第32話 拠点
「しかし、こうなってくるとこの場所も狭くなるな。」
改めて小屋を中全体を見渡し思う。
今みたいに全員が立っているか座っている時は特に問題はないが、ここで日夜を過ごしていくならそうはいかない。
元々倉庫として作られていた分、窓もなければ広さも四人でギリギリ横になれるかという大きさの場所だ。
そんな場所に一人でも加われば、その場は一気に窮屈になる。
「それは仕方ないっスよ、まあ雨風凌げるだけ外で寝るよりは遥かにマシっす。」
「まあそれはそうだろうが……そういえば、この町には以前お前が住んでいた家があるって言ってなかったか? 」
確かここに来る途中にマーカスがそんな話をしていた事を思い出す。
「え? まあ確かにあるにはあるっスけど。さっきも言ったように捕まっている間にそこにはゴロツキが住み着いてるっすよ。」
ゴロツキか。
まあ、長い間空けてしまったのなら、この環境的に住み着かれるのも珍しくない、か……
「そのゴロツキというのはどういう集まりなんだ?」
俺たちのように居場所のない奴らが集まっるのなら少しは話し合いの余地もありそうだが。
「路地裏に迷い込んだ人間を襲ったり、盗みを働いたりしてる典型的な小悪党っすよ。鑑定スキルでも見た限り特に目立つような
成程な。こっちも人数はいるが、二人は元はただの村人でロクに戦ったこともない奴らで、マーカスも喧嘩に関しては強くはない。万全のエッジならどうにかなったかも知れんが、武器もなく痩せこけた今のこいつじゃ複数相手は無理か。
と言うことは、そいつらを追い出すのが俺の最初の仕事でいいな。
「なら、その家に案内してくれ。」
「へ?」
「家を奪い返すぞ。」
――
「ここがマーカスの住んでた家か……」
マーカスに案内されて着いたのは、先程の倉庫と同様、裏路地の奥にポツン佇む古びた小屋だった。
小さく汚くそして、今にも強風でも吹けば潰れるんじゃないかと思うほどにボロイ。
しかしそれでも人が住むために作られた家だけあって窓はあるし、五人以上で生活できるほどの広さもあるので先ほどの倉庫よりは、住みやすそうだ。
「なんでえ、さっきの倉庫と変わんねえじゃねえか。」
「滅茶苦茶変わるっすよ! スペースも家具もあるし、なにより愛着が違うっス! あの家はアッシが子供のころから幾度となく修繕作業を繰り返し――」
マーカスが他の三人にこの家への思いを熱弁している間に、一人家の側まで近づく。
中からは下品な笑い声が漏れており、窓から覗けばまだ、日も暮れてぬうちから酒を飲んでる五人の男達の姿が確認できた。
武器も携帯してなければ、誰一人こちらに気づく様子もない。
「どうやら小屋に全員いるみたいっすね。どうしますアニキ?」
熱弁を終えたマーカスが、傍まで寄ってくると耳打ちするような小さな声で尋ねる。
「やっぱりここは、まず夜まで様子を見て寝静まった時に……」
「いや、こんな奴らにそんな面倒な事はいらんだろ。」
そう言ってマーカスの言葉を一蹴すると、俺はそのまま勢いよく家の扉を開けた。
「よう、屑ども! 急で悪いが今すぐここから出て行け。」
大きな音を立て開いた扉に、男たちは一斉に音の方に注目する。
突然乗り込んできて追放を告げる俺に唖然としていたが、すぐに我に返ると慌てて身構える。
「な、なんだてめえ!いきなり入ってきてここからは出て行けだあ?何ふざけたこと言って――はぎやぁ!」
「ごちゃごちゃうるせーんだよ。てめえらに選択肢なんてねぇ、木箱に詰められて海に沈められたくなけりゃ、四の五の言わずとっととここから出て行け! 」
「ひ、ひぃ!」
有無を言わさずに男の一人の顔面を蹴り飛ばすと、男は壁に勢いよくぶつかりそのまま意識を失う。
それを見ただけで他の奴らは、怖じ気づいたのか一切の抵抗することなく、慌ててその場から走り去っていった。
「……すげぇ、あっという間に追い出しちまった。」
「流石ティアのアニキっスね! 」
「……あんな奴ら追い出したところで何の自慢にもならねえよ。」
そう言うと俺は、奪い返した家の中を模索し始める、中は男達が住んでいただけあって、ある程度の生活用品は取り揃えられていた。
そして壁際の隅にはさっきの男たちが奪ってきたとみられる盗品らしき物が山積みに置かれていた。
「お、結構酒持ってんじゃねえか。」
「服もありますね。これなら街中を歩いてもへんな目で見られることも無くなりますね。」
それぞれが目についたものを手に取り漁り始める。
目ぼしいものはあまりないが、少なからず盗品らしい金品もあったりする。
この様子をみる限り、結構な悪事を働いていたみたいだ。
もしかしたら、ギルドの指名手配がかかっていたかもしれねえな。
そう考えると逃したのは失敗だったかもな。
まあその分はここにあるものを換金して補うか。
とりあえず、これで拠点となる場所は手に入ったか。
「よし、マーカスの家の奪還祝いだ。服もあるみたいだし、とりあえずお前ら四人はそれに着替えてこれで旨いもんでも食ってこい。」
俺はエッジ達に手持ちから三万ギル分の硬貨を渡す。
「お、おお、か、金ッス!」
「こんな大金、これだけあれば、久々に腹一杯飯が食えるぜ!」
「ティアのアニキ!ありがとうございます。」
……いつの間にか、マーカス以外からもアニキ呼ばわりされ始めているが、まあいいか。
金を手に入れた四人は手早く着替えを済ませると、エッジを先頭に足取りを軽くしながら外へと出ていった。
「……さて、あいつらが戻ってくるまでにこっちを見ておくか。」
もしかしたら中には掘り出し物もあるかもしれない、俺は引き続き山積みにされた物の物色を行っていく。
この素材は市場で高く売れそうだな、この武器は西部で見られた剣か……お?葉巻あるじゃねえか。」
こんなところでも商人としての知識が生かされるのは大きい。
些細な物でも価値を見間違えぬようじっくりと一つ一つ品定めをしていく。
「……ん?」
すると、山の中から少し高価な装飾の入った小箱を見つける。
「これは……」
中に入っていたのは物ではなく、名前の書かれた数枚の用紙だった。
その紙に書かれた名前を見ていくが、特に見知った名前があるわけでもない。
「何かのリストか? 」
こんな頑丈そうな箱に保管されていたんだ、それなりに重要な物なのだろう。
だが、それが何なのかは俺にはわからない。
とりあえずそれは一旦保留にして物色を再開しようとした直後。
後ろからガチャリ、とこの家に一つしかない外へ出入りする扉の開く音が聞こえた。
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