第22話 証拠
時刻が夕刻を過ぎた頃、俺は再びこの町のギルドを訪れる。
時間帯的に今から依頼を受ける者は殆どおらず、中にいる冒険者たちは主に依頼完了の手続きと隣につながった酒場が目当ての者達ばかりだ。
俺は騒がしい酒場を横切り、ギルドの受付嬢の座るカウンターへと向かった。
「お疲れ様です、ご用件は何でしょうか?」
「旅商人をしているレクターの者だがここの責任者と話がしたい。」
「あ、わかりました、では少々お待ちください。」
俺を依頼が完了した冒険者と間違えていたのか、要件を言うと受付嬢は一瞬、言葉を詰まらせるがすぐに了承し、奥へと入って行く。
そして数分後、戻ってきた受付嬢は申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません、今日の面会は終了したのでまた後日来て欲しいとのことです。」
「……ならば明日なら確実にいるのか?」
「えーと、それはわかりません、お忙しい方なので。」
……なる程、そう言う態度で来るか。
受付嬢の曖昧な返答で察すると、彼女の出てきた奥へ続く扉に目を向ける。
どうやら向こうもこちらの事情を分かっているようだな。
そして、こちら側の抗議は聞く耳持たないと……
名前を名乗ったのは間違えだったか。
まあいい、ならばこちらもこちらのやり方でやらせてもらう。
「そうか、だが今はいるんだよな?」
「それは……まあ?……」
恐らく余計な事は言わないように口止めを受けている受付嬢は言っても問題ない事との、線引きをしながらポツポツと答える。
「ならば、やはりいる間に会ってもらいたい。」
「ですが、今日はもう面会はしないと。」
「なら伝えてくれ、俺は会うまでここで待っているとな。」
そう言ってカウンターの隣で腕を組み仁王立ちして待ち始める。
それを見た受付嬢は渋い表情を浮かべながら再び奥へ入り、そして戻ってくると、今度はそのまま奥の部屋へと案内された。
案内された部屋には客への応対用のソファーが二つとその間にテーブルが並んであり、そのソファーの一つにこのギルドの管理者であるギルドマスターらしき小太りの男が一人座っている。
ギルドマスターなんて大層な役職の名前だけにもっと屈強な男をイメージしてたが、どちらかと言えば商人によくいる様な格好の男だ。
俺は向かいのソファーに座ると、男は俺の容姿を見て、なにやら安心した様にホッと息を吐き、そして少し見下したような視線で尋ねてくる。
「私がここの責任者であるギルドマスターのゴームズです、あなたはレクターさんでしたね?それで、どう言ったご用件で?」
「話は聞いていると思うが、ブラハムという冒険者に報酬未払いという理由でブラックリストと報告され、受理したようだが、それは濡れ衣で、実際は向こうが途中で護衛を放棄したのが原因だ。だから取り消しを要求したい。」
「ふむ、ではその護衛を放棄したという証拠はありますか?」
「ないな、だがその街についた際に、護衛の奴らがいなかったことは、ギルドに報告が通っているはずだ。」
「そうですね、ですが街にたどり着いたという事は護衛を達成してすぐに帰ったとも考えられます。残念ながらその理由だけでは取り消す明けにはいきませぬ。」
なんとも偏った解釈だな。
「なら、逆に向こうは依頼をこなしたという証拠はあるのか?こちらに証拠を要求するのなら、向こう側にも要求するのが筋ってもんだろ。あんたが向こうの言葉を信用した理由はなんだ?」
「それは……」
「貴族だから証拠はいらないってか?俺が知ってる限りギルドにそんな規約はなかったはずだ。」
そこを突くと、ゴームスは言葉を詰まらせる。
まあそれもそうだろう、証拠なんてものはどちらも持ってないんだ。
もしそれを理由にするならば、同じことを聞き返せば反論などできるはずもない。
ゴームスは何か反論しようと考えるが思い浮かばないようだ。
「と、ともかく、証拠がない限り、取り消しは解消できません。私は忙しいのでこれで失礼――」
都合が悪くなったゴームスは強引に話を切ろうとソファーから立ち上がる。
……が、その瞬間テーブルの上に足を叩き付ける。
部屋の中にバンッと打撃音が響き渡ると、ゴームスが思わずひぃッと情けない悲鳴を上げた。
「……てめぇ、ふざけてんのか?そんなんで納得できるわけないだろ。さあ、ちゃんと答えろ!」
ドスノ効いた低い声で怒鳴ると、これが効いたのか、ゴームスはすぐにソファーに戻る。
そして俺が先ほどまでの紳士的な態度から打って変わり、ソファーに腕を乗せテーブルの上で足を組むといった威圧的な態度を取ると、先程まで強気だったゴームスの態度も一変し、膝に両手を乗せながらポツポツと話し始める。
「……実はその……ブラハム伯爵にはギルドへの多額の寄付をもらっており、多少の問題には目を瞑れとの上からの通達で……」
ゴームスが非常に言いづらそうに説明する。
「……という事はこいつは他にも何かやらかしているのか?」
出ないとわざわざ寄付なんてしたりしないよな?
もし善意で寄付なんてする様な相手なら息子が悪さをすれば即座に連れ戻すはずだ。
と言うことはこれは寄付という名目上の隠ぺいのための賄賂に過ぎない。
「……はい、彼らはあちこちで護衛の放棄や、運搬物をくすねたりなどを繰り返しているのですが、その都度、ギルド本部の者から各地のギルドに通達が来るのです。」
なるほどな、どこの世界も上のもんが腐っているのは一緒らしいな。
「……そうか、だが、そんなことはこっちの知った事じゃない、こっちは信用してしっかり仲介料も払っているんだ。てめぇらが紹介した奴らが問題を起こしたんだから、てめえらで落とし前付けろ。」
少し説教じみた言い方になったが、この男にはしっかり効いたようでゴームスはそのまま頭を下げる。
「……わかりました、今回の向こうの要求は謝罪と未払いの報酬金を含めた賠償金という事なのでそちらはこちらで出させてもらいます。」
ま、そちらとしてはそれが一番無難だな。……ただ、それではなんの解決にもなっていないがな。
「なら、それで頼む。」
「わかりました、ご用意させていただきます。」
そう言うと、ゴーマスは金をとりに席を離れる、
そのまま逃げるかとも考えたが反省してるのか、ゴームズはしっかり金を用意して戻ってきた。
「こちらに十万ギル入ってあります、これだけあれば向こうも満足するでしょう。」
そう言って硬貨の入った袋を渡されると、俺は中にある硬貨に目を通す。
この世界の金は紙幣ではなく全て硬貨になっていて銅貨が百ギル、銀貨が千ギル、そして金貨が一万ギルとなっている。
俺は袋の中の金貨を全て取り出す、入っているのは金貨が十枚、紙幣よりも数えやすくて助かる。
「……確かに」
俺はそれを、半分だけ袋に入れると、残りの半分をゴームスの方へ返す。
「あの、これは?」
「依頼の前金と仲介料だ。今、ここで一つ、
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