第42話 再犯?
「俺の家がない。」
目の前の現状を見て思わず言葉を漏らす。
およそ二週間ぶりとなる拠点へ帰還するも、そこには焼けた家の後だけが残り、俺の帰る場所は無くなっていた。
追い出した奴らが仕返しにやったのか、それともエッジたちが何かやらかしたのか、可能性を考えればキリがない。
……ここで突っ立ってても仕方ない、まずはなにか知っているであろう
今の時間ならいつもはもう依頼を終えて帰っている頃だが、帰る場所はこれだしな。
まあ金はあるだろうから以前の様に寝るところに困る事はないだろう、奴らは俺と違って指名手配もされてないしな。
代わりの宿を取ったか、もしかしたら俺みたいに遠出の依頼に出てる可能性だってある。
とりあえずもう一度ギルドに行ってみるか。
今のところエッジ達の行方を知ってそうな奴らはそこしか知らないしな。
それに仮にエッジたちがいなかったとしても、ギルドならこの火事の事も知っているかもしれない。
そう考えると俺はエッジたちを探しに再び冒険者ギルドへと向かった。
日が暮れて、家の中に明かりが灯り始めた頃、俺は再びギルドを訪れる。
このギルドには酒場はついていないのでピークを過ぎたこの時間帯は
そのためすんなりと受付のところまで行くと、受付嬢が俺に気づいて笑顔で応対する。
「あなたは先ほどの……どうかなさいました?」
「この町で冒険者をしているエッジという奴を探しているんだが」
「エッジさんですか?この町の冒険者でエッジというのは恐らく『つるはしの旅団』のリーダーエッジさんの事でしょうか。」
『
「ああ、恐らくそいつの事だ、依頼からもう帰ってきてるか?」
「いえ、と言うよりつるはしの旅団の方々はここ数日こちらにはいらしていませんね。」
「なに?」
ギルドに来ていない?……
「もしかしてこの町を出たのか?」
元々この町にいたのは行く当てがない中でここにマーカスの家があると理由だけだった、冒険者で食っていけるようになり住む場所が無くなった以上この町にとどまる理由もないしな。
「いえ、そう言った話は聞いていませんね。」
「そうか」
まあ、そう言った話になれば少なからずとも耳に入るか。
「ならやつらの泊まっている宿とかはわかるか?」
「それもわかりません、ただエッジさんの居場所ならわかりますよ?」
「なに?」
エッジ限定だと?
「どこだ?」
「留置所です。」
……留置所だ?
「あいつ何をやらかしたんだ?」
「えっと、恐らく罪状は窃盗になると思います。」
エッジの奴が盗み……いや、おかしくはないか、元々山賊をやっていた男だ。人間、そんなすぐに変われるものでもない。
「所詮は山賊あがり、あいつに真っ当な仕事は無理だったか……」
「いえ、そんな事はありませんよ」
俺の呟いた言葉に対し、受付嬢がきっぱりとした口調で否定した。
「エッジさんは確かに人相が悪く、横暴なところもありましたが、仲間からは慕われていましたし、他の冒険者の方とも交流もあるくらいの関係は築けていたみたいでした。ギルドとしてもつるはしの旅団の皆さんには、報酬が少なく人気のないクエストをコツコツこなしてもらっていたので、凄く助けていただいて評判は良かったんです。」
受付嬢がエッジを貶した俺に対し、エッジの事を事細かく説明してくる。
それだけで彼女のエッジに対する評価が伺える。
「そうか、そいつは何も知らないで済まなかったな。」
「あ、いえ、こちらこそで出過ぎた事を言ってすみません。」
今の受付嬢の話を聞く限りエッジは真っ当に働いているらしいが、なら、あいつは何で盗みなんて働いたんだ?あいつの立場上、目立つ行為などしたくないはずだ。
というより、あいつは何を盗んだんだ?
その事について受付嬢に尋ねてみる、すると返ってきたのは意外な答えだった。
「それは……奴隷です。」
ギルドの受付で聞いた話はこうだった。
今から数日前の夜、エッジはこの町ので活動しているパーティー『アイアンヘッド』の滞在している宿に押し入り奴隷を攫ったらしい。
元々相手側も評判の良いパーティーではなかったが、今回に関しては向こうに非はなく完全にエッジが悪いとのことだ。
幸い奴隷に傷一つついてないまま持ち主に戻った事と、マーカス達が有り金全部はたいて支払った金によりエッジは比較的軽い罪で済んだらしいがもうしばらくは拘束される様だ。
しかし、誘拐ではなく窃盗ねえ……
おかげで罪は少し軽くなったようだが何とも腑に落ちねえな。
ま、そこはいいか。それよりも何故エッジは奴隷なんて攫おうとしたんだ?
金目のものならまだしも奴隷なんて態々犯罪を冒してまでする事でもないだろ?そこんところも本人に聞いた方が良さそうだな。
俺はエッジの拘束されている留置所に向かう事にした。
――
留置所に着くと、俺は早速エッジへの面会を申し出る。
しかし、この世界では罪人との面会は特定の相手以外は行われていないようだった。
仕方がないので俺は警備をする兵士に少し金をもたせて案内してもらう。
こういうところに関しては異世界共通のようだ。
兵士に案内された、牢屋に行くとそこには狭い部屋の中で座り込むエッジの姿があった。
「どうだ?久々の鉄格子の中は?」
俺の声に俯いていたエッジが顔を上げる。
「……ああ、お前か。帰って来てたのか。」
「ああ、だが帰ってきたら家が燃えてなくなってたんでな、話を聞きにきた。」
そう伝えると、エッジが申し訳なさそうに顔を顰め頭を下げる。
「済まねえ、全部俺のせいだ……」
「話はある程度聞いている。火を放ったのはお前が攫った奴隷のとこの連中か?」
「ああ、この前面会に来たマーカスから話じゃあの野郎、俺が捕まった後にわざわざ腹いせに家に火を放ちやがったんだ!幸い全員無事だったらしいがマーカス達にも悪い事をした。」
エッジが拳を握り悔しさを滲ませる。
「確かそいつらは『アイアンヘッド』だったか?」
「ああ、そいつらだ。」
アイアンヘッドか、
「で?お前はなんで奴隷を攫おうとしたんだ?」
「……」
「自分の立場、わかってんだろ?もし捕まって万が一お前の素性が脱走奴隷と知られたら問答無用で処刑だぞ?」
俺の質問に対しエッジはダンマリを決め込む。
「……まあ、いいさ。テメェの人生だからな、聞いたとこで俺には関係ないか。」
「……だったんだ」
「あ?」
エッジが小さく口を開く。
「その奴隷は、俺が売り飛ばした奴隷だったんだ」
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