第39話 聖剣使い

来た道を引き返し、俺はアリアと共に再び教会を訪れる。

中に入ってみると聖堂には神父の姿は見当たらなかった。


「神父様は奥の部屋でしょうか?」

「どうだろうな。」


 とりあえず近くにはいないようだ、俺は昨日調べた中央にある女神像へと向かう。


 天気の悪かった昨日と違い、ステンドグラスから陽の光を浴びている女神像は昨日よりも神々しく見える。

 俺は昨日と同じく女神像の床下付近を見る。


 すると、ちょうど女神像の左の床下部分に何やら重いものが引きずられたような跡が残っていた。


「え?ティアさん、何をしているのですか?」


 突然女神像を左に押し始めた俺にアリアが首を傾げているが無視して力いっぱい押してみる。

 強引に押せば動かせないこともないだろうがこの像自体も壊しかねない。

 恐らくどこかにこの像を動かせる仕掛けがあるはずだ。

 俺は押すことをやめると、次に奥にある神父の部屋へと向かった。


「あの、ティアさん。忘れ物を取りに来たんですよね?それならまず客室に向かうべきなのでは?」

「いや、そこにはない。そこは昨日のうちに調べた。」

「あ、そうなんですか?じゃあ、神父さんが預かってくださってるんでしょうか。」


 未だに忘れ物を取りにきたと疑わないのか……まあいい。

 部屋が見えるとそのまま勢いよく扉を開ける。すると、奥の机に座っていた神父がその音に驚きを見せる。


「あ、あなた達は先ほどの、一体どうなされたのですか?」

「どうやらティアさんが忘れ物をしたようなので取りに来たんです。」

「はて?忘れ物。そんなものはなかったと思いますが。」


 アリアと神父が会話してる間に部屋の中を観察する。

 部屋の中は家具や絵などが飾られていて特に変わったところはない。


「……見た限りはここにもなさそうだな。」

「ええ、客室から何か持ってきた物はありませんよ、なのであるとしたら客室に――」

「荒らすか。」

「……は?」


 そう言うと俺はまず目の前にある来客用の机を蹴り飛ばす。


「なあっ⁉」


 そして続けて一緒に並べられた椅子も蹴って場所を移動させる。


「ちょ、ちょっとティアさん、何やっているんですか⁉」


 突然の行動には流石のアリアも止めようとしてくるが、構わず言葉通り部屋中を荒らし始める。

 机や椅子の他、壁際に設置された家具や、飾られている絵画など部屋にある隠せそうな場所を全てを蹴って、剥がし、壊していく。

 だがどこにも仕掛けらしきものは見当たらない、そして残るは神父のいる机だけだ。


「き、貴様いい加減に――」


 俺は神父を睨み付ける。


「ひぃっ⁉」


 そのまま一歩一歩神父に近づき無言で圧力をかける。

 神父はビビっている様子はみせるが、その場を動こうとはしなかった。


「な、なんなんだ、貴様は……」

「そこだな」

「へ?」


 俺は神父を突き飛ばし神父の机の下を漁り始める。


「ティアさん、いい加減にしないと幾らあなたでも――」

「あった。」


 神父の座っていた場所の足下辺りにレバーのようなものを見つけそれを引く。

 すると部屋の外から何かが動く音がした。


「い、今の音は……」

「き、貴様、ふざけ――ぎゃあ!」


 起き上がろうとした神父を踏みつけ、気絶させる。


「こいつ、縛っといてくれ。」

「え?」

「こいつは人攫いの一味だ。」

「えぇ⁉」


 俺は未だに困惑をみせるアリアにそいつを任せて再び礼拝堂へと向かった。

 すると考えたいた通り、女神像が左に移動しており女神像があった場所の床には地下へと続く階段があり、俺はそのまま階段を降りて行き地下へと向かった。



 階段を降りていくとどうやらそこは地下牢だったらしく、進んだ先には懐かしの鉄格子が並んでいて、その中の一つの部屋に攫われたと思わしき泣きじゃくる子供達の姿があった。


「あん?何だテメェ……ガキが何で外に出てやがる。」


 その牢屋の見張りをしていた男が俺に気づき、近づいてくる。


「……ん?いや、ガキにしては少し大きいなあ。と言うことはジジイの言ってた商人のガキか。確か騎士団がいるから見逃すと言う話だったが、知らずに入ってきたのか?……まあいい、おい!野郎ども!獲物が来たぞ!」


 見張りの男が大声で叫ぶと牢屋の向かい側にある扉から屈強な男達がぞろぞろと出てくる。


「どうした?……何だガキじゃねえか、しかも男かよ。ガキ一匹で呼びつけるんじゃねえよ。」

「馬鹿言え、もし逃げられたらどうするんだ。この場所を知られたんだ、逃がすわけにはいかねえだろ?」

「まあ、それもそうだな。と言うわけだ兄ちゃん、悪いがこのまま帰すわけにはいかねえ。お前にはここのガキと一緒に俺達の商品になってもらうぜ。」


 リーダー格の男が剣を向けて脅してくる。


 ……めんどくせぇな。


 数はパッと見二十人いるかどうかで全員剣装備、この程度なら何度もやり合ってるが場所が悪いな。奥行きは広く横幅も十人は並べる広さ、そして何より天井が近く跳ぶ高さに制限がある。


 やり合うには少し不利な場所だが、仕方がない。

 とりあえず背後を取られないように動きながら――

 

 などと考えていた矢先、後ろから階段を駆け足で降りてくる足音が聞こえてくる。

 他に仲間がいたか?と一瞬考えたがすぐにそれは違うと気づく。

 そう言えば今回はこちらにも味方がいるんだったな。

 そして予想通り、階段を降りてきたのは白銀の防具を身に纏い、昨日とは違った凛々しい顔つきをみせるアリアが現れた。


「ティアさん、ご無事ですか⁉︎」


 そしてすぐに子供たちに気付く。


「この子達は!と言うことはやはりティアさんの言う通りここが……」

「クソっ、あの格好騎士団もいやがったのか。」

「待て、騎士団といっても女じゃねえか、どうせコネで入ったただの紛い物だろ?しかもなかなかの上玉だ、こりゃあ高く売れるぜ。」

「……そうですね、確かに私はコネと言っても過言ではないでしょう。私のいる第十一部隊の騎士団長は私の兄ですから。」


 そう言ってアリアが腰につけた剣を抜く、しかし剣には刃が付いていなかった。


「へへ、やっぱりな。」


 それを見て男たちはへらへらと笑う。だが、その笑みはすぐに消えていく。

 

「あれ?ちょっと待て、十一部隊って確か聖騎士団だよな?その騎士団の団長って確か――。」


 男達が何かに気づくと同時に、アリアの持つ剣が輝やきだす。


「ですが、私もそれに見合う努力はしてきたつもりです。」


するとその光が収縮していき、やがて剣の刃の形に収まっていく。

 

「神に授かりしこの力、民のためにいざ奮わん!聖剣士メンデス家長女、アリアハン・メンデス、行きます!」


 そう名乗るとアリアは男達に向かって駆け出していく。


 ……そこからはあっという間だった。

 光の剣を手に取ったアリアは相手に逃げる隙も与えず次々と斬っていき、二十人近くいた男達を瞬く間に再起不能にしていった。


「これが聖剣使い……」


 そして、敵対する可能性もある相手……。

 今まで戦ってきた相手とはまるで違う、その実力にただ圧倒されるだけだった。



――


 それから数時間が立ち、俺達はアリアの持つ道具で町の領主と連絡を取ると、直ぐに兵士たちがやってきて男達を捕えていった。

 一応商人で通ってる俺には特にすることはなく、俺はアリアに護衛をしてもらいながら町へと戻ることになった。


「ところでティアさんはどうして隠し部屋が分かったのですか?」


 帰り際にアリアが尋ねてくる。


「部屋にあったダクトから僅かだが子供のなく声が聞こえてな、少し気になって調べたら、女神像の床下に引きずった跡があったらから気になってたんだ。」

「そうだったんですか、凄い洞察力ですね。」


 まあ、あらかじめ人攫いの話を聞いていた事で教会を怪しんでいた事や、町で聞いた神父の風貌に若干の違いがあった事など他にも理由は色々あるんだが、そこら辺は話せないので伏せておく。


 それよりも、だ。

 俺はアリアの顔を真っすぐ見る。


「お前、どうするつもりだったんだ?」

「え?」

「今回運良く見つかったから良かったものの、もしかしたらお前の信じる心とやらで、子供達が売られていたのかも知られないんだぞ?」

「そ、それは……」


 と、続けるが返す言葉が見つからなかったのか、アリアは素直に謝罪をする。


「正義を名乗るのならまず疑え、もし間違っていれば誠心誠意謝れば済むことだ。」

「で、ですが――」

「確かに疑われるのはいいもんじゃない、時にはそれで人を傷つける事もあるだろう、だが同時に救われる人もいる、正義をなりわいとするなら人を救う覚悟と傷つける覚悟を身に付けることだな。」


 まあ、正義に反する俺が言えたことじゃないがな。


「救う覚悟と傷つける覚悟……」


 俺の言葉をどう受け止めたのかわからないが、アリアはそれ以降黙り込み、結局別れの時まで言葉を交わすことはなかった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る