第35話 闇市

 盗賊達から仕入れた情報を元に進んで凡そ二日ほど歩くと、話に聞いた街、ロスタルが見えてくる。

 外壁に囲まれているので中は見えないが、その外壁を見る限り大きさはそこそこあるようだ。


 入り口となる門の前では当然のごとく門番をしている衛兵がおり、外からくる者を検問している。

 見たところ統治などはしっかりしている様に見える、こんな所に闇市なんてあるのかと思うが、まあ抜け道くらい、いくらでもあるか。


 とりあえず俺も街に入る事にする。

 幸い商人時代に作った身分証明があるので問題なく入れるが、いずれはこれも変えなければならない。

 なにせ名前がティアラ・レクターのままだからな。

 もし俺の正体がバレた際に、この身分証明から割り出された場合、レクター一家にも迷惑がかかってしまうだろう。


 俺は町に入ると、盗賊から奪った武器を売るために街の様子を見ながらまずはどこかの商会を目指す。

 町の中は屋台やギルド、食事処でそれなりに賑わっており、少し広いところでは奴隷市場なども開催されていた。

 興味本位で少し覗いてみる。

 当たり前だがこちらは合法の様で、売られている奴隷は貧困そうな中年の男や、生気を失った目をした女性、檻の中に入れられ厳重に拘束された犯罪者奴隷などがいて、質のいいと言える奴隷なんかは中々見られなかった。そもそも合法の奴隷とされる奴等は借金や罪人などなるべくしてなった奴らばかりだ。

 

 まあ、中には騙されて借金を背負わされた者や心ない身内に売られ奴隷にされた子供ってのもいたりもするが……。

 そういうのを見ていると少し心苦しくもあるが、こういう世界だと割り切るしかない。

 俺もその一人だしな。


――


「ショートソードが二十本、全部で四千ギルだな」


 ……一本二百ギル、まあ中古だしこんなもんか。


 適当に街をぶらついた後、たまたま目に入った店で奪った武器を売る、高く買い取ってもらえることも安く買いたたかれることもなく、妥当な値段を提示されるとその値段で剣を売ることにする。

 物はついでだ、闇市のことも聞いてみるか、


「なあ、この町に闇市があると聞いたんだが。」


 その言葉を口にすると、店の店主である初老の男が表情を曇らす。


「どこでそんな話を聞いた?」

「まあ、ちょっとした伝で。で、あるのか?」

「……あそこはお前さんのような子供が興味本位で近づくところではないぞ。」

「ならあるんだな。」

「あるにはあるが、あそこは無法者の集う場所だ、下手したらお前さんが商品として並ぶかも知れん。」


 男は驚かすように言うが、特に臆することなく追及する。


「どこにあるんだ?」

「ワシの話を聞いとったか?……それとも、もしやお前さん、何かしら行かなきゃならない理由わけがあったりするのか?」


 店主が真剣な眼差しを向ける。


「いや、ちょっと冷やかしに」

「たわけぇ!」


……追い出されてしまった。


 まあ、仕方がない。そもそも裏の話を表の人間に聞こうとする事が間違いだったんだ。

 やっぱ、聞くならそう言うところに見合った人間じゃないとな。


 ……釣るか

 そう考えると、俺はそのまま人気のない路地裏へと入って行く。


 しかし、この見た目も中々不便だな。

 先程の様にもう十五になるのに未だに子供扱いされることが多い。

 この世界での十五と言えばもう成人年齢なんだがな、それに前世でも十五の時なら今よりもっと大人挽いてたと思う。

 これは遺伝なのか?親の顔も知らないから確認できないのも皮肉なもんだ。


 でもまあ、不便ばかりでもないんだがな、特に

 俺は前に立ち塞がる様にいる男二人を見る。


「へへへ、どうした坊主?こんなところに一人でやってきて。もしかして迷子か?」

「俺達が大通りまで案内してやろうか?」


 釣れた。

 ガラの悪い男が二人、あっさりと。


「闇市を探しているんだが?」

「へえ、闇市を……」

「知ってるのか?」

「ああ、もちろん知ってるさ、この街は俺達の庭みたいなもんだからな。せっかくだから案内してやろうか?」

「なら宜しく頼む。」 


 俺は男達の誘いに乗って後ろをついて行く。

 そして、しばらくして行き止まりまで連れてこられたところで襲いかかってきたので、あっさりと返り討ちにする。


「クソ、テメェただのガキじゃねぇな?」

「普通のガキが、闇市なんて行きたがるかよ、さっさと案内しろ。」

「クソ……」


 そして、今度こそ本当に闇市へと案内させる。

 男達に連れてこられたのは先ほどは逆方向の地区にあった路地裏の奥、日当たりのない薄暗い通りの端に大通りと同じように出店が並んでいた。


「着いたぜ。ここが闇市だ。」

「せいぜい自分が商品にならない様に気をつけな。」


 男達は捨て台詞を吐くとその場から立ち去って行く。

 さて、とりあえず闇市を見て回るか。


 やはり、俺がこんな所にいるのは場違いのようで、すれ違うたびに人相の悪い奴らが値踏みをする様にこちらを見てくる。

 だが、無法地帯とは言え流石にこの場で何かしてくる奴らはいないようだ。

 

 闇市の店に並ぶのはやはり公の場では売れない物ばかりで盗品や紛い物、中には毒や魔物なんかも売られている。そして、奴隷商人の店も見つける。

 どこかの町や村から攫われてきたのか合法奴隷市場比べてやはり、若い女性、子供が多くそして亜人もいる。

 特に亜人に関しては合法の奴隷市場に並ぶことすら珍しいので値段も本来の市場よりも高い。


 ……ハッキリ言って胸糞悪い、合法の市場の様ななるべくしてなった奴らと違い、ここの奴隷達は犯罪によって奴隷になった奴らだ。

 売り手もそうだがこんなところで飼う方もロクな奴ではないだろう。


 前世の俺立場なら何かしらの交渉でどうにかできたのかも知れんが、今の俺は金も地位もなく、そして何より動かせる兵隊もいない。

 よくあるセリフで世の中金じゃないとか、一人で立ち向かう者達が評価されるがそんなものは架空の話でしか通用しない。

 何かを動かすには金がいるし数の暴力に勝るものはない。

特にこの世界ではな……


 さて、一通り見れたし、そろそろ帰るか。

 流石闇市と言ったところで、並んでいたのはどれも裏で動く者としては活用性の、ある物ばかりで欲しいものもいくつかあった。

 しかし、残念ながら値段が高くどれも今の俺の懐事情では手が出せない物ばかりだ。

 

「やはり何をするにせよまずは金か。」


そう考えると、俺はその帰り道、襲ってきた奴らから金を巻き上げながら街を後にした。

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