第34話 情報収集
聖騎士団団員のレーグニックと手を組むことになってから数日、俺は今一人山道を歩いていた。
手を組んだからと言ってすぐに何かすることがあると言う訳でもなく、暫くは自由にすればという事だったので、その間にレーグニックから用意してもらったアイテムを試すのも含めて、今拠点としている町の周囲にある村や町を自分の足で情報収集することにした。
俺がレーグニックにもらった物は二つ。
一つは俺からの要望でアイテムバッグという収納袋だ。
収納袋と言ってもただの袋ではない、これはジェームスの持っていたスキル「アイテムボックス」に似た特性を持っており、スキルのアイテムボックス程の容量はないが、ある程度の物を小さな袋に収納できる便利な代物だ。
アイテムバッグの存在は以前から知っていたが、非常に高価な代物でおいそれとは手が出せない物だった。
今は無理だがいずれは買おうなどと商人時代ジェームズ達と話なんかをしていたこともあったが……まあ、それも今は昔の話だ。
そしてもう一つはレーグニックが指名手配対策として持ってきた
これを頭にふりかけると暫くの間、自分の毛の色を真逆の色に染めることができるらしい。
簡単に言えば毛染めの液体だ。
こちらも高い値段で取引されているようだが正確な市場価格はわからない、何故ならこれは本来
科学技術の発展のないこの世界では髪の色も相手の特徴としてとらえる者が多い。俺の指名手配も赤髪と紅の瞳が特徴的に描かれていた。
なので、少し髪の色を変えるだけでもある程度姿を誤魔化すことができる。
その為、今の俺と同じように指名手配犯や、犯罪を行う際の変装の時によく使われることからこの国ではこの液体の使用は禁止されている。
どちらも買おうとすればかなりの高額な物だが、レーグニックいわく押収品をくすねてきたから気にしなくて良いと言うことだったので遠慮なく受け取っておく。
俺は早速もらったアイテムバッグの中に道の途中に見つけた薬草を片っ端から詰め込んでいく。
薬草なんて大した大きさでもないから余り効果は実感しにくいが拾わないよりはマシだろう。
こんな物でも大量に売ればそれなりに金になるはずだ。髪の色が変わったことと、あの似てない人相書きのお陰で店に入ることくらいはできるだろう
流石にギルドに行ったりや露店を開くと言った表立った行動はできないが。
まあ、いざとなれば他の四人に売ってもらえばいいだけだからな。
四人は俺と違って無能でもなければ犯罪者でもないので、今は冒険者をしている。
なので基本は別行動で金を稼ぐ形になるが、いざというときは力位は貸すつもりだ。
俺は薬草を拾いながら道を進んでいく……
「……つけられているな。」
山道も中枢に入った辺りから、後ろから何やら人の気配を感じとる。
俺程度の奴にバレるくらいだ、尾行はあまり上手くないようだ。
数はわからないが、多くはない。まだ襲ってこないのは、一人の俺に襲う価値を見出せないのか、それか他に仲間がいてどこかで合流してから襲うつもりか?、
そしてそれは後者だと判明する。
道なりから外れた場所にある茂みが動いたかと思うと前に複数の男たちが現れる。
一度立ち止まり後ろを振り向けば、後を付けていた奴らも姿を現し逃げ道を塞ぐように立ち尽くしていた。
「へへっ、ガキ一人か、身なりは悪くなさそうだから他に家族がいるのかと思っていたが、どうやら今は一人のようだな。まあいいさ、顔だちも悪くねえし売ればそれなりの値段がつきそうだぜ。」
リーダー格の男が言うと仲間の男達もニヤニヤと笑う。
数は全部で二十、そして一人一人が中々立派な剣を携えている。
……売れば薬草なんかよりもの金になりそうだ。
「てめえら盗賊か?」
「だったらどうする?」
「そうか、なら丁度いい。てめえら痛い目にあいたくなかったら、金目の物を置いてゆけ、そしたら命だけは見逃してやるよ。」
「……は?」
俺から出た言葉が予想外だったのかその言葉を聞いた盗賊たちは一瞬ポカンと口を開けた後一斉に笑い出す。
「おいおい、てめえ今の状況をわかってねえのかよ?それはこっちのセリフだぜ?つっても俺達は金目の物だけじゃくお前事――ぶぎゃっ!」
リーダー格の男の顎を蹴りあげると、男はその場で地面に倒れこむ。
威嚇程度のつもりだったが、ケリが綺麗に顎に決まった事で、リーダー格の男は一撃で気絶してしまい盗賊たちは狼狽え始める。
「さて、どうする?」
「き、貴様よくもボスを、クソ、このガキを捕らえろ。多少なら痛めつけても構わねえ!」
倒れた男の代わりに他の奴が指揮を執って襲い掛かって来る。
……しかし、多少痛めつける程度でいいのかねえ。
――
「ホント。異世界様々だな。」
前世なら全盛期の頃でも
十年間の過酷な労働で異常なまでに鍛えられた体と無能と言う普通の人よりも高い身体能力は前世の世界を知っている俺としてはまさに人間離れしている。
まあ、向こうが弱すぎるって可能性もあったがな、訓練もした様子もなかったので剣も魔法もスキルもはっきり言って使いこなせていなかった。
元はただの村人だったのかもしれない。
……さて
「オラっ、起きろ!」
俺は気絶した盗賊達から身包みを剥ぐと、倒れているリーダー格の男の頭を引っ張り無理やり叩き起こす。
「うぅ……」
「お前、俺をどこの誰に売るつもりだったんだ?」
「そ、それは……」
尋ねると男は口を籠らせる。
「言えねえのか?先に言っておくが、俺は国の兵士でもなければ善良な市民でもない、貴様らと同類の悪党だ。黙ってるってなら容赦はしねえぞ?俺はモンスターを倒す方法よりも人間を壊す方が、得意だからな。」
そう言って指の骨を軽く鳴らす。
「わ、わかった!い、言う!この先にロスタルという街がある。そこには闇市が開かれていてそこに来る奴隷商人が攫った人間を買い取ってくれるんだよ。」
「闇市か……」
中々面白そうじゃねえか。
俺は目指す場所を決めると、白状した男に一撃入れて再び気絶させ。男の言った町ロスタルへと向かって歩きだした。
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