したところを地面へ投げ飛ばす。


「クソ、全員退却だぁ!」

「逃、しま、せん!」


 逃げようとしたが最後、背中を向けた盗賊達はアリアの剣によって断末魔と共に次々と倒れていき、四十人いた盗賊達は瞬く間に全滅した。


――


「ティアさん、先程はすみませんでした。」

「なんのことだ?」


 盗賊退治からの帰り道、アリアが謝罪してくる。


「商人であるあなたを戦闘に巻き込んでしまいました。これは私の不手際です。」

「気にするな、報酬を全部こちらに回してもらえてるんだ、少しくらいは俺も働かないとな。」


 アリアが人助けをしてきた中で幾つか報酬がもらえたものがあり、それは全て俺が受け取っていた。

なので、文句は言うつもりはない。


「そう言ってもらえるとありがたいです……それにしてもティアさんは凄いですね。その……魔法もスキルも使えないのに魔物や盗賊相手に一歩も退かず立ち向かって……」


 アリアは無能という言葉を濁しながら言う。

 彼女には旅の道中に無能であることは話しており、理解こそ得られてるが無能という言葉には抵抗があるらしくこの話題をするときは毎回言葉を選んでいる。


「俺にとってはこれが普通だからな、この状態がハンデだと思ったことは一度もない」


 元々魔法もスキルもない世界にいたからな、本来ならあるはずだったプラス要素が無くなっただけだ。ゼロであってもマイナスではない。


「それが凄いんですよ、世間ではどんなに弱い者でも魔法もスキルがあるのは当たり前なのですから。それに、私だってスキルの恩恵がなければさっきの様に盗賊相手に立ち振る舞えなかったと思います。」

「お前は俺と違って魔法もスキルも使えるんだ、わざわざ使えないことを考える必要もないだろう。」


 これ以上続けるとずっと持ち上げられそうだったので、そう言うと俺は強引に話を切る。

そして目の前を見るとようやくレーベルの町が見え、アリアとの旅も終わりを迎えようとしていた。


――


「もう行くのか?」


 町に着き、捕らえた盗賊たちをギルドに引きわたすと、アリアはすぐにこの街を発つことを告げた。


「ええ、少し遠回りし過ぎてしまいまして先輩は先戻っちゃったみたいなので、私もすぐに追いかけないといけないので」


 まあ、そうだろうな。

 本来三日で着くところを二週間かかってたんだからな。

 一応魔道具で連絡は取り合っていたようだが、待つにしても限度がある。


「ティアさん、ここまで私のわがままに付き合ってくださって有り難うございました。」

「気にするな、こちらも随分と稼がせてもらったしな。」


 今までの報酬に道中手に入れた素材、そして今回の盗賊捕縛の報酬を合わせると中々いい金額になっている。


「フフッ、さすが商人さん、逞しいですね。……短い期間でしたが、ティアさんと一緒に旅ができて楽しかったです。」

「ああ、俺もに賑やかな旅ができてよかった。」

「ティアさん……」


 これは建前はなく本心だ、アリアとの旅は忙しなく賑やかで、レクター一家と旅をしていた頃を思い出させた。


「あの、ティアさん。もし宜しければ――」


アリアは何か言おうとしたするが、途中で何を思ったのか首を小さく横に振ると言葉を飲み込んだ。


「いえ、何でもありません。では、またどこかでお会いしましょう。」

「ああ……」


 出来れば敵対していないことを願うばかりだ。

 アリアは去り際に、振り返り大きく手を振ったあと、町の出口の方へと消えていった。


 ……さて、俺も拠点に戻るとしよう。


 そして、久々に戻った我が拠点は……跡形もなく灰になっていた。







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